高田馬場駅から西武新宿線で4駅。沼袋駅北口徒歩1分の銭湯が、今回紹介する「一の湯」だ。屋号の入った白い油井型煙突は駅からもよく見える。創業は昭和25年(1950)だが、2010年に全面リフォーム。学生や単身者が多く住む中野区の駅前銭湯で25:30まで営業しており、途中下車して通う客も多い人気の銭湯である。

25:30までやっている「一の湯」には手ぶらで訪れてもOKだ

仕事帰りのビジネスマンにも優しい空間

従来の銭湯は湯を貸すだけで、シャンプーや石けん、タオルなどは個々人が用意する、というところが多かった。そんな中で一の湯は、心のこもったサービスで一線を画している。

コインランドリー併設、モザイクタイルで描かれた大きな屋号が特徴の建屋。庇のついた入り口から入れば破風造りの屋根で飾られており、男湯は右、女湯は左に進む。玄関にはルンバが走っているのも見逃せない。一の湯は番台式。気立てのいい女将さんが座っている。リニューアルする銭湯はフロント式になるのが一般的だが、番台を残すことで脱衣所の客一人ひとりをケアすることができている。

清潔感あふれる広々とした脱衣所には工夫がいっぱい。迫力満点の大型テレビの設置や、サラリーマンのためにスーツ用の縦長ロッカー、そして、軟水・硬水が選べる洗面台もある。ちなみにこの水はペットボトルなどに入れて持ち帰りもOKだ。中央には鹿威(ししおど)しのある坪庭に、個室になった喫煙室もある。そして、Wi-Fiも完備。携帯電話の充電までできてしまう。

脱衣所のほか、浴室内にはボディソープやリンスインシャンプーを常備。また、入浴の必需品であるフェイスタオルや歯磨き粉、なんとナイロンタオルまで無料で借りることができるなど、まさに至れり尽くせりだ。「より便利にくつろいでもらうために」と、ひねり出されたアイデアは個性的で、その人気を裏付けるように、脱衣所の棚には常連の風呂カゴがズラリと並んでいる。

ミントが香るミストサウナも無料

男湯のイメージ(S=シャワー)

浴室に入ると、正面には富士山と鶴をモチーフにした縁起のいいモザイクタイル画。湯は地下水を軟水化した水を利用しており、肌はツルツル、髪はサラサラに。体感では43度くらいだろうか。寒い日もしっかり温まる。

ここの「ホットバス」という設備は少し変わっていて、ボタンを押すと釜からじかに熱いお湯が出てくる。熱風呂が好きな人にもうれしい。ミントの香りがするミストサウナは無料で利用可能。肌や喉にも優しいとか。そして、男湯側には露天岩風呂も。四角く抜かれた屋根からは空と煙突がよく見える。少しぬるめに設定されているので、ゆったり時間をかけて疲れを癒やそう。

創意工夫にあふれた一の湯、最近では、脱衣所を使って「一の湯寄席」というイベントも開催するなど新しい試みにも積極的だ。便利で心のこもったサービスを展開している銭湯だからこそ、あらためて一人ひとりがマナーを見直し、みんなが気持ち良く利用できる環境を一緒に保っていければと思う。

※記事中の情報は2015年2月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。