連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


景気判断で最も重要な指標の一つ、「鉱工業生産指数」が上昇傾向を強める

日経平均株価が2月19日に15年ぶりの高値をつけましたが、その後も株価は上昇が続いています。普通なら目標達成感が出ていったん下げてもおかしくないところですが、利益確定の売りを吸収しながら着実に株価を切り上げており、地合いの強さを感じさせます。

前回のコラムで、今回の高値更新の4つの背景をあげましたが、そのうち「国内景気の持ち直し」について詳しく見てみましょう。実はその後、新しい経済データが発表されました。経済産業省が2月27日に発表した1月の鉱工業生産指数が前月比4.0%増という高い伸びを示したのです。鉱工業生産指数は全国の製造業など約2万社を対象に生産、出荷、在庫などのデータを集め、それをもとに生産の水準を指数化しているものです。生産の増減は景気を敏感に反映するとともに、生産の状況が景気に影響を与えるため、景気を判断するうえで最も重要な指標の一つです。

同指数の最近の動きを見ると、アベノミクスの始まりとともに2013年は上昇しましたが、昨年4月の消費増税を控えて同2月から下がり始め、秋ごろまで低下が続きました。しかし昨年秋以降は徐々に持ち直し、特にここへきて上昇傾向を強めているのが分かります。

輸出も増加傾向がはっきりしてきました。これまで「円安なのに輸出が増えない」と言われ、このことが消費増税の影響と並んで景気低迷の要因と言われてきましたが、そこから抜け出してきたようです。

株価のトレンドを見れば、必ず何らかの経済の実態が反映

しかし今回の株価上昇はそうした目先の動きを反映しているだけではありません。前回のコラムで「バブル崩壊後に長く続いた株価低迷に終わりを告げ、長期的な株価上昇に転換した」と書きましたが、このような歴史的な視点で見る必要があります。

そもそも「株価は経済を映す鏡」という言葉があります。その意味は、株価は経済活動のさまざまな要素を反映して変動するので、経済の実態が株価に映し出されているということです。各種の経済指標や企業の業績、金利動向や為替相場、海外経済から政策、時には政治や戦争など実にさまざまな要因によって株価は変動します。それらが集約されて株価が形成されるのです。ですから、株価の動きを見て、それがどのような経済の実態を反映しているかを判断することが大事になってきます。

よく「株価は投機で動くので、経済の実態とかけ離れている」と言われます。確かにそのような場面はよくあります。しかし個々のある局面の瞬間だけを切り取って見るのではなく、あるいは個別の銘柄だけを見るのではなく、相場全体の動き、ある一定期間を通した株価のトレンドを見れば、そこには必ず何らかの経済の実態が反映されているものです。今回の「15年ぶりの高値更新」という"鏡の中の姿"は、日本経済が長期的な低迷から脱却しつつあるという歴史的な転換を、まさに映し出していると言えます。

株価という鏡は、現在の姿だけではなく先行きの姿も映し出す

「株価は経済を映す鏡」という言葉には、もう一つ重要な要素があります。株価という鏡は、現在の姿だけではなく先行きの姿も映し出しているということです。投資家は株式を売買する際、現在の状況だけでなく今後の見通しを判断して取引を行います。たとえばある経済指標が良かったとの発表があった場合、普通なら日経平均株価は上昇しますが、常にそうとは限りません。先行きは悪化するとの予想から株価が下落するケースもよくあります。つまりこの場合の株価は「良い」という現在の姿よりも「今後は悪化する」という将来の姿を映し出しているわけです。

そのようにして形成された株価それ自体が景気に影響を与えるという側面も重要です。株価の上昇が続けば、株を保有している人はもちろんのこと、保有していない人々の心理も前向きになり消費行動が積極的になる傾向があります。こうした現象を「資産効果」と言います。アベノミクスが始まった2012年末からまず株価が急上昇し、それにつれて消費増税前の2014年3月まで消費が増加したのは、その典型例です。

株価が上昇しても一般庶民には関係ない!?

これもよく「株価が上昇しても一般庶民には関係ない」という人がいます。しかし一定の期間、株価上昇が持続すれば、やがてその経済的効果は表れるものです。「そんなことを言われても実感できない」と思う人は多いかもしれませんが、逆に株価が下落した場合のことを考えてみれば、納得されるのではないでしょうか。バブル崩壊時も株価の急落がまず始まり、その後に不況が長期化したわけですから。

過去を振り返っても、株価のトレンドが下落から上昇へ、あるいは上昇から下落へと転換してから、数か月~1年程度で景気の好不況が転換しています。たとえば、2008年9月に起きたリーマン・ショックで大不況になったわけですが、日経平均株価はその1年余り前の2007年7月をピークに下落し始めていました。またリーマン・ショック後は、株価が2009年3月10日に安値をつけた後は徐々に回復し始め、景気はその翌月の4月から回復が始まっています。

今回の高値更新、日本経済が長期的に上昇波動に乗っていく姿を映し出す

このようにして見ると、実は株価は景気の先行指標という性格を持っていることがわかります。その観点から言えば、今回の高値更新は最近の景気回復を反映したものであると同時に、この株高がさらに先行きの景気拡大をもたらす効果があることを示しています。大きな流れでとらえるなら、日本経済が長期的に上昇波動に乗っていく姿を映し出しているとも言えるのです。

世の中には株価についての軽視や誤解が多くあります。特に株価が上昇すると、すぐに「バブルだ」とか「投機だ」といった論調が一部メディアからも聞こえてきます。しかし先ほどから強調しているように、株価の持つ意味と影響は大きいものがあります。株価は「経済を映す鏡」であり「景気の先行指標」という基本に立ち返って、株価が示している経済実態の現状と先行きについてのサインを読み取ることが重要なのです。しかもそれは目先の短期的な動きではなく、長期的な視点で、ということを付け加えておきたいと思います。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。