消費税が引き上げられて1カ月。増税の影響を実感し始めた人も多いだろうが、これだけでは終わらない。2015年10月には消費税10%への引き上げが予定されている。

マスコミでは、住宅市場の駆け込み需要やその後の反動について、様々な報道がなされている。そこで今回は、経済評論家の坂口孝則氏に、実際の住宅市場の動きや、増税後の現在、住宅購入を検討する上で知っておくべき制度など、「知っていそうで意外と知らないお金のはなし」を聞いてみた。

経済評論家の坂口孝則氏

3大都市圏の住宅地地価は6年ぶり上昇、住宅市場も活況

まず、増税前後の住宅市場とそれに関連する動きについて見ていこう。国土交通省が2014年3月に発表した「2014年地価公示」によると、3大都市圏の住宅地の公示地価は前年比0.5%上昇とリーマン・ショック以来、6年ぶりに上昇した。一方、地方圏では依然下落が続いているものの、下落率は前年の2.5%低下から1.5%低下と緩やかになっていた。また、2013年全体の住宅市場についても、新設住宅着工戸数が98万戸と活況を見せていた。

坂口氏は、増税前の住宅市場について「本来は住宅の引き渡しが2014年4月以降であれば消費税率は8%となるところ、経過措置として、引き渡し時にかかわらず、2013年9月30日までに契約締結すれば、消費税率5%が適用されたため、それを機に住宅購入を決定した人も多かったようです」と見ている。

2014年 住宅地 公示地価変動率(出典 : 国土交通省「平成26年地価公示」)

駆け込み需要の反動は?

この結果だけを見ると、今後、住宅市場は好転するのではと考えられるが、気になるのは駈け込み需要の反動だ。消費税が3%から5%へ引き上げられた1997年4月の増税時は、1996年9~11月をピークに駆け込み需要の反動が起きたが、今回はどうなるのだろうか。坂口氏によると、現在、専門家の間では大きく分けて2つの見方があるという。

ひとつ目は、「1997年とは異なる経済環境に注目する見方」です。アベノミクスにより景気は浮揚していく。また2020年の東京オリンピック開催までは緩やかな上昇基調が続き、それと連動して、住宅市場も活性化されるというのです。

また、もうひとつは、「今後、夏前までは住宅市場が落ち込むだろうという見方」です。実際のデータを見ると、2013年の住宅着工戸数98万戸は、近年と比較すれば高い水準といえるものの、120万戸ペースだった2000年代前半から見ると中期的には減少傾向にある。しかも、2013年3月から2014年2月までの着工戸数を月別に見ると2013年11月をピークに、新設住宅着工戸数には減少傾向が見られるという。

新設住宅着工戸数(年次)(出典 : 国土交通省「建築着工統計調査報告(平成25年計)」)

新設住宅着工戸数(月次)(出典 : 国土交通省「建築着工統計調査報告(平成26年2月分)」)

「さらに消費税増税によって、所得の伸びよりも物価上昇が上回り、それが消費者心理に買い控えを植え付ける、とする見方もあります」。

2014年の春闘ではベアを実施する企業が前年より増加したが、平均賃上げ率は大手企業でも2.39%(日本経済団体連合会「2014年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況」第1回集計)と増税分の3%を下回っており、消費者心理への影響が懸念されるところだ。

先行きは楽観視できない?

さてここで、消費税以外で個人にかかる税金について整理してみよう。前回の1997年当時は所得税減税が行われたが、今回は復興特別税によって、所得税・住民税ともに個人負担が増加している。これらを考えると、今後も住宅着工戸数の下落傾向はしばらく続くと予想される。坂口氏は「総合すると、住宅市場の先行きは楽観視を許さない状況だ、と私は考えています」と厳しい見方を示している。

知って得する「住宅ローン減税制度」と「すまい給付金」

住宅購入は人生で1番大きな買い物ともいわれ、消費増税の影響も大きい。だが、政府も今回の増税に当たり、様々な政策を講じている。次は知っておくと必ず得する制度について見ていきたい。

