暑い夏を涼しくしてくれる「お化け屋敷」。子供の頃、誰でも一度は体験したことがあると思うが、歳を重ねるにつれ足が遠のく人がほとんどかもしれない。しかし、テレビ・PCゲームやソーシャルゲーム全盛の今、唯一無二のリアルエンタテインメントとして今なお存在感を放ち、人々を魅了し続けているのはなぜか。東京ドームシティ アトラクションズのお化け屋敷の制作・演出を手がけ、この20年間で約500万人を動員して驚かせたお化け屋敷プロデューサー・五味弘文氏に話を聞いた。

五味弘文
1957年生まれ。長野県出身。立教大学法学部卒。大学在学中より演劇活動を始め、卒業後に劇団を結成。主宰・作・演出を務める。下北沢ザ・スズナリ、渋谷ジァンジァンなどの公演を経て、1992年解散。並行してイベント会社でイベントの企画・演出などを行う。1992年、株式会社クラブハウスと共に、後楽園ゆうえんち(現東京ドームシティ アトラクションズ)の夏期イベント『ルナパーク』の制作業務を行い、『麿赤児のパノラマ怪奇館』でそれまで誰も手をつけなかったおばけ屋敷のイベント化で驚異的な動員を記録。以降のおばけ屋敷ブーム、ホラーブームの先駆けとなる。以降は毎年同所のお化け屋敷をプロデュースし、今年で20周年を迎える。著書『お化け屋敷に なぜ人は並ぶのか ―「恐怖」で集客するビジネスの企画発想』(760円 角川書店刊)が発売中。 拡大画像を見る

――まずは7月20日からスタートした今年のアトラクション「お化け屋敷の人形倉庫」について聞かせて下さい。

五味「この仕事をしていると、よく『お化け屋敷を作っているスタッフはどういう人なのか?』『お化け屋敷はどういうふうに作られているのか?』などと聞かれるのですが、今年は自分にとって20周年という記念すべき年でもあり、それならそういったお化け屋敷の裏側をちょっと見せましょう、というのがそもそもの始まりです。そこで今回はみなさんが気になるお化け屋敷の倉庫にある『人形』にまつわるストーリーを用意しました。今から20年前、僕が初めてお化け屋敷を手がけた時に作って以来、一度も使われなかった一体の少女の人形に魂を宿すため、お客様に『目』を入れてもらう、というのがストーリーの大まかな流れです」

――すでにさわりを聞いただけでゾクゾクしてきますが、五味さんにとって20周年という数字はやはり感慨深いものがありますか。

五味「そうですね。振り返れば毎年毎年、異なるタイプのお化け屋敷をプロデュースしてきたわけですから。ちなみに今年はファミリー層の多い昼の部を『絶叫篇』、比較的年齢層の高い夜の部を『超・絶叫篇』として変化をつけています。具体的には夜になると屋敷の奥の扉が開き、そこにある井戸の中にあるもう一個の『目』を拾って人形に入れるのですが、井戸の底に少しだけ水が浸してあります。人間、暗闇で水の中に手を入れるのはなかなか勇気がいりますよね。そこが面白味でもあり、そのような『水』を使った演出は他には見かけないと思います」

――ただ単に驚かすというのではなく、五味さんの場合、客も「参加」して「ストーリー」を一緒に楽しむ、という演出を大事にしているように感じます。

五味「確かに僕がプロデュースを始めた最初の頃は、まだお化け屋敷というといわゆる子供だまし的なアトラクションとして捉えられていたと思います。自分としてはそれをもっと大人向けに演出したい、という気持ちでここまでやってきました。大人がお化け屋敷を真剣に怖がり、楽しんでもらえるには『ストーリー』を作り、そのストーリーにより強く自分を関連づけてもらう必要があります。そのために例えば何かを手に持ってもらったり、何か役割を与えてそれを遂行してもらったりすることで、人はその世界により一層入り込めると僕は思い、さまざまな試みをしてきました。そうやって試行錯誤を重ねていくうちに『大人でも怖いお化け屋敷』としての演出が確立していったと思います」……続きを読む