怠け者で、毎日家でゴロゴロしており、向上心がなく、社会に貢献しないダメな若者――

多くの日本人にとって、「働いていない若者」のイメージは概ねこんなものではないかと思う。テレビなどで「ニート」の特集が組まれればこういったイメージに合致した人たちが登場し、「働いたら負け」などといった象徴的なワードが主にネットを通じて拡散していく。若者が無業者になるのは基本的には努力をしてこなかった本人たちのせいで自業自得だ、といった認識をしている人は実際のところ少なくない。

しかし現実には、これは大きな誤解である。本書『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(工藤啓・西田亮介/朝日新聞出版/2014年6月/760円+税)を読むと、若年無業者のほとんどはどこにでもいそうな普通の若者であり、多くの人が抱いている「怠け者」のイメージとは相容れないことがわかる。若年無業者の問題は一部の怠惰な若者による個人的な問題などではなく、日本の社会システムが機能不全に陥っていることから発生した「社会問題」であり、問題を放置することは経済的にも大きな損失となりうる。心のどこかで「自分には関係ないことだ」と思っている人こそ、本書を手にとってみてほしい。彼らと自分との間には、それほど大きな差がないことに気がつくはずだ。

ボタンの掛け違いから若者は簡単に無業者になる

工藤啓・西田亮介『無業社会 働くことができない若者たちの未来』(朝日新聞出版/2014年6月/760円+税)

本書では、高校や大学といった学校に通っておらず、 収入となる仕事もしていない独身の15歳から39歳の若者を「若年無業者」と定義している。このような若年無業者は日本に約200万人おり、15歳から39歳の日本人のうち16人に1人は若年無業者であるという計算になる。

16人に1人ということは、たとえば40人学級なら2人か3人は若年無業者ということになる。自分の中学校のころのクラスメイトのうち2~3人が若年無業状態に陥っていると考えてみると、決して一部の人だけの特別な問題ではないということがわかる。

実際、本書の2章では若年無業状態に陥ってしまった人の事例が7例紹介されているが、いずれの若者も「どこにでもいそう」な人たちで、似たような友人を誰でもひとりやふたりは思い浮かべられるのではないかと思う。こういった「普通の人たち」が、ちょっとしたボタンの掛け違いで若年無業状態に陥ってしまう。

たとえば、ある女性は新卒で就職をしたIT企業がブラック企業で退職に追い込まれ、その後は職歴の短さと病気療養の空白期間で再就職ができず無業になってしまった。また、ある男性は社員として自分なりに精一杯働いていたのに、会社の経営の悪化で解雇され、そのまま再就職ができなくなってしまった。彼らは別に怠けていたわけではないし、ましてや「働いたら負け」などと考えていたわけでもない。元々は真面目に働いていた人たちなのに、ちょっとしたことがきっかけになって無業状態に陥り、そのまま復帰できないでいる。

レールを外れることが極端に不利になるシステム

このような特に怠けているというわけではない人たちが無業者になってしまう理由のひとつは、やはり現代の日本社会の構造にあると言わざるをえない。本書の4章では日本が「無業社会」になった経緯を雇用慣行、福祉政策などをもとにコンパクトにまとめて解説しているが、これを読めば読むほど日本ではセーフティネットがうまく機能しておらず「レールを外れる」ことの不利益が大きすぎることがわかる。

これはよく言われていることだが、日本では新卒のタイミングでうまく就職できないと未経験者が正社員として就職する機会はほぼ失われるし、いったん履歴書に空白ができてしまうと再就職は圧倒的に不利になる。新卒で就職し、そのまま勤め続けるというレールにのってさえいればある程度安定した生活が送れるが、いったん病気や雇用のミスマッチといったやむを得ない事情でレールを外れてしまうと、あとはもう転げ落ちるように悪いことが続いていく。このような経緯で若年無業状態に陥った人にたいして、「怠け者」であるとか「自己責任」であるとかいうのは果たして適切なのだろうか。すべての例について「社会が全部悪い」と言う気はないが、システムの不整合が若年無業者を生み続ける一因になっていることは否定できないのではないだろうか。

若年無業者の経済的損失

若年無業者の問題は、無業者本人たちのとって不利益であるというだけでなく、長期的に見れば社会的にも大きな損失だ。

本書の5章では、若年無業者の問題が日本の未来にあたえる影響を「社会が負担するコストギャップ」という観点で計算している。仮に若年無業者がこのまま生涯就職することができないとなると、生活保護を受けて生活していくしかない。当然ながら、その支出は社会が負担することになる。一方で、彼らが就労して生涯に渡って働くと考えると、その分社会は税金や社会保険料という形で収入を得ることができる。この生涯のコストギャップはひとりあたり約1億2,000万~1億5,000万円ということになり、このまま若年無業者を放置しつづければ経済的損失は過大だと言わざるを得ない。

このような社会的な損失を回避するためにも、まずは若年無業者の実態について正しく知る必要がある。そのための第一歩として、まずは本書を読むところからはじめてみてはいかがだろうか。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。