【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

僕とチーが結婚式を挙げたのは、一般的にゴールデンウィークの初日とされる4月29日の大安だった。だからして、僕らは結婚直後に大型連休に恵まれたわけだ。

普通なら、この休みを利用して新婚旅行に出かけたり、あるいは幸せをゆっくり噛み締める生活を送るところだろう。しかし、僕らの場合はそのどちらでもなかった。式の前から、この連休期間中にやらなければならないと心に決めていたことがあったのだ。

それは新居の整理である。

僕らは1カ月以上も前に新居に引っ越していたにもかかわらず、式の準備が忙しかったため、部屋の中はまだダンボール箱で溢れかえっていた。したがって、この連休期間中に一気にダンボールを片付け、新婚家庭らしい整理整頓された部屋を作りたかったのだ。

といっても、僕の私物は簡単に片付いた。もともと僕は物欲があまりなく、新居に運んできたダンボール箱の数も片手にあまる程度しかなかったからだ。

しかし、チーは私物が多いタイプの女性である。新居に運んできたチーのダンボール箱の数は1ダースをゆうに超えており、見るからに整理に時間がかかりそうだ。

「引っ越しのときは時間がなかったから一応全部ダンボールに詰めたけど、実際は半分以上捨てるもんだから安心して」

チーはそう宣言すると、次々にダンボール箱を開封した。それぞれの表面にはマジックで「洋服」「本」「漫画」「雑誌」「CD」「DVD」「靴」「小物類」などと書かれている。

正直、不安でしょうがなかった。新居の収納スペースを考えると、これだけの量はどう考えても全部収まりそうにない。本当に半分以上は捨ててもらわないと困るのだ。

ところが、チーは最初に開封した洋服のダンボール箱で早くも苦戦した。

「これ(洋服)ももしかしたら着るかもしれないし、これも最近は着ていないけど、そのうち急に着たくなるかもしれないし、これはもうサイズが合わないから二度と着ないのは間違いないけど、でもデザインが気に入っているから記念にとっておきたいし……」

と、こんな調子だから一向に洋服が減らない。いわゆる断捨離の基本として「1年間着なかった洋服はその後も着ないから捨てる」という真理があるそうだが、チーはそんな一般真理とは無縁の世界で生きている。大体、「二度と着ないけどデザインが気に入っているから捨てない」ってどういう理屈だ。さらに「上京して初めて買った○○だから、思い出が詰まっていて捨てられない」というセンチメンタルな品物まであった。そういった実用度が低い細々とした品がたくさんあるからこそ、チーは私物が多くなるのだろう。

また、洋服以外では雑誌や少女漫画の類が特に多かった。

これらは僕の書斎の本棚をフル活用して、なんとか陳列することにした。確かに僕は漫画原作者(現在は月刊アフタヌーンで漫画『雑草女』を連載中)でもあるわけだから、本棚に漫画が多くても変ではない。

ちなみに、その本棚には俳優・安藤政信の写真集や人気フォークデュオ・ゆずの記事が掲載されている雑誌、さらには彼らの雑誌の切り抜きを集めたファイルや各種コンサートの使用済みチケット(チー曰く、記念の品らしい)なども並べられている。もちろん僕ではなく、すべてチーの趣味だ。要するに、彼女は根っからのコレクター気質なのだ。

そう、コレクターだと思うと納得できる。僕にとってはガラクタにしか見えない細々とした私物であっても、チーにとっては大切なコレクションなのだろう。

しかし、そう納得した矢先、新たに驚くべきものを発見した。

それは玄関先に積み重ねられていた、チーの私物と思しき数箱のダンボール群。(まだあるのか!)それぞれの表面に、マジックで大きく「ガラクタ」と書かれていたのだ。

ガラクタって、一体なんだ――!? 言葉だけで解釈すると、あきらかに必要のないものだ。チー自身が、これは宝物でもなんでもないと認めている証拠じゃないか。

チーが中を開けると、そこには学生時代に使用していたノートやちょっとしたメモの切れ端、各種バイトをしていたときに使っていた思い出の品々、謎のチラシ類やステッカー類、なんだかよくわからない些細な玩具など、文字通りガラクタとしか呼べないような細かすぎる私物がぎっしり詰まっていた。それがダンボール数箱分なのだ。

「こ……これはなに?」僕は恐る恐る訊ねてみた。
「なにって? 見りゃわかるでしょ。ガラクタだよ」とチー。
「そうだよね。誰が見てもガラクタだよね……」
「だってガラクタって書いてあるじゃん」
「ってことは、全部捨てるんだよね?」
「いやあ、それは微妙だなあ」

「捨てろよ――っ!」

思わず語気を強めた。さすがに我慢の限界だ。頼むよ、チーさん。完全にガラクタと認めているのなら、いいかげん捨ててくれ。これ以上、我が家には入りきらないぞ。

かくしてゴールデンウィーク最終日になっても、新居の中は依然としてダンボールだらけだった。当初は「半分以上捨てる」と豪語していたチーだが、終わってみれば三分の二は残った状態。いつのまにか僕のイライラはピークに達し、無意識のうちに「ダンボール嫌だあ、ダンボール嫌だあ……」と蒼褪めた顔で繰り返すようになっていた。

理想とする新婚夫婦の部屋が完成したのは、まだまだ先のことだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。

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