【レビュー】

政治家にならなくても社会を変える方法はある - 『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』

 

明智カイト『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社/2015年11月/780円+税)

現状の制度や法律に違和感を覚えたり、政策を実現したいと思った時に、一般市民にできることにはどんなことがあるだろうか。

まず普通に思いつくのは、選挙に行って自分の考えに近い候補者に投票することだろう。応援してくれる人がいるなら、自分自身が選挙に出馬して政治家になるというのも考えられる。あるいは、デモ行進などを行うというのもあるかもしれない(安保関連法案に反対する大学生たちが抗議デモを行ったことは記憶に新しい)。

本書『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(明智カイト/光文社/2015年11月/780円+税)は、上に挙げた方法のいずれでもない、「ロビイング」という選択肢について解説した本である。一般市民が政策を実現する方法として、ロビー活動は海外ではかなりポピュラーだが日本ではいまひとつ浸透していない。「ロビイング」という言葉自体、聞いたことがなかったという人すらいるかもしれない。

本書を読んでいくとわかるが、ロビイングは弱者やマイノリティが政策を実現するために有効かつ必要な活動である。僕たちがニュースで耳にする「◯◯法案の成立」の裏には、草の根ロビイストたちの地道なロビイングがあることも少なくない。本書を読めば、選挙でもデモでもない、社会を変えるための新しい選択肢として「ロビイング」という手段があることを知ってもらえるはずだ。

様々なロビイングの事例を元にロビイングの技術を紹介

本書は実際に日本で行われたロビイングについてのいくつかの実例(1~5章)と、具体的にロビングをするための実務的なノウハウ(巻末付録)で構成されている。

本書にロビイングの実例として掲載されているのは、自殺対策のためのロビイング(NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」代表の清水康之氏)、病児保育問題、待機児童問題のためのロビイング(認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏)、いじめ対策のためのロビイング(評論家、「シノドス」編集長の荻上チキ氏)、児童扶養手当削減をめぐるロビイング(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子氏)、「性的マイノリティ」の人々に関するロビイング(「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」代表の明智カイト氏。本書の著者)の5つであり、いずれも詳細な体験談が語られている。

日本におけるロビー活動と聞くと、日本医師会や農協、経団連などの圧力団体が政治家に対して選挙の票という力を使って圧力をかけていくというイメージがどうしてもあるが、本書のロビイングはどれも草の根的なもので、とても地道な活動である。

政治家に意見を陳情に行き、メディアに取り上げてもらえるように働きかけ、テーマの重要性を認識してもらうためにデータを集めて民間白書を作り……といった形でロビイングは進んでいく。政治家を一方的に批判するのでもなく、デモ行進のような形で権力との対決という形を取るわけでもなく、時には妥協もして利益を引き出していく。

僕自身、本書を読む前でこのような地道なロビイングの実態は知らなかったのだが、こういうやり方でも効果的に社会を変えていくことができるということを知ってとても勉強になった。

政策を実現したいのなら、政治家ではなくロビイストになれ

本書を読むことで認識が変わったのは、政治家の役割についてだ。普通、国会は国の唯一の立法機関ということになっているので、そこの議員である政治家こそが日本の法律を作っていると思ってしまう。その見方はたしかに正しい側面もあるものの、間違っている側面もある。

政治家が行う政策実現は、必ずしも政治家個人の意志によって行われているものではない。政治家の背後には所属する政党の圧力団体・支援団体がおり、そういった有権者たちの利益に反する政策の実現は難しい。結局、政策を政治家が実行に移すのは、数多くの政治主体によって背後で意思決定がなされた後であり、そういう意味では政治家は「人形」にすぎないとも言える。また、多くの政治家は政党に所属しているので、政党に縛られることも少なくない。政治家はたしかに立法に携わってはいるものの、調整事が非常に多く身動きはかなり取りづらいというのが現状だ。

一方で、ロビイストであればこのような制約はない。ロビイングは特定の政党とベッタリくっついて行うものではないので、超党派で身軽に動くことができる。本書の5つの実例では、時期的に民主党から自民党への政権交代のくだりが出てくるが、そのことでロビイングが不可能になったというケースは一例もない。本当に実現したいと思う政策があるなら、政治家になるよりもロビイストになったほうがいいという著者の言葉には説得力を感じた。

日本には、ロビイストの絶対数が圧倒的に少ないという。それ以前に、ロビイングという手段の存在自体を知る人自体がかなり少ない。著者が指摘するとおり、政治家や官僚に頼りっぱなしで、ただ批判をするだけでは世の中は変わらないだろう。本書で、「ロビイング」という社会を変える手段があることを知っていただければ幸いだ。

<著者プロフィール>
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

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