――五味さんはもともと人間の「恐怖」というものに興味があったのですか?

五味「いや、それがまったく違いまして……(笑)。僕自身、霊感が誰よりも強かったり、ホラー映画が人一倍大好きだったりするわけでは決してないんです。人を『怖がらせる』というよりも、むしろ『楽しませる』にはどうしたらいいんだろう、ということの方に興味がありましたね。実際、子供の頃、自分の家で段ボールとマットレスを使ってお化け屋敷を作り、シーツを被ってお化けに扮し、家族や従兄弟とかを驚かして喜んでました。映画や音楽、お笑いなど、楽しませるということにはいろいろな方法がありますが、僕は『怖がらせる』ことで人を楽しませる、ということに惹かれていったんです。その意味でお化け屋敷はまさにエンタテインメントですし、最終的にお客様に持って帰っていただくのは『楽しかったね』という気持ちだと今でも思っています」

――「怖さ」と「面白さ」は紙一重の感情だと思うのですが、いかがでしょう。

五味「ホラー映画を笑いながら見たりするように、『怖さ』って、客観的に見たらすごく馬鹿馬鹿しいことだったりするわけですよ。つまり、主観と客観の往復運動がお化け屋敷の本質だと僕は思ってますし、だからこそ、そこに『笑い』や『楽しさ』が生まれてくるのではないかと思うのです」

――と、いいますと?

五味「例えば、誰もお化け屋敷に本物のお化けがいるとは思っていませんよね。そう思いながらも出て来るお化けに悲鳴を挙げているとしたら、ものすごい変なことをしているわけじゃないですか。そんな自分を客観的に見れるかどうかが、お化け屋敷を楽しめるかそうでないかの分岐点だと思うんです。お化け屋敷を楽しめない人は結局、馬鹿馬鹿しい自分を笑えないというか、悲鳴を挙げている自分を許すことが出来ないのだと思います」

――そういう客観的視点、思考能力を養うという意味では、お化け屋敷は絶好の場所ではないでしょうか。

五味「確かに今、ゲームをはじめとするバーチャルなエンタテインメントは私たちの身の回りにいっぱいあります。でも、お化け屋敷の場合、リアルに体感できるということがとても重要なんです。同時に『自分とお化け』という関係性だけでなく『自分と誰か』という関係性も重要な要素の一つで、一緒にいる人との関係性、コミュニケーションの重要度が非常に高いんです。映画館で映画を観た方が家でDVDを見るよりも感動や面白さの度合いが違うように、誰かと一緒に楽しむという体験や、空間・時間のリアルな共有、そして共感することの喜びは何物にも代え難い貴重な体験ですから」

――ところでこの20年、人々の「恐怖」を目の当たりにしてきて、五味さんが感じる変化みたいなものはありますか?

五味「男性のお客様がずいぶん変わってきてますよね。昔は『怖い』ということを口に出したり、表現することを恥ずかしがったり、隠したがったりしていましたが、今は自分を解放して『怖いなら怖いって言ってしまえ』というような楽しみ方をしている人が増えたと思います。一方、女性は女性でそういう男性の部分も含めて受け入れているようですし、その意味ではお客様のエンタテインメントというものに対する接し方が成熟してきているような印象があります」

――エンタテインメントを提供する側としては、それはそれでまたプレッシャーではないですか。

五味「そうですね。ゲームをはじめとするさまざまなエンタテインメントがたくさん無料で提供される状況の中、お客様はそれだけ目が肥えているわけですから。そこでわざわざ電車に乗ってやって来て、お金を払って、さらには暑い中並んで……となると、おのずと期待度も高まりますよね。私どもとしましても、お客様にそれなりのものを提供しないといけないというハードルの高さは常に感じながら取り組んでいます」……続きを読む