前回は、融資を受けた後の社内情報整理について事例を紹介いたしました。今回はベンチャーキャピタルの投資検討と金融機関の融資審査との視点の差異について、説明資料の観点から情報を整理します。ベンチャーキャピタルへ提示しているビジネスプランをそのまま融資の相談に転用すると良くない、という意見をSNS上でよく見かけます。融資の教科書の内容を紐解いて出資を受ける際によく聞かれる問いと比較すると、具体的な相違点が分かりやすくなります。

本連載の第17回で推薦した『バンクビジネス NO.1053 2023年6月号増刊』のP.12に、金融機関側から見た融資実行までの流れが書かれています。企業から金融機関へ提出する資料に関する箇所を抜粋します。

【1】企業からの相談

・まずは以下についてヒアリングする
資金使途、借入金額、返済財源、融資の実行時期、貸出期間、返済方法、返済条件
・取引履歴や他行庫との取引状況、担保の必要性、マル保を利用する意思などの情報収集を行う
・融資枠や保証枠に余裕があるかも確認

【2】融資の申込み

・資金使途や借入金額の裏付けとなる資料を提出してもらう

■例
・決算書/試算表→売上や利益の状況確認&ヒアリングした内容との整合性をチェック
・資金繰り表→融資後に資金がいつどのように使われるのか確認
・事業計画書→初めて融資を行う場合や業績悪化先などからは提出を受ける。事業概要や商品・サービス、取引先、事業の見通し等を確認
・納税証明書→税金や社会保険料の支払いに不備がないか確認
・その他、資金使途が運転資金なら発注書、設備資金ならカタログや見積書などを提出してもらう

内容を補足します。資金使途と借入金額について質問されるということは、企業の財務担当者は何のためにいくら使うのか、明確に答える必要があるということです。借入金額は融資の相談をする企業側から伝えるものであり、「いくらまでなら借りられますか?」と訊くものではないとも言えるでしょう。返済財源は、究極的には将来利益か財産処分かの二者択一です。リバースモーゲージのような事例が存在するものの、事業融資で返済原資として最初から財産処分を検討するケースは稀だと思います。将来の利益で融資の返済をすることが既定路線です。

いつまでに資金が必要でいつまでに元本を返済するのか、返済方法として一括返済を選ぶのか分割返済を選ぶのか、見通しを伝えることも重要です。一括返済を選択できるのは期間が1年以内の短期融資か、政府系金融機関が提供する資本制ローンのケースに限られるので、分割返済をベースに計画を立てる場面が多いです。返済条件は、据置期間を設けるか否か、繰上返済の際に違約金が発生するのかどうか、返済ペースは均等なのか不均等なのか、資金繰りを勘案しながら望ましい姿を事前にイメージするようにします。

取引履歴は、一義的には過去の融資と返済の実績のことを指しますが、融資以外のサービスの利用状況についても検討の範疇に含まれると考えた方が良いです。振込手数料や為替手数料といった資金決済に紐づく金利以外の収入だけでなく、法人クレジットカードの導入や有料セミナーの受講をはじめとした金融機関グループが提供するサービスの利用料を含めて、過去の資金面での支援が金融機関側の収入増加に繋がった実績があれば、先々ビジネスが拡大していく期待感を醸成できるので審査時のプラス材料となります。

裏付け資料の代表例として挙げられるのは、設備資金を借りる場合は購入対象の商品の見積書、運転資金を借りる場合は取引先一覧(仕入先/販売先ともに)と売上高の根拠となる契約書面です。スモールビジネスなら、例えばオフィス複合機やPCの購入費用を少額融資として相談することが可能です。商慣習として創業後3期の決算を終えていない企業のリースの利用は非常に困難なので、代替手段としてクレジットカードの分割払いだけでなく、融資もあり得ることを憶えておいていただきたいです。

融資の審査においてヒアリングのテーマは返済の確実性に関する確認が主で、事業規模や利益率といった指標の確認は従です。債務超過企業においても融資を受けられる可能性が残っている理由は、ここにあります。返済可能であることを納得させることが何より大事ですので、どのような経営状況においても融資を受けられる資金使途と返済財源がないか、財務担当者は知恵を絞ることになります。

強調したいのは、スタートアップのエクイティファイナンスにおいてピッチデッキに含めると良いとされる「ビジョン」「市場」「チーム」といった要素を表現できる場が、融資の交渉において用意されていないことです。申込時の提出書類として事業計画書が挙げられていますが、金融機関側がまずチェックしたいのは具体的な商品・サービスと販売先ですので、事業の成長性が融資審査に占める割合は相対的に小さいと言わざるを得ません。ビジネスのルールが異なるので、ベンチャーキャピタル向けの資料と銀行・信用金庫・信用組合向けの資料は別物として作成することが肝要です。

ベンチャーキャピタルの投資検討と金融機関の融資審査との視点の差異に関する説明は以上です。次回はバックファイナンスについて解説します。

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