連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


2014年の日本経済を一口で言うと、前半は好調・後半は波乱と足踏み

明けましておめでとうございます。2014年の日本経済を一口で言うと、前半は好調、後半は波乱と足踏みといった1年でした。2015年の日本経済はどのような展開が予想されるでしょうか。

まず2014年から振り返ってみましょう。2012年末からアベノミクスの効果で景気回復が始まっていましたが、その流れが消費増税前の2014年3月まで続いていました。特に3月は駆け込み需要で消費が大きく盛り上がりました。

ところが4月以降は一変します。消費は大きく落ち込み、次第に景気も停滞感が強まっていきました。それでも、4~6月頃までの落ち込みはある程度予想されていましたので、多くのエコノミストも政府も「まあ7月頃から回復するだろう」と見ていたのですが、予想に反して夏が過ぎても秋になっても消費が一向にせず、少し様子が変わってきたというのが当時の雰囲気でした。このままでは、せっかく回復してきた景気が腰折れしてしまう恐れがある――その危機感が11月の安倍首相の消費税再増税延期と解散・総選挙を決断させたのでした。

年末近くになって原油価格が急落し世界経済に波乱を呼び起こしました。ロシアのルーブルが暴落し、一時は世界同時株安となりました。これも日本の景気にとって不安材料となりました。

こうして2014年を振り返ると「2015年も厳しい年になるのではないか」と思う人が多いかもしれません。しかし私は必ずしもそう見ていません。むしろ日本の景気回復が一段と進み株価も上昇が続くと予想しています。

そもそも2014年の景気が低迷したというのは本当か!?

そもそも2014年の景気が低迷したというのは本当でしょうか。まずそこを検証してみましょう。日経平均株価の推移を見ると、昨年末に1万6291円の高値をつけた後、たしかに年明けに大幅下落してから年前半は低迷が続いていました。しかし6月頃から徐々にではありますが回復傾向をたどり、1万8000円台まで上昇しました。

つまり景気の停滞感が強かったはずの年後半に株価は逆に回復していたわけで、昨年末から1年間の株価上昇率は10%近くに達しています。2013年の株価が年間で57%上昇という異例の上昇率を記録したものですから、どうしても2014年は「株価低迷」というイメージが強くなりがちですが、10%上昇というのはかなりの好成績なのです。株価は心理的に人々の景況感に大きな影響を与えますので、これが「今年の景気は低迷した」というイメージにつながっていると思われます。

生産や輸出はこのところ持ち直しの兆し、何より雇用が格段に改善

では景気が低迷したと思われたのに、株価はなぜ上昇したのでしょうか。それは実は景気の実態がイメージほど落ち込んでいなかったからです。消費などが落ち込んだのは事実ですが、生産や輸出はこのところ持ち直しの兆しが見えますし、何より雇用が格段に改善しています。

例えば、年末に発表された11月の有効求人倍率は1.12倍と実に22年半ぶりの高水準に達しました。有効求人倍率は求職者1人当たりに対して求人数がどれぐらいの倍率があるかを表すもので、その倍率が多いほど雇用情勢が良好なことを示しています。アベノミクスが始まる直前の2012年10月は0.82倍でしたが、毎月のように上昇してきています。2014年6月に1.10倍に達した後は横ばいでやや足踏みでしたが、11月に1.12倍と一段と上昇したのでした。22年半ぶりの高水準ということは、バブル崩壊直後の水準まで回復したことを意味するわけで、いかに雇用情勢が良くなっているかがわかります。

このように景気の足腰はむしろ強くなっていると言えるほどなのです。市場はそこに着目し、今後も景気回復の流れは途切れないと読んだからこそ、株価上昇が続いたのです。株価が上昇すれば、今度はそれ自体が経済的効果を生みます。株価上昇によって個人や企業の心理が好転し、消費が増えたり設備投資が活発化するのです。

日経平均株価は2万円の大台達成の可能性 - この見通しを後押しする4つの要因

2015年はそのような株価上昇と景気回復の好循環が続き、日経平均株価は2万円の大台達成の可能性が高いと見ています。この見通しを後押しする4つの要因があります。

まず第1に政策です。総選挙で圧勝した安倍首相はアベノミクスを加速させることに注力すると見られます。2014年末に景気をてこ入れするための経済政策を決定し、それをもとに2014年度補正予算案の編成に取りかかっています。これに先立って2014年10月末には日銀が追加緩和を決めており、これらの効果がじわじわと広がっていくことが予想されます。

第2は賃上げの動きです。これまで「賃金が上がっていないので景気回復の実感がない」「消費増税と物価上昇の方が大きいので、生活は苦しくなっている」などの声が聞かれます。確かにその通りですが、2015年はそれなりの賃上げが期待できる情勢になってきています。12月の総選挙終了直後に安倍首相は経済界・労働界の代表と会談し、「2015年春の賃上げ」を要請し、政労使が「賃上げに最大限の努力をする」との合意文書をまとめました。このようなことを文書にするというのは極めて異例です。もちろん最終的には個々の企業経営者の判断次第ですが、賃上げに向けた環境が例年以上に整ってきたことは確かです。

第3は原油価格の下落です。これについてはこの連載で何度か書いてきたように、一時的にはロシア危機の再来を連想させてルーブル暴落や世界同時株安を招きましたが、基本的には原油価格の下落は日本経済にとってはプラス材料です。物価の安定、企業の原材料コストの低下、貿易収支の改善などの効果が期待できるからで、2015年の日本経済を支える要因となるでしょう。

第4はアメリカ経済の好調です。アメリカの代表的な株価指数であるダウ平均(ダウ工業株平均株価)は年末についに1万8000ドルの大台に乗せ史上最高値を記録しました。株価上昇の勢いは衰えを見せず、各分野の景気指標も好調な数字が続いています。こうした景気拡大を背景にFRB(米連邦準備理事会)は2014年10月に量的緩和を終了し、2015年には利上げが確実視されています。

しかし同時にFRBは利上げを急がない姿勢も明確にしており、これが市場の安心感を生んで、さらなる株価上昇につながっています。一方で、利上げ予想は為替相場でドル高要因となっており、これが円安の要因にもなっています。日本にとっては株高・円安という理想的な展開になっているのです。2015年も緩やかな円安が進む可能性もあるでしょう。実体経済の面でも米国経済の好調が続けば輸出増加などが期待できます。

2015年はアベノミクスの真価が試される年

以上の4つの要因には逆にリスクも含んでいます。アベノミクスはまだまだ課題が多くあります。成長戦略のさらなる推進、規制改革などが欠かせませんが、それらが不十分なままで終われば失望感が広がるおそれがあります。まさに2015年はアベノミクスの真価が試される年になりそうですが、もし何らかの政治的要因で安倍政権の求心力が低下すればアベノミクスの推進力も失われてしまいます。原油価格についてはロシアへの懸念や他の産油国や新興国への悪影響も注視する必要がありますし、原油価格そのものの先行きも不透明です。アメリカの景気失速の可能性がないわけではありませんし、欧州は低迷、中国は失速の懸念がつきまといます。

このようなリスクも常に頭に入れながらも、全体として日本経済は着実に回復していく可能性が高いと見ています。そうなれば、いよいよデフレ脱却と日本経済の本格的復活が視野に入ってくるでしょう。それが現実になることを願いつつ新しい年を切り開いていきましょう。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。