【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

16 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?

16/91

連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


「日経平均株価」上昇の4つの背景とは?

日経平均株価がついに2007年7月の高値(1万8261円)を上回り、2000年5月以来の約15年ぶりの高値をつけました。2007年7月の高値を上回ったのは2月19日(木)でしたが、その後の20日(金)、23日(月)も上昇を続け、一時は1万8500円台に乗せました。この動きは、バブル崩壊後に長く続いた株価低迷に終わりを告げるもので、長期的な株価上昇に転換したことを示しており、大きな意味があります。

最近の上昇には4つの背景があります。第1は、国内景気の持ち直しがここへきて鮮明になってきたことです。最近発表された経済指標をみると、10-12月期GDPが前期比・年率換算で2.2%増と3期ぶりにプラス成長となったのをはじめ、2014年12月の有効求人倍率が1.15倍と約23年ぶりの高さ、1月の輸出額が17.0%増と大幅に増加など、景気が着実に回復しているデータが相次いでいます。

さらに今年春の賃上げが昨年を上回る見通しになってきたことも追い風です。自動車や電機など主要労組の要求提出が相次いでいますが、会社側もある程度はこたえる姿勢を示しています。これまで日本の消費にとって、実質賃金がまだマイナスであることが最大の弱点と言われてきましたが、今年4月以降はプラスに転じる可能性も出てきたのです。

第2は原油安のメリットが出始めてきたことです。これまでは価格下落があまりにも急激だったため、それによる混乱や不安感から株価が下落する場面が続きましたが、それも落ち着いてきて、これからは原油安の本来のメリットが広がることへの期待が高まっています。

第3は企業の業績回復が一段と鮮明になってきたことです。1月下旬から2月中旬にかけて上場企業は2014年4-12月決算を発表しましたが、日本経済新聞の集計によれば経常利益は7%増と堅調で、2015年3月期通期でも増益となる見通しです。こうした業績回復を背景に増配を打ち出す企業が相次いでいることも投資家に歓迎されています。

第4は世界的な金融緩和の流れです。1月にECB(欧州中央銀行)が量的緩和をきめたのをはじめ中国や新興国が金融緩和を打ち出し、その数は十数カ国に上っています。昨年までは米国の量的緩和終了と利上げが懸念材料とされていましたが、米国が利上げを急がない姿勢を見せていることも好材料です。

消費増税後の停滞を抜け、「デフレ脱却と日本経済再生」が走り始めた!?

こうして株価が約15年ぶりの高値をつけたわけですが、重要なことはその背景がいずれも一時的なものではないということです。景気の持ち直しは、日本経済が昨年の消費増税後の停滞から抜け出しつつあることを示していますし、企業業績の回復は各企業が事業の見直しや構造改革などを続けてきた成果であり、日本企業が競争力を取り戻しつつあることを示しています。これらはアベノミクスがめざす「デフレ脱却と日本経済再生」に向けて再び走り出したことを意味しており、株式市場がそれを読み始めたのです。

日経平均株価の長期的な推移からも、それを読み取ることができます。バブル崩壊後の株価の推移を振り返ると、今回以前に株価の回復局面が3回ありました。

1回目は1996年6月で高値は2万2666円、2回目はITバブル期の2000年4月で高値は2万833円、3回目がサブプライム危機が起きる直前の2007年7月の1万8261円でしたが、いずれも前回の高値に届かないままで終わってしまっていました。そして3回の回復局面の高値を線で結ぶと右肩下がりのラインになって、それが天井のようになっていました。

長期的な上昇相場に転換、株価は新しい局面に

これまでは株価が回復しても3回ともその天井に押し戻されていました。しかし今回は初めてその天井を超えて、前回の高値を超えたことになります。つまりこれまでの長期的なトレンドが転換したことになり、株価は新しい局面に入ったと言えるのです。

過去3回と今回との違いはどこからきているのでしょうか。1回目の回復は景気対策で一時的に景気が上向いたことが要因でしたが、バブル崩壊による金融機関の不良債権問題はほとんど手つかずでした。2回目も景気対策で景気が持ち上げられたとことに、ITバブルという"神風"が米国から吹いてきたおかげでしたが、ITバブル崩壊とともに株価も下落に戻ってしまいました。この時も不良債権問題は解決していませんでしたし、デフレに陥ったままでした。

3回目は小泉構造改革や米国の住宅ブームなどが背景です。不良債権問題もほぼ解決しました。しかしデフレからは脱却していませんでした。

このように3回とも、バブル崩壊による構造的な問題が解決していない中で、景気対策や米国からの追い風などによって、一時的な株価回復となったものでした。しかし今回はアベノミクスによってデフレから脱却しつつあります。民間企業も構造改革に取り組み競争力を回復しつつあります。つまり一時的な景気対策などで持ち上げられているのではなく、構造的に改善に向かっているという点がこれまでと根本的に違うのです。

日銀は徹底して金融緩和を実施中、今回の回復局面は長続きする可能性が高い

もう一つ、過去3回との重要な違いがあります。それは政策です。たとえば2回目の高値をつけた2000年4月は、その頃から日銀の速水総裁(当時)が「景気は回復した」としてゼロ金利解除に積極的な発言をするようになり、日銀は8月にゼロ金利解除に踏み切りました。これは政府や多くのエコノミストの反対を押し切って強引にゼロ金利解除を決めましたが、明らかに失敗でした。

3回目の高値の際も日銀が株価回復を終わらせる一因を作りました。2005年の郵政解散をきっかけに株価上昇が本格化したのを受けて、日銀は2006年3月に量的緩和を解除し、続いて2007年まで連続的に金融引き締めを実施しました。この後の株価下落の最大の原因はサブプライム危機の表面化ですが、日銀の金融引き締めも大きく影響していたことは間違いありません。

これら3回に対して今回は、日銀は徹底して金融緩和を実施中です。政府も消費増税第2弾を延期しアベノミクスを推進中です。こうしてみると今回の回復局面は長続きする可能性が高いと見ることができるわけです。

日経平均株価の次の"目標"は2回目の高値である2万833円、年内に達成可能か!?

株価というものは面白いものです。株価は景気や政策など様々な要素を反映するので「経済を映す鏡」と言われます。それは現在の経済の姿だけではなく、その鏡に映った株価を見ることで経済の先行きも見ることができるのです。今回の高値更新は、まさに今後日本経済が長期的回復していく姿を映し出していると言えるでしょう。

日経平均株価の次の"目標"は2回目の高値である2万833円ということになりますが、それもおそらく年内に十分達成可能だと見ています。もちろん懸念材料は数多くありますので、1本調子ではいかないでしょう。しかし過度な楽観は禁物ですが、株価は長期的には本格的な上昇局面に入ったと見ていいのではないでしょうか。

そしてそれを確かなものにするには、さらなる政策の後押しが必要です。その核になるべきなのは、やはり成長戦略をもっと充実させるとともに加速させることです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

16/91

インデックス

連載目次
第91回 28日衆院解散 - 消費増税などが争点、一転して「自民vs小池新党」の構図に
第90回 米債務上限引き上げ・デフォルト回避で安心感 - しかしトランプ大統領と身内・共和党の溝広がる
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

もっと見る

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事