サイバー犯罪の撲滅を目指し、カスペルスキーと大阪府警の新たな取り組み開始した。その内容や、サイバー犯罪の具体例などを紹介しよう。

サイバー犯罪撲滅に向けたカスペルスキーの取り組み

まず最初に登壇したのは、カスペルスキー代表取締役社長の川合林太郎氏である。

図1 川合林太郎氏

カスペルスキーの創設者でありCEOのユージン・カスペルスキー氏が10年以上前、ウイルスが発見された当時に「ウイルスなどの技術は、サイバー犯罪に発展していく」と予言した。当時はまったく信じられなかったものだが、残念ながら、現在ではそれが現実のものとなった。今回、大阪府警と協力するのは、偽ブランド詐欺サイトである。金額的には、サイバー犯罪全体の約1/4を占めるものだという。

図2 偽ブランド詐欺サイト例

図2のように、あえて「偽物」や「コピー」を名乗り、日本人を狙ったサイトが乱立している。これらのサイトは海外で、外国人によって運営されている。そのような状況では摘発が、非常に困難になる。カスペルスキーを含め、セキュリティソフトではこのような危険なサイトは、ブラックリストで遮断することができる。

しかし、サーバー側も変更を繰り返すので、まさに、"いたちごっこ"の状況となっている。川合氏は、「根本的な解決には程遠い」と指摘する。このような偽サイトによる一般ユーザーの被害を減らし、商標権の保護の観点からも、セキュリティベンダーと取り締まり機関が違法と判断されたサイトのシャットダウンが可能となるプロアクティブな対策、法整備、国際連携が必要と考えているとのことである。国内ではこれが第一歩となるが、2013年3月には、シンガポールに設置されるIGCIへの協力も表明している。

図3 インターポールとユージン・カスペルスキー氏の合同会見

IGCIは、新たなサイバー犯罪の研究・開発、トレーニング、捜査支援を行う。中心となる組織「デジタルクライムセンター」へカスペルスキーから人員を派遣するとのことだ。さらに、これまで収集した資料なども提供していく。川合氏は、改めてサイバー犯罪に対してカスペルスキーのミッションステートメントである「Save tha world from IT Threat」の実現を宣言した。

大阪府警以外にも協力関係を深め、世界中のアカデミック組織と協力し、セキュリティリテラシーの向上にも寄与していきたいとも述べている。偽ブランドと明示されていながら、そこで被害にあってしまう状況を底辺から変えていきたい。こうすることで、犯罪者に"日本人はリテラシーが高いので、商売にならない"と思わせることも、サイバー犯罪への対策として必要と語っていた。

最後に、あまりにも巨大な犯罪組織に対し、国内セキュリティベンダーのビジネスの枠を超え、協調して対峙していこうと提案した。

大阪府警本部のサイバー犯罪対策課の取り組み

ついで、登壇したのは、大阪府警察本部生活安全部サイバー犯罪対策課の武本直也氏である。

図4 武本直也氏

まず、インターネット上の偽サイトであるが、大阪府警では以下のように定める。

・購入者に代金を振り込ませて商品を届けない
・購入者に正規品であると誤信させかねないコピー商品などを販売

これらに共通する特徴がある。実在する会社や氏名を使う。その理由は、サイトの信用性を高めることだ。そして、ユーザーが被害に遭うと、苦情が実在の会社にいくことになる。武本氏によると、2012年秋くらいから、正規の会社から偽サイトに悪用されているといった相談が寄せられるようになったのだという。

警察として取り締まりを行おうにも、インターネットの特質でもある場所的な制限がないため、犯人が海外の場合には、捜査が及ばない。ICPOや国際紹介を使うことも可能であるが、非常に時間がかかる。その間も偽サイトは運営し続け、被害者が続発してしまう。なんとか被害者を減らすことができないかということで、今回の偽サイト対策を講じたという経緯がある。

協力体制の基本となるのは、セキュリティ対策ソフトのWebサイトの評価機能だ。危険なサイトを閲覧しようとすると、ポップアップなどで警告し、ブロックする機能である。被害者から寄せられる被害相談を精査し、カスペルスキーを含めた国内の7つのセキュリティベンダーに提供する。

提供されると、セキュリティベンダーでも精査を行い、パターンファイルに反映する。結果、ユーザーが偽サイトを閲覧しようとしてもブロックや警告が行われる。武本氏は、偽サイト自体をなくすことはできないが、被害者を1人でも減らすことができるだろうと語る。また、偽サイトに悪用された実在の会社にとっても、苦情などを減らすことができる。

図5 偽サイトのブロッキング

大阪府警に寄せられる被害相談だけでは、十分とはいいがたい。そこで、消費生活センターや税関などとの協力も行う。消費生活センターにも、同じような相談があるので、それらも可能な範囲で、活用していくとのことだ。税関では、海外からの偽ブランド品の検査で差し止めなどが行われる。これまでに大阪府警が提供した悪質な偽サイトの件数は、500件になるとのことだ。

しかし、武本氏は「まだまだ氷山の一角にすぎない。現状ではいたちごっこと思われるかもしれないが、1人でも被害者を減らしていきたい」と締めくくった