セイコーエプソンは、5月13日、2014年度のインクジェットプリンタ事業戦略を発表した。同社では、全社で取り組む「SE15後期 新中期経営計画」において、「インクジェット技術により、新次元のプリンティング環境を創造する」ことを掲げる一方、2016年度からスタートする次期中期経営計画において、できるだけ早いタイミングで、ROS(事業利益率)の合計で10%を目指す計画であり、「主柱事業であるインクジェットプリンタ事業は、さらなる利益貢献を目指す」としている。

2013年度のインクジェットプリンタの出荷実績は1,350万台。2014年度は1,450~1,460万台の出荷を目指す。

エプソンのプリンティング事業では、事業ビジョンに「あらゆるプリントをエプソンで行うことを目指す」ということを掲げている。エプソン独自のマイクロピエゾテクノロジーが持つ、幅広いインク選択肢、高い耐久性、高画質、高速化といった特徴を生かし、ホーム、オフィス、商業・産業分野などの多様な用途に応用できることを強みとしている。

セイコーエプソン プリンター事業部長の久保田孝一取締役(写真左)

「マイクロピエゾは、熱を使わない機械的な制御が行え、精密かつ正確なインク滴コントロールが可能であることが特徴。オフィスやホーム用途、サイネージやポスターのほか、捺染などの紙以外にも印刷できることがエプソンのプリンタの特徴になる」(セイコーエプソン プリンター事業部長の久保田孝一取締役)とする。

昨年(2013年)発表した最新技術の「Precision Core」は、マイクロピエゾの基本的な特徴はそのままに、独自の高精度MEMS製造技術によって実現した薄膜プリントヘッド技術であり、より高速で、高画質なプリントを可能にしている。「プリントチップ」を基本モジュールとして、これを用途にあわせて組み合わせ、産業用ラインヘッドからオフィスプリンタヘッドまで多様なヘッド構成を可能としている。プリントチップを11枚、ラインヘッド6本とを組み合わせることで、産業用ラベル印刷機にも活用している。

エプソンのインクジェットプリンタ事業は、ホーム・オフィス領域と、商業領域に分類でき、そのうち、約8割をホーム・オフィス領域が占めるという。

ホーム・オフィス領域では、「インクジェットプリンタの強みを生かし、商品構成の強化とビジネスモデルの転換、オフィス領域の開拓を進める」とする。特にホーム領域においては、スマートフォンの普及やクラウドの浸透など、ICT環境の変化にあわせた使いやすさの提供にこだわっていく。オフィス領域においては、商品ラインアップの拡充とともに、Precision Coreヘッド採用による競争力の強化に取り組むとした。

これらの領域においては、「モデルミックスと平均単価の改善、ビジネスモデルの転換による本体の採算性の改善とともに、プリントボリュームの多い顧客を獲得することによる消耗品売り上げ成長の2つが鍵になる」(久保田取締役)とする。

すでに2013年度実績においても、本体平均単価の上昇、消耗品売上高も回復するといった傾向が見られているという。

これらの取り組みにおいて重要なポイントが、エマージング地域への展開だ。

エマージング地域向けには、2010年度から大容量インクタンクモデルを投入。2013年度で270万台の出荷実績を持つ。2013年度は全体出荷台数の約2割だったが、2014年度は1450~60万台の出荷計画の約3割を占める見込みで、年間400万台を超える規模になる。

エマージング市場向けに販売している大容量インクタンクモデル(写真右)

「大容量インクタンクモデルは、当初はインドネシアから市場投入したが、現在では約130カ国で販売を行っている。大容量インクタンク搭載モデルは、低プリントコスト、連続大量印刷、エプソン純正品質による安心感を与えるといったエプソン独自の顧客価値を実現している。これにより、従来のように消耗品で儲けるビジネスモデルから、本体販売時点で利益を計上できるビジネスモデルへと転換することができている」とした。

また、「2013年度においては、大容量インクタンクモデルは、大きな成長を遂げたが、市場全体からみればまだ10%にも至っていない。市場拡大余地は大きいと考えており、大容量インクタンクモデルのラインアップ拡充と、進出した国における販路拡大を目指す」としている。

日本のオフィス市場向けに「スマートチャージ」を投入

日本市場向けにも、オフィス市場を対象とした「スマートチャージ」と呼ぶ新たな課金ビジネスモデルを用意。7万5,000枚までの大量印刷が可能な超大容量インクパックを活用することで、毎月2,000枚の印刷でも3年間交換不要という特徴を打ち出した。同様の枚数をトナーに換算すると、52回ものトナー交換が必要になるが、それが不要になる。

「大容量インクタンクモデルはテストマーケティングを行ってきたが、新興国市場ではプリントコストの低減よりも、インク交換が少ない、インクカートリッジの管理コストが不要になるという点が予想以上に受け入れられている。スマートチャージでは、交換しなくていい利便性、交換する際にもワンタッチで行える特徴を打ち出していく」とした。

さらに、オフィス向けには、「新たに事務機器チャネルの開拓に取り組む。新たなチャネルパートナーも、人件費や消耗品交換コスト、在庫コストが削減できること、課金モデルにより安定収入が見込めること、新規顧客開拓につなげられるといったメリットを訴求していきたい」と語った。

オフィス向けにはレーザープリンタが主流となっているが、「ファーストプリントの時間が短いこと、低消費電力であること、連続大量印刷ができるといった特徴を生かして、オフィス用途にもインクジェットプリンタを提案していきたい」とした。

だが、その一方で、久保田取締役は、「新規チャネルとなる事務機器チャネルは、そう簡単に開拓できるとは思っていない。時間をかけて着実に増やしていく。オフィス向けは今後も1桁台の伸びだろう。日本のみならず、世界中で事務機器チャネルの拡大に取り組む」と述べた。

一方、商業領域においては、マイクロピエゾテクノロジーの特徴を生かし、幅広いインクおよびメディアに対応。事業領域を拡大することを基本戦略に置き、サイネージやテキスタイルといったアナログ印刷が一般的な領域を成長市場に位置づけて、今後の事業成長を図る考えを示す。

エプソンはスマートチャージでオフィス向けの販売拡大を図る

日本で新たに展開するスマートチャージ向けの大容量インクタンク

7万5,000枚を印字するとトナーでは52回もの交換が必要。これだけのトナーや梱包材が必要だという

Tシャツなどへの印刷ができるのもマイクロピエゾ方式の特徴

セイコーエプソン 商業プリンター事業部・松沢哲也副事業部長

セイコーエプソン 商業プリンター事業部・松沢哲也副事業部長は、「プロ/ハイアマチュア市場やフォト・プルーフ・ポスターといった市場においては、圧倒的なポジションを確保している。ここでは競争力のある商品を投入することでシェアを拡大する。だが、2012年度に市場参入したCAD・GIS分野ではまだ開拓余地が大きい。

また、成長市場と位置づけるサイネージ、テキスタイルは2013年度から参入した市場であり、既存領域で培った高画質を強みに、生産性、信頼性のさらなる向上と、ラインアップの拡大で市場開拓を加速していく」と述べ、「商業領域においても、プリンタメーカーとしての総合力を武器に市場成長を上回るペースでシェアを拡大市、利益を最大化していく」と語った。