【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

8月23日に本連載でもお世話になっている毎日コミュニケーションズさんから、マイコミ新書『芸能人に学ぶビジネス力』という著書を出版させていただいた。これは世間をにぎわした様々な芸能人を取り上げ、彼らの生き方からビジネスに役立つ成功の極意を導き出した一見指南書であるが、その一方で芸能界をテーマにした娯楽エッセーの要素も大きく内包した、いわゆる読み物でもある。

本書の中には24人の芸能人が登場しており、それぞれの生き方から学びとった成功の極意の数々に、誠に勝手ながら「○○力」と名付けさせていただいている。たとえばAKB48に学ぶ内輪力、加藤茶に学ぶドラム力、中山美穂に学ぶ加齢力……など、一見しただけでは「なんのこっちゃ? 」と首をひねってしまう小見出しだが、いざ読んでみると「なるほど そういうことか」とおおいに膝を打つ、そんな狙いを込めているわけだ。

さて、今回はなぜこういう書き出しをしたかというと、もちろん単純に新著の宣伝でもあるのだが、同時に本書には夫婦生活に役立つ極意も綴られているからだ。

それは本書でも紹介している「春風亭小朝に学ぶスルー力」のことである。未読の方はリンク先の通販サイトに飛ぶか、書店まで足をお運びください。(あざとくてごめんなさい)。これは落語家の春風亭小朝とその元妻・泰葉とのトラブルを題材にしている。遡ること2008年、その前年に春風亭小朝と離婚した泰葉はブログなどで元夫を徹底糾弾。「金髪豚野郎」などと罵倒するだけでなく、250通にも及ぶ脅迫メールを送りつけるなど、生々しい場外乱闘劇を全国に晒した。そういえば、彼女は最近なにをしているのだろう。

こういったトラブルは、僕にとっても決して他人事ではない。夫婦喧嘩の頻度は僕とチーも負けず劣らずであり、どちらかというと感情的なチーは苛々すればするほど、口調が荒くなってしまうところがある。なんでもチーは子供の頃から憎まれ口が絶えないタイプだったらしく、よく母親から「どの口が言うかっ」と怒られていたとか。

僕との口論でもそうだ。「憎まれ口を叩くな」と僕が怒ると、チーはいい年こいた大人であるにもかかわらず、人を茶化したような口調で「口は叩けませーん」と目を剥きながら顎を突き出してくる。加えて「ハゲジジイ」「ハゲかけチビ」「抜け毛メタボ」などといった子供じみた野次はチーの十八番だ。ちなみに野次のパターンは数多あるのだが、なぜかすべからく薄毛を連想させる言葉を交えるところが特徴的である。

相対する僕は、当然ながら腹が立ってしょうがない。なんとかしてチーの憎まれ口を封じ込める手はないものかと、いつも思案に暮れており、彼女の言葉の汚さをいちいち指摘しては、ムキになって応戦する。といっても「ハゲっていうな」「まだジジイじゃない」「そこまで抜け毛は多くない」といった程度の反撃しか思いつかないのだが。

かくして僕らの口論は、毎度の如くあっというまに大喧嘩に発展してしまう。チーも引くことを知らなければ、僕もおめおめと引き下がるタイプではない。ようやく喧嘩のピークがすぎたというのに、どちらも素直な「ごめんなさい」をなかなか言えないため、その往生際の悪さに怒りが再燃するなんてことも珍しくないわけだ。

そんな僕にとって、前述の春風亭小朝は衝撃だった。なにしろ泰葉が各メディアにあれだけ春風亭小朝の悪口を喋り倒していたにもかかわらず、当の本人は徹底してスルー。さらに自分のブログで、ファンを相手にのほほんとした大喜利大会を開催していたのだ。いやはや、お気楽すぎる。あの殺伐とした状況の中で大喜利とは、かなりギャップがある。泰葉にしてみれば「暖簾に腕押し」という感じだっただろう。

また、特筆すべきは彼の高座である。騒動によってイメージを落とし、口座の客が減ったかと思いきや、実際は増加の一途。泰葉の暴走によって春風亭小朝の話題性が高騰しただけでなく、高座の中で騒動について喋ってくれるのではないかと期待されたわけだ。これはなかなかできることじゃない。普通あれだけ泰葉が口撃を仕掛けてきたら、反論のひとつぐらいは繰り出したくなってもおかしくない。しかし、それでも春風亭小朝は一切動じることなく、それらを徹底してスルー。まさに泰然自若の精神だ。

さらに、それでいて高座の動員数を増加させるという離れ業までやってのけるとは、小朝師匠、あなたは本当に恐ろしい人だ。結果的に騒動によって株を下げたのは罵詈雑言を乱射した泰葉だけであって、一方の彼は逆に男を上げた印象すらある。

今後、僕はそんな「スルー力」を夫婦喧嘩の際の参考にしようと思う。チーにどんな口汚い野次を飛ばされても、下手に反論することなく徹底的にスルーする。大体、夫婦の間で巻き起こる口論など、浮気や金銭の問題でも絡んでいない限り、そのほとんどが取るに足らない些末なことだったりするわけで、言わば小さな火の粉みたいなものだ。

だとすると、何を言われても慌てず騒がず、ただ黙っているだけで、そのうち自然と消えていくだろう。世の中の大火事の大半は、小さな火の粉が大きくなった結果なのだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
山田隆道公式Twitter


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普段、なにげなくメディアを通して見聞きしている芸能人。彼らのことを今までよりちょっと肯定的に見ようとする心さえ養えば、あらたに気づくことが山ほどある。

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作 : 山田隆道
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