今夏、注目作のひとつといえば映画『アベンジャーズ』だろう。既に興行収入において世界歴代3位の記録(14億5,598万ドル)を達成しており、日本での注目度も日に日に増している。同作は、マーベル・コミックスのヒーローが多数登場することで話題になっているが、映像技術の面から見ても要注目の作品だ。この作品のCG制作の中心となったのがジョージ・ルーカス監督の作ったCGプロダクション ILM。本インタビューでは、同社でクリーチャー・ディベロッパーとして活躍中の日本人クリエイター山口圭二氏に同作のCG制作秘話を伺った。

山口圭二
ILMのクリーチャー・ディベロッパー。東京造形大学で油絵や絵画などの美術を学び美術学士号を取得。日本のリンクスコーポレーションでCGスーパーバイザーとして活躍したのち、アメリカへ移住。デジタルドメインを経て、2001年よりILMで働いている。これまでに、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006年)、『トランスフォーマー』(2007年)、『アイアンマン』 (2008年)などのハリウッド大作の制作に携わっている

――ハリウッド映画では基本的に複数のプロダクションが分業しながらCGを制作していくと思うのですが、今回、ILMは同作にどのような形で携わったのでしょうか。

山口圭二(以下、山口)「今回の作品では、ILMがCG制作の中心となって動きました。直接的に担当したのは、アイアンマンとハルク関連のCGですね。アイアンマンに関してはベースとなるデータのみをILMが制作し、ニュージーランドのCGプロダクション Weta Digitalに作ってもらった部分もあるのですが、ハルクに関しては、すべてILMが担当しています。皮膚の質感や筋肉の動きなどの有機的な表現が非常に難しく、アニメーションをつけた後、さらにモデラーが手を加えて映像を磨き上げていきました」

――同作のCG制作にあたり、ILMではどのくらいの期間と人数をかけたのか、教えて下さい。

山口「制作に関わったクリエイターは延べ150~200人くらいですね。期間としてはCGの企画からすべて含めると約1年です。本格的なショット(本番用の映像制作)の制作は約半年。これらはILMで手がける作品のなかでは通常の長さですね」

――映画『アベンジャーズ』のCG制作において、大きなテーマはありましたか。

山口「とにかくマジックのように見えるCGはやめてくれと言われました。メカニカルな表現も、よりリアルさを重要視しましたね。この点については、以前ILMがCG制作を担当した映画『トランスフォーマー』シリーズで利用した技術が役立ちました」

――特に注力したCG表現を具体的に教えて下さい。

山口「ハルクですね。2003年に1度、映画『ハルク』でCG制作をしているんですが、今みるとあまりにも作り物じみているなぁと感じます。今は、ハードもソフトも進化を遂げていますから、よりリアルなハルクの制作を試みました。具体的に言うと、今回のハルクの顔は、ハルク役を演じたマーク・ラファロに似せたものになっていたり、顔の産毛の表現にもこだわりました。そのほか、ハルク以外で言えば、ニューヨークの街並みですかね。アベンジャーズがニューヨークの街中で大暴れするわけですが、実際の爆破シーンにさらにCGを加え、大迫力の映像に仕上げています」

映画『アベンジャーズ』

"最強"の力を持つヒーローたち。しかし、各々が巨大な力をもっているがゆえにチームとして戦うことができない。人類史上最大の敵を前に、果たして彼らは地球を救うことができるのか?

――ストーリーの中心となるアイアンマンのCG制作においては何かありますか。

山口「実は、ロバート・ダウニーJr.が"パワードスーツ"を着て演技することはほぼなかったんです。当然、衣装としてパワードスーツは存在するのですが、それを着て演技すると、どうしても体からスーツが浮いているような印象を与えてしまい、フィット感が出ないんです。そのため、ライティングの参考にするために着てもらうことはありましたが、その際も映像を加工していく段階でスーツをデータ上で消し、CGでスーツを描いています。ですから、皆さんが映画館で観るパワードスーツは、すべてCGなんです。ちなみに衣装のスーツはシリコンのような柔らかい材質でできているんですよ」

アイアンマンのCG制作過程

Copyright is Industrial Light & Magic.

――こうして話を聞いていると、ハルクとアイマンマンのCG制作は、同じ"CG制作"であるにも関わらずまったく別物な印象を受けますね。

山口「そうですね。アイアンマンの場合は中に人間が入っているので、それをCGと合わせるのが凄く大変でした。ハルクは変貌したらCGアニメーションですから。ピクサーのアニメーション映画を観ているのと変わりません。そういった点が違うかもしれませんね」

――話は変わりますが、山口さんは10年以上ハリウッド大作のCG制作に携わっていますよね。日本のCGクリエイターについてどういった印象をお持ちですか。

山口「日本人は細かい作業が非常に得意なので、CG制作にはとても向いていると思います。ですが、日本の作品を観ていると、アニメーションの表現にやや違和感を感じます。これは日本だけでなく、韓国、中国の作品にも同様なことが言えます。言葉でどう表現すればいいのか分かりませんが、映像がふわふわしている印象を受けてしまうんです。それは実写のCGでも、アニメーションでも、言えることです」

――それを克服するために必要なことを教えて下さい。

山口「ディズニーのCGアニメーション制作には12のルールがあるんですが、それを学んだ方がいいと思います。日本の作品で違和感を感じてしまう、ひとつ例として、オーバーラップが無視されている点が挙げられます。たとえば、A→Bというアクションがあった場合、Bのアクションに移る際にAとBの動作がきっちり分かれていることはなく、Aのアクションがオーバーラップしなくてはいけないんです。人間が何かの動きが起こすときは必ず事前動作があるわけですから。そういうところが欠けている感じがするんです。日本人のモデリング能力は非常に高いですから、そういったCGアニメーションの勉強をもっとしてほしいですね」

――ありがとうございました。

映画『アベンジャーズ』は3D/2Dにて、全国公開中。

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撮影:糠野伸