前回はレベニュー・ベースド・ファイナンスについて解説いたしました。今回は財務担当者の情報収集について私見を述べます。中小企業において特に顕著ですが、財務担当者は人数そのものが少なく、身近なところでロールモデルとなる人物を探すことが難しいです。私自身もOJTを受ける機会がなく、業務遂行上必要とされる情報や技術向上・自己研鑽のための知識を得るために、文献を探しつつ社外でメンターを探すしかありませんでした。一部ではございますが、学んできた内容をシェアいたします。

財務の業務遂行上必要とされる情報の代表例として、2点紹介します。信用調査と金融市場の相場情報です。信用調査は取引先の支払い能力を確認するために行われることが多いですが、反社会的勢力・反市場勢力か否かを判別するコンプライアンスチェックを求められる場面もあります。反社会的勢力・反市場勢力との取引が存在する場合にIPOができないことは広く知られていますが、影響があるのはIPOだけではありません。特定の投資家から出資を受けている場合や、特定の企業と商取引がある場合に、融資を受けられないことがあります。

判定基準は金融機関毎に異なるため、融資を実行する金融機関と実行しない金融機関が併存し、結果として企業側が基準に抵触していることに気付かないケースがあります。知らず知らずのうちに、融資の選択肢を狭めている可能性があり得るのです。センシティブな情報は、文字に起こして発信されることがないです。Webで検索してもまず分からないので、専門サービスを利用するか、もしくは財務担当者同士のコミュニケーションを通して情報を得ます。

金融市場の相場情報のうち、最もよく触れるのは金利と為替だと思います。新聞・テレビ・ネットで日々の動きを追いながら将来を予測して、次回の融資は固定金利にするのか変動金利にするのか、為替予約をいつ入れるのか、判断していきます。金利の先読みに自信がなければ、融資残高は固定金利と変動金利が半々になるようにコントロールする手法が王道です。自信がある場合は、固定金利と変動金利の割合を調整して費用の最適化を図ります。融資期間中に固定金利と変動金利を切り替えられるタイプの金融デリバティブ付きの融資商品があるので、活用してみても良いでしょう。頭と尻尾はくれてやれという相場の格言が存在しますから、欲張りすぎないこと、結果に一喜一憂しないことも大事です。

自己研鑽のための情報収集は、まず教科書を読むことが第一歩です。次に、日々のニュースを追うこと。専門家による新聞・雑誌の連載には知恵が詰まっていますし、書籍にするには文章量が足りない最新の重要な情報をいち早く得ることができます。SNSを活用して学ぶ場面も勿論ありますが、私は注意点が2つあると考えています。

ひとつは発信者が立場上書かないことや書けないことの存在です。スタートアップ界隈をクローズアップするだけでも、ベンチャーキャピタル・金融機関・公認会計士・税理士・弁護士・財務担当者・株主・債権者・アドバイザー・学者・報道関係者等、様々なステークホルダーがいますので、話を伺う際に複数の視点を持つ必要があります。もうひとつは、事例の存在が必ずしも傾向の存在を意味しないことです。他社が紹介しているノウハウが自社に当てはまらないことは往々にして起き得ます。マネをすれば大丈夫とは言い切れません。逆効果のときもあるでしょう。経験談はどれも貴重ですが、マクロの視点で見たときに発生確率が稀な事象については、無視をする選択肢も存在します。簡単に他人の話を鵜呑みにしないようにしましょう。

デットファイナンスに関する資料が見つからないという相談をよく受けます。確かに資金を借りる側の文献は少ないかもしれませんが、実は貸す側の文献は豊富です。大型書店へ行くと、銀行員が受検する資格試験の参考書の棚があります。そのすぐ近くに融資に関する教科書が並んでいますので、チェックしてみてください。

学習が進むと、法令や契約について理解しなければ突破できない壁が現れます。金融業界は法律の条文や契約書の文言で構築された「約束の塊」をもとに業務が執行されますので、取引のルールを憶えることが肝要です。法令の原文はe-Gov法令検索のWebサイトで検索できますし、新しい法律が作られる場合は国会へ法案が提出される前の審議会の議事録を読めば議論の背景を理解することができます。条文毎の趣旨は逐条解説と呼ばれる書籍に詳しい説明が載っているので、一読することをお薦めします。

専門用語を知らないとキーワード検索ができなくて詳細な解説に行きつかない世界ですし、興味の対象がニッチになればなるほど情報が見つからず、見つかっても情報の真偽の判断が難しくなります。書かれた年代によって意見が分かれる事象もありますから、情報が古いかもしれないことに留意しつつ、いつ書かれた文章なのかを慎重に読み解きます。法改正の概要と時期を予め知っておくことで誤読を防ぎます。

財務担当者の情報収集に関する説明は以上です。今シーズンの連載は今回で一区切りといたします。2023年の資金調達環境について統計情報が出揃う頃に、また執筆を再開する予定です。約3か月間でしたが、記事をお読みいただきありがとうございました。

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