2020年から、小学校でプログラミング教育が必修となるが、学校側では準備できているのだろうか?――プログラミングを公教育に普及させることを活動目的とする一般社団法人 みんなのコードが12月11日、都内でシンポジウム「Hour of Code Japan 2016 TOKYO EXPO」を開催した。集まった約115人の教育関係者は、教育向けソリューションの説明に熱心に聞き入っていた。

マインクラフトからセキュリティまで、プログラミング教育関連のツールが結集

みんなのコードは公教育におけるプログラミグ必修化を推進することを目的に、2015年夏、代表理事の利根川裕太氏が立ち上げた一般社団法人だ。今回のイベントは12月が世界的に「コンピューターサイエンス教育週間」であるにちなみ、開催された。

一般社団法人 みんなのコード 代表理事 利根川裕太氏

午前の部では親子向けにプログラミングを楽しめる時間を設け、午後は学校など教育関係者向けのセミナーで構成された。午前と午後、合計で約420人が参加した。

午前の部に参加した小学校5年生のはると君は、3Dモデリングの教材で、タブレットを使って約10分間で立体を作成して見せていた。「学校でも「こんな授業があったら楽しそう」と語る。お母さんがイベントを知ったことがきっかけで参加したそうで、「将来、英語とプログラミングは知っていて当たり前になと思っている」と同行した母親は参加の動機を語っていた。

出展した企業は、みんなのコードに協賛している企業11社で、日本マイクロソフト、レゴジャパン/アフレル、富士電機ITソリューション、Makeblock Japan、アーテック、ヤマハ、シマンテック、翔泳社、for Our Kids、アシアル、日本事務器。

日本マイクロソフトは、今年発売を開始したばかりのマインクラフトの教育版を紹介した。子供達たちに人気のマインクラフトだが、教材として見た時のメリットは「自ら作る、発見することができる」「複数の子供が1つの環境でコラボレーションやコミュニケーションができる」「自分の世界の中で発明ができる」などがあると説明する。これにより、アクティブラーニングを実践できると紹介した。

レゴジャパン/アフレルの「LEGO WeDo2.0」、すでに世界2万学校で導入実績を持つというMekeblock Japanの「mBot」、アーテックの「アーテックロボ」などは、ブロックや用意されているパーツを使って作り、これをプログラミング(多くはMITのビジュアルプログラミング言語「SCRATCH」ベース)して操作するものだ。

富士電機ITソリューションは、3D空間でものを作る「作ってみよう」を紹介、3Dプリンターが設置されている場合はそのまま作成したモデルを3D印刷に回すことができる。ヤマハは、初音ミクで有名になった歌声合成技術ボーカロイドの教育版を紹介した。

自分たちの子供向けにプログラミングを教えるワークショップをやっていた人たちが集まってできたというfor our kidsはインターネットもPCも不要の「PETS」を紹介した。色々な方向が描かれたブロックを差し込むことでその通りにロボットが動くというものだ。

モバイルアプリ開発については、アシアルがセットアップ不要、iOSとAndroidと複数のOSに対応するなどの特徴を持つ開発ツール「Monaca」を紹介した。一般企業をはじめ、すでに16万人が利用するツールだが、学校の先生が発見して使い始めたのがきっかけで教育市場でも利用が進んでいるという。すでに500以上の教育機関で利用されているとのことだ。

システム側では、日本事務器がクラウド型ストレージ「Pholly」を紹介した。レポートや講義資料の配布や評価が可能で、共有のためのファイルサーバー機能もあるという。

『ルビィのぼうけん』を出版する翔泳社は、著者リンダ・スカウス氏の出身であるフィンランドの動向を紹介した。『ルビィのぼうけん』は「アンプラグド」教材、つまり、コンピューターやインターネットなしに、読み物としてプログラミング的思考を学習できるものだ。プログラミング思考の義務教育化が始まっているフィンランドでは、1・2年生はアンプラグドでプログラミングの学習をし、3年生になってSCRATCHをスタート、ロボットベースのプログラミングへと発展するという。

シマンテックはコンピューターとインターネットを使う上でのセキュリティ対策を紹介した。

これら11社に加え、みんなのコード自身もブースで子ども向けのプログラミング教育普及活動「Hour of Code」を紹介した。 Hour of Codeは世界で利用されている教材で、みんなのコードはその国内のオーガナイザーを務める。Hour of Codeを推進する母体は、米国のNPO Code.org、米Obama大統領、Facebookの共同創業者兼CEOを務めるMark Zuckerberg氏、Microsoftの共同創業者であるBill Gates氏が賛同するプログラミング教育推進運動だ。協力企業の下で、「Angry Birds」や「Star Wars」といった子どもが慣れ親しんだキャラクターをベースに、SCRATCHベースの簡単なプログラミング教材をそろえる。

熱心に展示ブースで説明を聞く教育関係者。関東圏を中心に約120人が参加した

プログラミング必修化の背景は?

みんなのコードを正式に立ち上げて1年半、大きな追い風が吹いているという利根川氏は、4月に政府が決定した2020年のプログラミング必修化の議論に関わった1人でもある。必修化では、小学校では体験的に学習する機会の確保、中学校ではコンテンツに関するプログラミング学習が取り組みに挙がっている。利根川氏はこの経緯について、文科省主導というより、産業競争力会議の「第4次産業革命に向けた人材育成総合イニシアティブ」で進んだものである点と述べた。

そして、必修化の背景として、「人工知能、IoT、ロボットなどにより社会が変わる中で、社会の構成員を作る学校も変わらなければならない」「ロボット掃除機などプログラミングが身近なところで使われている中で、仕組みを理解しておく必要がある」「特定の言語というよりも、教養としてのプログラミング言語的な思考が必要」の3つを紹介した。

中でも、3つ目のプログラミング的思考とはどういうものか。プログラミングは1度で思い通りにいかないもので、継続的に改善しながら自分が意図する活動を実現するように近づけていく。このような力が、将来どのような職業に就くとしても必要であると考えられている、と利根川氏は説明した。

興味深い話も聞かれた。会議は「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」として、学校教頭教諭、大学教授、民間企業、NPOから合計16人で構成されたが、それぞれ意見の違いがある中で「全員がうなずいた瞬間があった」と振り返る――学習指導要領が改訂されるのは10年に1度、2020年に使われる指導要領は2030年まで改訂されないことになる。

「意見がバラバラなこともあったが、2030年の世の中がどうなっているのかわからないという点では全員が一致した。有識者、最先端の人でも未来は予測困難ということだけがわかっていると言えると感じた」と利根川氏。また、これまでの情報教育の中心だった情報リテラシー、情報スキルについては別と捉えられている点も留意した。

教科の中でのプログラミングとしては、みんなのコードが関わった事例をいくつか紹介。例えば石川県加賀市では、1時間目に生活の中でコンピューターが役に立っていることを理解し、2時間目に『ルビィのぼうけん』を用いてコンピューターの考え方を理解、3時間目と4時間目にHour of Codeでプログラミングを実際に試し、5時間目に活動をまとめる、という手順を用いたという。

集まった教師の中からは、「教育の本質である人格形成。プログラミング教育が教材の要素を抜いた時に人格形成とどうつながるのだろうか?」という質問が出たほか、学校でタブレットを使っているという中学校の教師からは「わからないからすぐに(タブレットで)調べるという生徒がいた。10分ぐらいは考えてほしかったのだが……すぐに調べるのは良いことだが、便利さの中で失うものもあるのでは」という意見も出ていた。

参加した教師は自分の体験を語ったり、質問が飛び交った