まず紹介するのは、「住宅ローン減税制度」の拡充。2014年3月まで施行されていた減税制度では、一般住宅の場合、借入残高2,000万円を限度として、控除率1%、10年間の住宅ローン減税が実施され、年間で最大20万円、10年で最大200万円が所得税から控除されていた。それが2014年4月から2017年12月末までは、借入残高の限度が4,000万円に引き上げられ、控除率1%、年間最大40万円の住宅ローン減税が実施されるようになった。計算すると、10年で最大400万円が所得税から控除されるようになったのだ。

住宅ローン減税制度の概要

さらに、長期優良住宅や低炭素住宅として認定されたものは、借入残高5,000万円を限度として、同じく1%の控除率で控除期間10年間が適用される。これにより、年間の最大控除額は30万円から50万円にアップし、10年間の控除額は最大500万円に増えるのだ。

また、「住宅ローン減税制度」では、所得税から控除しきれない分は、住民税からその残額を控除できる点にも注目したい。例えば、「住宅ローン減税制度」での1年間の控除上限額が40万円で、支払っている所得税が30万円の場合、残り10万円を住民税から控除できるのだ。なお、「住宅ローン減税制度」が拡充される2014年4月から2017年12月末では、この住民税からの控除上限額も引き上げられる。

なお、「住宅ローン減税制度」には、専有面積が50平方メートル以上で、10年以上にわたって分割返済する借入金があり、年収が3,000万円以下であることなどの条件がある。そして、条件を満たしている場合でも、自ら申請しなければ住宅ローン減税を受けられないため注意が必要だ。

坂口氏は「特に控除が受けられる初年度(入居した年の翌年)は、給与所得者であっても、税務署への確定申告を行う必要がありますので、住宅購入を検討しているひとは、まず知っておくべき制度だといえるでしょう」と話している。

ちなみに、この「住宅ローン減税制度」は、2015年10月に予定されている消費税10%への増税後であっても、2017年12月末までは、最大控除額などの内容は変わらないとされている。「このことも、住宅購入を検討する際のひとつの材料としてもよいかもしれません」と坂口氏。

条件に応じて一時金が給付される「すまい給付金」

もうひとつの注目すべき制度は、今回の消費増税に伴い新たに導入された「すまい給付金制度」だ。同制度は、2017年12月末まで、収入などの条件に応じて一時金が給付されるというもの。高収入の場合は給付されないが、収入があまり高くない場合には給付額が多くなる。ざっと計算してみると、年収400万円で扶養家族が2人いる家庭には、約30万円が給付されることになる。税金の控除とは違って、直接現金で一時金が振り込まれるため、かなりオトクな制度といえるだろう。

すまい給付金制度の給付額

ただし、給付額は、収入のほか不動産登記上の持分割合や家族の扶養状況、都道府県民税の税率などによって変動する。国土交通省のホームページなどで給付額のシミュレーションを行うこともできるので、詳細を知りたい人は一度試してみるといいだろう。

増税後に購入した方がおトク!?

坂口氏は「このように、『住宅ローン減税制度』と、『すまい給付金制度』のことを考慮すると、消費税5%時に住宅購入した場合とくらべて消費税8%時に購入することが、決して不利とはいえません。収入や住宅ローン額、返済期間によって異なるものの、場合によっては消費税8%時に購入したほうが負担額はむしろ減る可能性もあります。ただし、いずれの制度にも申請が必要であるため、これらのことを『知っているのと知らないのとでは大違い』ということは確実にいえそうです」と話している。

金利変動リスクと所得増減リスクに注意!

ここまで控除や給付金など、行政から受け取る(減らしてもらう)側面について見てきたが、坂口氏によると、住宅購入に際し、住宅ローンを組むうえで注意すべき点として、さらに下記の2点が挙げられるという。

「1点目は、考えてみれば当然ですが、そもそも支払総額は金利の変動によって増加してしまう可能性があるということです」。

金利とは、いうまでもなく住宅ローン借入にかかる利子。変動金利ローンを使えば、一般的な銀行では半年に一度、金利の見直しが行われる。また、固定金利ローンであっても、5年固定金利や10年固定金利などを契約している場合は、固定期間終了後に金利が見直される。

坂口氏は「金利の先行きを読んでローンを組むようにアドバイスするひともいますが、現実的には金利は世界経済や政治状況も絡んでくるので完全な予想は不可能です」と指摘している。

2点目は、「借り手の返済能力がずっと同じとは限らないことです」。

アベノミクス効果により、株価が上昇するなど経済は回復しつつあるといわれているが、今後も上向きの流れが続くかどうかは誰にもわからない。「東京オリンピックを契機とした好景気を期待したいところですが、経済がむしろ下落基調にあるとすれば、個人の収入は横ばいどころか下がる可能性もあります。また日本は少子高齢化・人口縮小傾向にあるわけですが、このまま人口が減り続ければ、地価下落のリスクもあります」と坂口氏。将来、所得が大幅に落ち込む可能性があることも頭に入れておくべきだろう。

賢い住宅ローンの選び方とは?

