グローバル化が進んでいるといわれる昨今、クリエイターが活躍する場も日本に限らず、世界に広がっている。とはいえ、言葉も土地柄も違う外国に飛び込むことにためらいを覚える人も多いかもしれない。

今回は、国外という新たなフィールドに挑戦しようとする"これから"を担うクリエイターたちのロールモデルとして、最前線であるハリウッドで大作映画の製作に携わる日本人クリエイターたちの姿を紹介する。

『アイアンマン』のスーツを手がけた元証券マン

冒頭で「これからを担うクリエイター」という前置きをしたが、もしかしたらこのフレーズを読んで「自分はもう若手とはいえないから…」と気後れしてしまった人もいるかもしれない。しかし、"これからのクリエイティブ"を担うことに、年齢はあまり関係がなさそうだ。

成田昌隆氏

『アイアンマン3』場面カット

映画『アイアンマン3』(2013年)に携わったCGモデラー・成田昌隆氏は、証券会社勤務の後にVFX業界へ転身し、46歳でVFX業界にプロデビューを飾った人物。仕事で偶然アメリカに派遣されることになったことをきっかけにCGの猛勉強をはじめ、Pacific Data Images(現在のドリームワークス)の目にとまる程の腕を身につけた。「アメリカの社会は、学歴や経験より実力を重視する社会で歳も関係ありません。だから、私は46歳で転職できたんです」と語る成田氏の姿は、多くのクリエイターの励みになるものだ。

また、国外で働くにあたり、「英語ができないと通用しないのではないか」という不安は誰しも感じることだが、成田氏は未来の映画クリエイターに対し、「アメリカにはさまざまな国の人が集まってくるので、そこまで英語がうまく話せない人も多くいるんです。だから、英語が話せる話せないということは意識せず、失敗を恐れないでハリウッドの門を叩いてほしいと思います」と語った。

ハリウッドで活躍する人物から見た、日本のクリエイターは?

山口圭二氏

アイアンマンのCG制作過程 Copyright is Industrial Light & Magic.

大ヒット映画『アベンジャーズ』(2012年)に参加した日本人クリエイター・山口圭二氏は、ジョージ・ルーカス監督の作ったCGプロダクション ILMに所属するクリーチャー・ディベロッパー。アイアンマンのパワードスーツやハルクの体などのCG制作に携わった同氏は、日本のクリエイターについて、「(日本人は)細かい作業が非常に得意なので、CG制作にはとても向いている」と語る。しかし、日本の実写CG、およびアニメーションは、「表現にやや違和感を抱く」という。これを克服するための山口氏の提案は、『アベンジャーズ』のインタビュー本文にて確認してほしい。

CG制作にかける時間、日米の"常識"は異なる

続いて紹介するのは、映画『オズ はじまりの戦い』(2013年)にシニア・アニメーターとして参加した、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス所属の佐藤篤司氏。同氏は、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002年)や『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)、『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)など名だたる作品を手がけてきた人物だ。

佐藤篤司氏

『オズ はじまりの戦い』でのCG制作工程

同氏は、日本人クリエイターの置かれている環境を、「ひとつずつの作品の制作期間が短く、クリエイター本人も満足していないまま"完成"してしまっているものが多いのではないかと思う」と分析。ハリウッドで働きたいという日本人から相談を受けた経験から、「自分の時間を使って、仕事で制作した映像をさらにブラッシュアップして、クオリティを高めることが必要」と指摘。ハリウッドではCG制作に潤沢な時間を与えられるため、日本式の"これだけしか時間がなかったから、このクオリティです"という言い訳はまったく通用しないという。これは、日本とハリウッドの制作環境の大きな違いと言えそうだ。

成功する秘訣、その三カ条とは?

ここまではCG制作を担当するクリエイターを紹介してきたが、最後に取り上げるのは、映画制作に欠かせない"映像編集"を担う日本人クリエイター・横山智佐子氏は、映画『ブラック・ホーク・ダウン』(2001年)、『グラディエーター』(2000年)、『G.Iジェーン』(1997年)など、巨匠リドリー・スコットの作品に多く関わってきた。

横山智佐子氏

リドリー・スコット最新作の映画『プロメテウス』(2012年)場面カット

そんな横山氏は、「ハリウッドで成功する秘訣は?」という質問に対して、「諦めないということですね」と即答。そして、ハリウッドで成功するための「3つの大事なもの」があると教えてくれた。それは、「諦めない・才能・運」という3つの要素だ。才能と運はそれぞれ10~20%の割合で、諦めないということが最も肝心であるという。これは、ハリウッドというフィールドだけでなく、多くの場にも当てはまることだろう。巨匠・リドリー・スコットに信頼される腕を持つ同氏の「とにかく継続あるのみですね」という言葉は、とても重みのあるものに感じられる。

活躍の場をつかむために

今回はハリウッドというフィールドに焦点を当てたが、話をうかがった日本人クリエイターたちは、自分のやりたいことを追求し、それを仕事にしていたのが印象的だった。とはいえ、「海外に出ること」自体が素晴らしいということではない。活躍できる場に自分から飛び込む「勇気」が、クリエイティブな仕事においては大切なのではないだろうか。

なお、"これからを担う"クリエイターが羽ばたくきっかけとなるアワード「CREATIVE HACK AWARD 2013」が開催されており、現在グラフィック/ムービー作品を募集している。最終審査を通過した応募者は、国内外のクリエイティブ企業やデザインファームに向けてのピッチセッション(製作者によるプレゼンテーション)の場が提供され、学生にはインターンシップの機会が用意されるという。活躍の場を自分でつかみたい"勇気"あるクリエイターは、ぜひ渾身の作をぶつけてみてほしい。