旅行先で、困ること。ボッタクリ、スリ、白タク、ダブルブッキング、呼吸ができない……。数々の試練を潜り抜けてきた私であったが、今回はあせった。ど近眼の私、朝起きたら、どこにもメガネがないのだ!

ゴールデンウィーク中に立山黒部アルペンルートを目指した私。泊まるところを予約していなかったが観光案内所で紹介された駅前のシティホテルで無事に宿を確保した。そこまではよかったのだが……。前日にひとりで食べた白エビの天ぷら(カラッと揚げてあっておいしかった)のバチがあったのかどうかわからないが、朝起きるとメガネがない。これでは1mも進めない。顔をぬぐってベッドのフトンをはらい、手探りでかばんの中を探し、さらにはベッドの下も見たが……、ない! ない!! ないっ!!! 仕方がないのでフロントに電話をし、メガネ屋さんを紹介してもらおうと思って電話に手を伸ばす。

「でも、なんて説明したらいいのだろうか」。なんて思いながら電話台とベッドの隙間に手を伸ばす……。引きずり出されたのは、銀ブチのメガネ。無事に自分のメガネを救出するも、30分のロス。もう6時過ぎである。ということで、今回は完全に電車に乗り遅れたのであった。

憧れの立山黒部アルペンルート! のはずが……

「せっかく富山に来たならば、立山黒部アルペンルートに行こう」と前日の夜は確かに思った。実は前日(5月4日)の午後、立山駅まで富山地方鉄道に乗って行ってはみたものの、混雑で帰りのバスとケーブルカーがとれず、すごすごと戻ったのだ。悔しかったので、立山駅前のそば屋で山菜そばを食べてきた。550円也。

それで当日(5月5日)、あわやめがね紛失のアクシデントを乗り越えて電鉄富山駅に急ぐ。次の立山駅は7時28分発。電車内は、私と同じように立山に行く観光客で半分ほど席は埋まっている。電車は富山市内をゆるやかに走り、7時44分に寺田駅に着く。ここは、昨日行った宇奈月温泉へ行く「本線」と、これから行く「立山線」との乗り換え駅。瓦葺きの駅舎と、昔は賑わったことが偲ばれる大きくてガランとした待合室がゆかしい。寺田駅を発車してからふと窓の外を見ると、代掻きが終わった田んぼに水が満々とはられている。黒い瓦葺きの民家がつづき、遠くには白い雪が残る山々がはっきりと見えてきた。……ちょっと雲が多くて心配になってきた。

寺田駅。瓦葺の屋根が懐かしい感動を呼び起こす(5月4日撮影)

雪を抱いた山が近づいてくる

千垣駅を過ぎると常願寺川にかかった千垣鉄橋にさしかかる。電車は徐行し、鉄橋の上でアナウンスとともに一時停車。本宮駅を過ぎると、山中を電車は走っていく。車内を見渡すと、斜め前の席にはニーハイをはいた中学生くらいの女の子が、熱心にニンテンドウDSをいじっている。アルバイトに行くのだろうか。ご苦労なことだ。立山駅に着いたのは、電鉄富山駅を出てちょうど1時間後の8時28分であった。立山駅に着くと、ケーブルカー駅の切符売場に急ぐ。まださほど待っている人の列は長くない。しかし、とれた切符は1時間20分待ちの9時50分であった。

立山駅。すでに人でいっぱいだ

さてここで、今回の目的地である立山黒部アルペンルートを紹介しよう。立山駅からケーブルカーで美女平へ、美女平からはバスで室堂へ登る。ここは雪の壁で有名なところ。そしてさらに立山をトンネルで通るトロリーバスで大観峰へ。そして今度はロープウェイで下って黒部平へ。それからトンネル内を通るケーブルカーで黒部湖へと続く。ここまでは立山黒部貫光。黒部湖から長野県の信濃大町に抜けられるのだが、多くの観光客は、黒部湖まで行って、また立山に戻ってくるコースをとる。

しかし、いよいよという時にケーブルカー駅の係員から次のような説明が。「今日は観光客で混雑しているので、帰りのロープウェイやケーブルカーなど、それぞれ1~2時間待ちは覚悟していてください。戻ってくるのに8~10時間はかかります」。ゲンナリするが、ここまで来て諦められない。立山 - 黒部湖間の往復切符(10,490円)を購入する。その後のことを考えたら片道にすればよかったのだが、片道(6,560円)より2,500円安いということで、買ってしまったのだ。

ひたすら前へ前へと進むことに疑問

今回の旅は、アクシデント続きだ。前日は前日で、鞄の肩掛けベルトが根元からとれてしまった。それだけでない。デジカメ一眼レフをぶつけて、フィルターが粉々に割れてしまった。幸いなことに、レンズは傷ついていないようなので、丁寧に割れたフィルターのガラスを取り除いて、写真旅行を続けている。