このように住宅を購入する際には、金利変動リスクと所得増減リスクの両方を背負うことを考慮する必要がある。

「本来『リスク』とは変動可能性を指し、日本語の『危ない』とは、意味がやや異なります。そのリスクの存在を理解したうえで、自分と家族にとって住宅が必要だと判断したのであれば、そのリスクを最小化する住宅ローンを組むべきでしょう。リスクをコントロールできる、最適な住宅ローンを選ぶ必要があるのです」。

皆さんの中には、無理な返済計画を立てて、返済途中で支払いが滞ってしまうといった経験を持つ人もいるかもしれない。とはいえ、ローン期間が長くなるほど支払総額が大きくなるのも事実だし、金利の変動によっては借り換えたほうが良い場合もある。坂口氏は「まずは無理なく返済できる期間でローンを組み、可能ならば前倒しで繰り上げ返済をしたり、金利動向に応じて借り換えたりすれば良いのです。これが先行き不透明な時代の最大の防御策だと私は考えています」と話している。

「繰り上げ返済」と諸費用をチェック!

では、最適な住宅ローンの条件とはどういったものなのだろうか。坂口氏によると、「長期の借り入れ金利が低い」ことは当然として、「繰り上げ返済が容易」かつ「手続きがしやすく、借入時の諸費用が低い」ことだという。

繰り上げ返済とは、月々の返済とは別に、手元の余裕資金を住宅ローンの返済に充て、支払期間を短縮することを指す。例を挙げると、利用者が多い「フラット35」では、100万円以上のまとまった金額を用意しないと繰り上げ返済が行えないようになっている。そのため、繰上げ返済を利用するにはある程度貯蓄がなければいけない。

その一方で、繰り上げ返済が容易な銀行もある。例えば、ソニー銀行では、1万円からいつでも何度でも繰り上げ返済をすることが可能で、借入中の金利タイプにかかわらず手数料も無料になる。金銭的に余裕ができた場合、予定より早く住宅ローンを返済できるため、老後の金銭計画も立てやすくなるといった利点がある。

また、借入時の諸費用の中でも大きな金額となるのが保証料だ。以前は、数10万円の保証料が生じてしまい、借入を躊躇するケースもみられたが、現在では、ソニー銀行をはじめとするいくつかの銀行から、保証料"ゼロ"の住宅ローンも発売されているので、ぜひ活用してほしい。

複眼的に考え、納得するまで質問を!

多くの人が、住宅ローンを組む時点での想定返済総額のみを気にしがちだ。だが、実際には繰り上げ返済もありえるし、借り換えもありえる。坂口氏は「住宅ローンを選ぶ際は、もっと複眼的に考えていくべきです。住宅は一生のうち何度も購入する商品ではありません。十分に吟味し、銀行には納得するまで、ときにはしつこく質問すべきです」とアドバイスしている。

様々なタイプの住宅ローンが乱立するなか、借り手に正確な情報を与え、また借り手のリスクを軽減できる住宅ローンを提案できる銀行こそ、いまの時代に選ばれるべき銀行といえるのではないだろうか。

坂口孝則氏プロフィール

経済評論家。企業での調達・購買・原価企画・仕入れ業務、電機・自動車会社勤務を経て、現在は未来調達研究所取締役。調達・購買などのコンサルティング、仕入れ観点から商売とビジネスモデルの解説等を行うほか、テレビ情報番組・報道番組でのコメンテーターとしても活躍。ビジネス視点での情報発信に加え、「調達・購買」のノウハウを活かした生活者視点の情報発信も多い。著書に『野比家の借金 人生に失敗しないお金の考え方』(光文社新書)などがある。