セイコーエプソンは19日、同社のウェアラブル事業戦略について説明した。

同社・碓井稔社長は、「ウェアラブル事業によって、新たな文化を作り、世の中を変えていく。エプソンの将来を支える柱のひとつに育てていく」と発言。「ウェアラブル事業の成長を通じて、プリンタを中心としたエプソンのイメージから、世の中を変えていく企業であるという新たなエプソンのイメージへと高めていきたい。エプソンと組まないと、この市場は開拓できないというポジションを確立したい」と、ウェアラブル事業を戦略的事業に位置づけていく姿勢を改めて示した。

また、「まずは、2016年度から始まる次期中期経営計画において、売上高100億円を目指す。現時点では50億円程度の赤字だが、売上高100億円で収支がトントンになる。その後にさらなる高みを目指していく」と、具体的な事業目標についても明らかにした。

セイコーエプソン 代表取締役社長の碓井稔氏

セイコーエプソンは、長期ビジョン「SE15」のなかで掲げている新規のウェアラブル事業を成長領域と定義し、「健康・医療分野」「スポーツ分野」「ビジュアルコミュニケーション分野」を展開。エプソン独自のコアとなる技術を活用することで、「人々の生活をよりよいものにする、Better LifeStylesを実現する事業」(碓井社長)と位置づけを示した。

現在、セイコーエプソンでは、いくつかのウェアラブル機器をすでに製品化している。また、機器だけでなくクラウドサービスとの連動などにより、ウェアラブルソリューションとして提供しているのも特徴だ。

独自センサーにより手首から脈拍計測を行い、健康保険組合向けに提供している「生活習慣改善プログラム」では、歩行時の脂肪燃焼ゾーン、消費カロリー、歩数などを常時測定。「メタボ対策にはどれぐらいのスピードで歩いたらよいかなどのアドバイスが可能。利用者ではメタボ改善の効果が出ており、企業からの需要が増加している」という。

同様に、脈拍を測るウェアラブル機器では、今年1月に米CESで参考展示した「PULSENSE」があり、小型、軽量化するとともに、スマートフォンを利用して情報を可視化。個人が健康管理に役立てる提案を行っていく考えだ。PULSENSEは2014年度内に商品化する予定だという。

PULSENCEのデモを行う碓井社長。青い光がひとつの場合は正常な脈拍。平常心でプレゼンしている証だとした

また、GPSランニング機器としては、低消費電力および高精度を実現するGPSセンサーを搭載することによって高精度に位置情報を計測。ランナーの効率的なトレーニングや走る楽しさに貢献する「GPS Sport Monitor」を製品化。ここではクラウドサービス「NeoRun」を利用して、ランニングの軌跡や距離、速度、消費カロリーなどの管理、分析を行うこともできる。

さらに、モーション解析システム「M-Tracer」に関しては、ゴルフクラブのグリップに取り付けるだけで、スイングの状況を把握する「M-Tracer for Golf」を製品化。「プロゴルファーのスイングも計測できる高い精度であることから人気を博し、一部のお客様にはお届けできず、ご迷惑をおかけした。生産体制も整ったので、今後はしっかりと販売していく」とコメント。今年度1万台の出荷を目指すという。

この計測データをもとに、スマートフォンやタブレットを通じて、より遠くへ、真っすぐに飛ばすための改善ポイントをアドバイスするといった使い方も可能になるという。

GPS Sports Monitor

M-Tracer for Golf

また、同社のスマートグラスとしては第2世代となる「MOVERIO BT-200」では、従来製品に比べて約3分の1近くまで軽量化を図るとともに、シースルー化を実現。OSにAndroid 4.0を採用し、カメラのほか、ジャイロ、加速度、地磁気、GPSなどの各種センサーを搭載し、両眼で周りの状況を確認しながら、映像や情報を表示し、拡張現実によるエンターテインメントが楽しめる。

また、MOVERIO Developer Siteを通じて、デベロッパの開発を支援。数々のアプリによって、多種多様な使い方ができるようになるという。

プレゼンテーションの最中にスマートグラス「MOVERIO BT-200」を装着する碓井社長。スマートグラスにはパワーポイントの資料が表示されているという

セイコーエプソンの碓井社長は、「独創の高精度ウェアラブル機器をベースにしたプラットフォームを通じて、いつでもどこでもお客様に価値ある情報を提供していく」と同社のウェアラブル事業の狙いを語る。

その一方、"あなたのことをよく知る専門アドバイザー"として、健康・医療分野では身体情報を高い精度でセンシングし蓄積・分析することで、「生活習慣の改善」「運動療法の支援」といった役割を、スポーツ分野では身体の動きを高精度で測定し、動作や筋肉の使い方などを指導し、「記録を伸ばす」「上達する」といった役割を担うほか、ビジュアルコミュニケーション分野では「いつでも情報をまとう」「自由なスタイルで映像を楽しむ」「仕事のやり方を変える」といった、次世代型の映像を活用したコミュニケーションへの変化を提案できるとしている。

リスト型の脈拍計を身につける碓井社長。右手がPULSENCE。左手がGPS SportsMonitor

今後の製品強化としては、健康・医療分野においては、脈拍計測機能を持った腕時計型デバイスの小型化、軽量化のほか、さらに広い用途展開を想定。「誰もが簡単に健康が管理できる社会を作る」とした。

また、スポーツ分野においては、GPS機器ではランニングのほか、登山、自転車などにも展開。M-Tracerによるモーション機器では、ゴルフやテニス以外のスポーツ分野にも展開し、「スポーツの動きを可視化し、上達を支援するとともに、運動時に適切なアドバイスをすることで、スポーツをさらに身近で楽しいものに変えていく」と語る。

さらに、ビジュアルコミュニケーション分野では、MOVERIO BT-200の視覚能力の拡張や、MOVERIOアプリの活用により、映像を楽しんだり、仕事の革新といった領域での進化を図るという。