今日は今日で、立山駅でリュックのチャックが壊れてしまった。これでは、中身が落ちてしまう。幸いなことに文房具兼酒屋があったので、ガムテープを購入してミイラ男のようにぐるぐるとリュックをガムテープで巻いた。まあ、旅行なんて、こんなもんだが、気を取り直して、また山菜そばを前日と同じそば屋で食らう。すでに立山駅は大勢の観光客でごったがえしている。あっという間に、ケーブルカーは2時間待ちになっていた。別ルート室堂行きのバスも長蛇の列である。

9時40分にケーブルカーの乗り場に行き、50分にケーブルカーに乗り込む。ケーブルカーは約500mの高度さをわずか7分で登っていく。最急勾配は56%ということで、見ているとめまいを感じる。途中、階段になっているケーブルカーの通路を、係員がゴミをもって下ってくる。ご苦労なことだ。ケーブルカーの正面には荷台がつけられているのが特徴である。

正面から見ると、トロリーポールが架線に合わせて動くのがわかる

次に、臨時便の10:10発のバスで50分かけて室堂へ。上っていくうちに、雪の壁が登場してビックリする。室堂近辺では、高さ16mの雪の壁。どのように除雪していくのか、不思議である。室堂に着いたが、室堂は観光客で大混乱している。すでに帰りが2時間待ちらしい。そこで、取り急ぎトロリーバス乗り場へと急ぐ。私が子供だった頃、東京や横浜、川崎など大都市ではトロリーバスが走っていた。市電のようにポールから電気をとるが、線路上ではなく道路上を走るバス。ポールがはずれて、竹竿のようなものでポールを架線にひっかける光景がよく見られたそうだ。しかし、日本ではもはや、ここ立山・黒部アルペンルートの2路線しか残っていない。

室堂からトロリーバスに乗る

押し出されるように、トロリーバス乗場に。ここに数台のトロリーバスが停まっている。立山トンネルトロリーバス、正式には立山黒部貫光無軌条電車線である。「上海のトロリーバスのように2台連結されているのかな」と思ったが、1台ずつ。時間をちょっとずらしてまとめて発車するようだ。10時55分発のバスに乗り、11時5分大観峰着。ここで、ロープウエイ乗車の整理券をもらう。乗車までは30分ほど待つようである。待っている間、大観峰の展望台に行く。剣山をはじめ後立山連峰が、目の前に現れて爽快だ。見下ろすと黒部湖が見える。これからそこまで下るというわけだ。

大観峰、展望台から黒部湖を望む。湖の後方が、鉢ノ木岳、ズバリ岳、赤沢岳

「整理券●●の方はお急ぎください」というアナウンスにせき立てられて、立山ロープウエイ乗場へ。臨時便の11:40発のロープウエイで黒部平へ下る。黒部平駅も人でごった返し、観光客の目がつりあがっている。戻りは2時間待ちという噂がここかしこで聞こえてくる。無事帰れるのかが心配になって、「帰りの整理券はどこで手に入るのか」と係員に聞くと、邪見にされる。何回聞いても、「とにかく黒部湖へ」と言われる。むむむ……。

そういえばロープウエイに乗る前に、「昨日は1万5000人の観光客が押し寄せました。立山駅でケーブルカーに乗れない人もいっぱいましたよ。最後に帰った方は、ここを7時すぎに出ました」と話していた。昨日は昨日で大変だったようだ。

ロープウェイで黒部平に

黒部平から黒部湖へは黒部ケーブルカーで降りる

黒部平から黒部湖まではトンネル内を通るケーブルカー(黒部ケーブルカー)は、速度も出るのでちょっと怖い。たったの5分で黒部湖に着く。しかし、これからどうしよう。お昼時、コンクリートで固められた駅のベンチに座ってしばし考える。すると、となりのベンチに座っていた小学生の女の子がポツリと一言。

「ただ乗ってるだけじゃないの」。

そう、こんなに追い立てられて乗るなんて、乗り鉄の私でも、ちょっとつらい。帰りはそれぞれ1~2時間ほど待つらしい。すると……、富山に帰るのは早くて6時、遅くて7時か。眩暈がする。

「や~めた」。今夜も泊るところを決めていない私は、往復の切符をキャンセルし、信濃大町に行くことにした。キャンセル料は1,000円弱だが、しかたがない。そう思うと気が楽になった。歩いてダムになっている黒部湖の堰堤を歩く。風が吹いて帽子が飛ばされそうだがいい気分。このダムの下流が昨日行った欅平にあたるそうだ。

黒部湖。ここがダムになっている

関電トロリーバスで、扇沢へ。

黒部湖からは、関電トンネルトロリーバスに乗ることにした。こちらのコースは比較的すいている。バスは灰色に朱色のアクセントがついたスタイリッシュなボディ。数台のバスが行儀よく停まっている。竿のようなトロリーポールがかわいい。トロリーバスはいわば電車にあたるそうなので、一般のバスのようにナンバープレートが付いていない。たった16分で運賃1,500円の乗り物なのだが、満喫して扇沢に着いたのであった。