連載も10回を数えると、読者からの質問も増えてくる。質問って読んでいるとなかなか楽しい。これも著者の楽しみの一つだ。読者の皆さん、ありがとうございます。今回は質問への回答をしつつ、大糸線での旅の様子をお届けしていく。

まずは、神奈川県厚木市のN子さんより。
「猫街って鉄道の話ですよね。なぜトロリーバスの記事があるのですか? 」

――さすが鉄子さん、いいところ気がついた。実はトロリーバスは日本の法令上、無軌条電車(昔は無軌道電車)として、電車扱いなのだ。ここで、前回載せられなかった関電トンネルトロリーバスをどうぞ。

関電トンネルトロリーバス。バスといっても電車。まあ、ベルギービールがビールなのに発泡酒。というのに似ている?

う~ん、どう見てもバス……。しかし、電車扱い。ちなみにこの写真は、扇沢駅で写したもの。扇沢にはロータリーがあって、進行方向を変える様子が見ることができる。「ロータリー」や「展車台」って萌えるよね。というわけで、次の質問。いらっしゃい~。

大阪市西区のPさんより。
「室堂には雪の高い壁があるそうですが、どれくらいの高さなのでしょう? また、そんなにゴールデンウイークは混むのでしょうか」

雪の壁。1台のブルドーザーで、道路にそって雪を掻いていくそうだ

――では、まずは写真を。「雪の大谷ウォーク」として有名だが、雪の高さを楽しめるのも5月中までだそう。筆者が訪れた時は、高さ16メートルを超えていた。ゴールデンウイークの富山県地方は観光客でいっぱいで、自分のことを棚にあげるが、ホテルの予約をしないで行くのは大変無謀。個人客の場合、立山ケーブルカーなどは事前予約ができないそうなので、団体ツアーを申し込むか、前日に立山に行って切符を買っておく、もしくは早朝行動をおすすめしたい。ゴールデンウイークの黒部峡谷鉄道の混みようは、『ローカル線各駅下車の旅』(松尾定行・著 ちくま文庫)の第5章に詳しく書かれているので、ご参考まで。

読者のみなさん、質問がありましたら、どしどしお寄せください。また、ご自身の鉄道写真や鉄道旅行の話も、ぜひお寄せ下さい。この連載で紹介させていただくこともあります。 ところで、今回もプレゼントがあります。詳しくはコチラに。

信濃大町から旅はさらに続く

さて、前回の続き。扇沢からバスに乗って、信濃大町駅に到着。さて、ここから大糸線→中央本線で東京に戻るか、それとも北に向かって旅を続けるか。どうしたものか。そこで鉛筆を取り出し、北に倒れれば大糸線で糸魚川に、南に倒れれば東京に戻ろうと決める。鉛筆はお約束のように北に倒れ、糸魚川に向かうことになった。

それにしても、北に行く列車の本数は少ない。みどりの窓口は混んでいるものの、99%が東京方面の予約。この日(5月5日)の東京方面の指定席も満席の様子で、明日の新宿行き特急の指定席もほとんど埋まっている……。そんな中、私だけが、「えーと、糸魚川経由、米原経由、横浜市内行きね」と、特別注文の乗車券。駅員も苦笑しながら、「うまく(システムの端末に)入力できるかね」と言いながら発券してくれた。10,820円也。

ローカル線の旅のよさは、なんといってもその地域に住む人や、旅人たちの生の姿を垣間見ることができる点だろう。特に、お母さんやおばあさん、中・高校生の話を聞くと、その地域の姿がおぼろげに見えてくる。ここが車や新幹線、特急の旅と断然異なることなのである。

さて、今回乗る大糸線は、同じ大糸線内でも松本・南小谷(みなみおたり)間の電化区間がJR東日本管轄、南小谷・糸魚川間がJR西日本管轄で、"全区間を結ぶ列車がない"というユニークな線である。信濃大町駅15:04発、南小谷駅行き普通列車は、進行方向左側が4人掛けのボックスシート、右側がロングシートになっている(これをセミクロスシートというそうだ)。席は、地元客を中心に7割ほど埋まっている。

列車は定刻通り出発した。近くのボックス席に座っていたジャージ姿の女子中学生たちが、松本行きの反対側のホームに向かって一斉に手を振り始めた。しかし、ホームの大半の乗客はなかなかなか手を振ってくれない。そのたびにリーダーらしき女子が「あいつら人間でない! 」と笑いながら、大声をあげる。たまに振ってくれる人がいると、「あ、人間がいた! 」とこれまた大声で笑いながらはしゃぐのだった。

