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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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読みやすい字とは?

「読みやすいか否か」は、上手い下手とイコールではありません。達筆な方からお手紙を頂くと、サラサラっと行書で書かれていることもしばしば。私は少しは行書をかじっていますから何とか読むことができますが、普通、読めません。書いた方にとってはそれが当たり前であり、自然なのですが、「相手は素人」であることを忘れていますよね。作品ではないのですから、相手のことを考え、読みやすい字を書くべきなのです。

相手のことを考えて、読みやすい字を書く

もう1つの例としてゴシック体を挙げてみましょう。ゴシック体とは、全ての線が同じ太さで、正方形の中に入っているようなものです。重心がとれていてとても読みやすいフォントですが、これは日本語として美しいか、うまいかと言われたら、そうとは言えません。

この2つの例を踏まえて考えてみましょう。"誰もが読みやすい字"とは、『つなげ過ぎていない』『楷書若しくは楷書に近い行書』と言うことができそうですね。

また余談ですが、「楷書を崩したら・つなげたら行書、上手そうに見える」と考えられている方が見られます。実はこれ、ちょっと違います。文字の成り立ちから考えると、公文書用に後から楷書ができたのです。行書や隷書の方が先なんですね。そして、崩し方・つなげ方にもルールがあります。とにかくつなげればうまそうに見える、というのは間違いなので、注意しましょう。

上手そうに見える字とは?

それでは、上手そうに見える字とはどのようなものでしょう? キレイと同様、うまいという表現もあやふやであることは前述の通りです。そこでもっと明確な基準はないのか、と探してみますと、「正しいか否か」に行きつきます。「正しい字ってどんなもんなんだよ! 」という声が聞こえてきそうですね。   答えは簡単。「毛筆で書いた字」しかないのです。

今の国語教育は、「読む」「書く」と課程が分かれており、その中に「書写」があります。文字・書き順を覚えた上で「正しく書く」のが書写の授業なんですね。実際に小学校の教科書を見てみますと、1~3年生の中に、一般的なペン字練習本で解説されている以上のことが書かれています。小学校高学年になると毛筆があります。これは、日常使うためではなく、毛筆で書かれた字や線の形を見て、知ることが目的なのです。

つまり、私たちが日常書く字も日本語なので、「毛筆で書かれた字」を目指さなければならない、ということになります。しかし実際に筆を用いることはめったにありません。そこで考えるべきなのは、「毛筆で書かれたような字を、どうしたらボールペン等の筆記具で再現できるか」ということ。逆に、そこまで明確にゴールがわかれば、筆記具や下敷き・紙の環境を工夫することができます。

ポイントは「毛筆で書かれたような字を、どうしたらボールペン等の筆記具で再現できるか」(三菱鉛筆 uni-ball signo 1.0mmφを使用)

次回からは、実際に「毛筆で書いたような字を、正しく書く」ことを目指し、筆記具から考えてみましょう。


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写をはじめ、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」