Googleの日本法人が2019年5月、「渋谷ストリーム」に移転する。米Alphabetと米GoogleでCFO(最高財務責任者)を務めるRuth Porat氏が11月17日、渋谷のセルリアンタワーホテルで明らかにした。
現在拠点がある六本木ヒルズでは、7フロアにおよそ1300名の社員が在籍しているが、渋谷ストリームでは14~35階のオフィスエリアを丸ごと借り上げ、将来的に2倍の人員(2600名程度)が収容できる見込みだ。現時点で具体的な増員計画はないとしているが、最新のICT設備と自由な働き方にあわせたオフィスレイアウトの検討などを行う予定だ。
渋谷の大規模再開発が契機に
会見を行ったセルリアンタワーは、Google日本法人が2001年に設立されてから、2010年に六本木ヒルズへ移転するまで10年弱いた「思い出の地」。日本企業ではミクシィやサイバーエージェント、米企業でもGoogle以外にAmazon.comなどがオフィスを構え、かつては「ビットバレー」と呼ばれていた。
しかしその後、GoogleとAmazon.comが渋谷を離れる。特にGoogleが現在入居する六本木ヒルズには、AppleやGREE、メルカリ、ポケモンなど、IT関連企業が集積。その周辺にもITベンチャーが多く集まり、さながら「第2ビットバレー」とも言える状況だ。もちろん、渋谷には現在もサイバーエージェントやDeNAなどがあるものの、LINEが新宿ミライナタワーへ移転するなど、必ずしも活気があるとは言い難い状況にあった。
そうした状況ながら、今回Googleが渋谷へ移転を決めた背景には、大規模再開発があるとみられる。Porat氏が「渋谷には都市再生プロジェクトがある」と触れたように、2027年までに「駅街区」や「南街区」「道玄坂街区」「桜丘口街区」など、広域では10以上の再開発プロジェクトが並ぶ。大規模ビルが少ないことで成長したIT企業の流出が続いていた渋谷にとって、今後も同様の移転は続く可能性がある。
今回、渋谷ストリームを手がける東京急行電鉄は、JR東日本などと共同で渋谷駅ビルを再開発しているほか、竣工済みの渋谷ヒカリエも運営する。渋谷ヒカリエは、今年4月にLINEという大口顧客を失っただけに、渋谷ストリームへのGoogleの"帰還"は東急にとっても大きな意味を持つだろう。
ITの「六本木離れ」続く
一方で空洞化が懸念されるのは六本木地区。2016年10月にヤフーが東京ミッドタウンから、東京ガーデンテラス 紀尾井町 紀尾井タワーへ移転。Googleも流出となれば、「辞めGoogle」などのエンジニアが集積していたベンチャー企業の移転も続く可能性がある。
幸い、事業が大きく拡大し、さまざまな方面から人材の流入が続いているメルカリや、依然として国内市場で圧倒的なスマートフォンのシェアを持つAppleが六本木ヒルズにいるため、運営する森ビルとしても当面はそれら企業へのオフィス供給で場をしのげるはずだ。
ただ、前述の「ヤフー跡地」には割り勘アプリ「paymo」を提供するAnyPayが入居者として目立つ程度であり、大型の入居者が依然として現れていない。また直近では、トヨタが六本木ヒルズに通うITエンジニアを狙い撃ちした広告を掲載するなど、「脱六本木」に流れが傾き始めている。
さらに、都心は2020年の東京五輪、そして2027年のリニア開業に向けて大規模再開発が続々と進む。リニア始発駅の品川駅に近い「品川・田町地区」や、日本一の390mビルを含む再開発が続く、東京駅周辺の「丸の内・八重洲・日本橋地区」など、当面はITを問わず本社移転などの流れは続くだろう。
IT企業においても、三菱地所が大手町ビルで「FINOLAB」と呼ぶフィンテック向けコワーキングスペースを開設しているほか、Googleが入居する渋谷ストリームも4階にクリエイター向けインキュベーションオフィスを設置。IT企業の争奪戦は今後も続くとみられる。