ロングシートには、信濃大町駅行きの普通列車から乗り継いだ20代前半の若い男女2人組が座っている。席の下にはスノボのボード。背が高く、まばたきをすると青いアイシャドウが目立つ女の子が、おとなしそうな彼にむかって一言。「普通列車じゃなくて、特急でも白馬にいけるのよ」。「そうか」と若い男はとりあえず返事をしていたが、いつの間にか一番後ろに行って後部から写真を撮っていた。鉄ちゃんなんだな、彼は。

すると、女の子の隣に座っていた20代後半の奥さんが、女の子に話かけてきた。「この季節でもスノボできるんですか」。どうやら、この奥さんは東京から嫁いできたらしい。「ええ、最後の滑りなんですよ。白馬に行くんです。今シーズンはそれほど滑ってなくて、3回だけです」と喋り始めた。そして、女の子はいつの間にか奥さんがあやしていた赤ん坊を抱き始めた。「ええ、赤ちゃん好きなんですよ。早くほしいわ。」と言いながら、後部にいた彼に向かって、赤ちゃんと一緒に写真撮ってとせがむ。

ゆるやかだ。ひたすらゆるやかな時間が流れている。車窓からは黄色い菜の花畑と雪をいだく山々、木崎湖をはじめとする湖が通りすぎていく。一瞬、茅葺きの家かと思って目をこらすと、急な角度のトタン屋根の家並みだった。おそらく、昔は茅葺きの屋根で、そこをトタンで覆ったのだろう。空は、今にも雨が降り出しそうだ。神代駅で、「降りるわよ」と赤ん坊を抱いた奥さんが、今までずーと親指を駆使してゲームをやっていたガタイのよい旦那さんをせかして降りていく。そして、白馬であの若いカップルが下車すると、車内は人気がなくなった。

雨が降り出しそうなのに、傘がない。そんな心配を菜の花畑の黄色い色が励ましてくれた

この日はこどもの日。残雪の白馬連峰をバックに、姫川支流の両岸に架かる鯉のぼりの川渡しが見えた

お待ちかね、キハ52系に乗る

南小谷駅に降りて、糸魚川行きの列車に乗り継ぐ。思わず、「あれ! 」と声をあげた。国鉄色のディーゼルカーが停まっている。知らなかったのだが、非電化区間の大糸線では、国鉄色に塗りなおされた、3両のキハ52系が運行している。それぞれ1両ずつで運行するのだ。

南小谷駅に着いた。赤い国鉄色のキハがかわいく停まっていた

南小谷駅では、鉄道女子たちがしきりにキハ52系に向かってシャッターを切っていた。そして、いよいよキハ52系車両に乗車。運転席直後には、ちょっといかつい30代の男性が陣取っていた。それも国土地理院のおそらく2万5000分の1の地図を数枚片手にもちながら、むずかしげな顔をしている。業界の人かもしれない。黒い大きいバックからはICレコーダーが見える。ということは、録音マニアなのかもしれない。


最近は鉄子さんも……。本日は2名いらっしゃいました

運賃箱に運賃を入れる仕組み

16時14分にキハは定刻どおり南小谷駅を出発した。姫川に沿うように糸魚川に向かう。約1時間の旅である。南小谷からは山間の中を縫うように走っていくために、速度制限も多い。運転席からは、「制限20。よし」という指差し確認の声が漏れ聞こえる。ちなみに1995年7月の集中豪雨で大糸線は損害を受け、約2年4カ月間、南小谷 - 小滝間が不通であったことがある。


北小谷駅の近くで、長いレンズを向けている男性がいた。大糸線非電化区間は、撮り鉄たちにとっては、多くの定番撮影ポイントがある区間だ。北小谷駅をすぎると短いトンネルを1つ経て、大糸線では一番長いトンネル、真那板山トンネルに入っていく。平岩駅、小滝駅間は最も峡俊な地域。赤茶けたいくつもの鉄橋を渡っていく。


鉄橋が連なっていく

キハ52系の車内

16時54分、根知駅に到着。ここで南小谷行きの気動車を待ち合わせ。鉄子たちがここでもカメラのシャッターを切っていた。南小谷行きの気動車は、紺とクリームのツートンカラー。昔のスカセン色である。ここからはなだらかな地域にあたる。日本海側の糸魚川に着いたのは、定刻通りの17時11分だった。

根知駅で、南小谷行きのキハとすれちがう

糸魚川駅のシンボル的存在、赤レンガの車庫