スカイマークが提出中の民事再生法の適用申請、そのまま通るか不透明な情勢

スカイマークが提出中の民事再生法の適用申請がそのまま通るか、不透明な情勢だ。スカイマークは5月29日にANAホールディングスや投資ファンドのインテグラルなどの出資を柱とする再生案に合意し、その成立を目指している。

ところが、スカイマークの債権者で約1150億円の債権を持つと主張している米リース会社イントレピッド・アビエーションが、ANA中心の再生案に反対を表明している。また、約880億円の債権を持つと主張しているエアバスからも、同意は得られていない。

イントレピッドは、ANAではなく、米デルタ航空など日本での事業拡大に意欲を持つ航空会社複数をスカイマークの支援者に迎え入れる独自の再生案策定を目指している。

イントレピッドは当初、ANAによる支援に賛成する予定だった。それは、ANAが、スカイマーク向けのリース機材を引き取る意向を表明していたからだ。ところが、ANAがリース機材の引き取り交渉を打ち切ってから、ANAによる再生に反対姿勢に転じた。

イントレピッドは、スカイマークが使用する航空機A330をリース契約によって提供していた。スカイマーク破綻でリース契約は消滅するが、機体自体は確保している。そこで、A330の転貸先を探す必要が生じた。有利な転貸先が見つかれば、スカイマークから受け取ることができなくなるリース料1150億円のかなりの部分を回収できる可能性がある。当初、有利な条件でANAにリース機材の転貸が可能になると期待していたイントレピッドは、それができないとわかって、再生案に反対に転じた。

エアバスも同様だ。スカイマークから受注して製造していた航空機を、スカイマークに納入できなくなったため、転売先を探さなければならなくなった。当初予定と同じ価格で、他の航空会社に販売できれば、スカイマークから受け取る予定だった880億円のほとんどを回収できるが、それは無理である。

スカイマークがエアバスに発注していたのは、A380という高級大型機である。このクラスの航空機を引き取れる航空会社は少ないので、転売先を見つけるのは容易でない。販売のために値引きが必要になるだろう。スカイマーク向けに製造した機体には追加で改装コストも発生する。このような転売に伴う損失をいかに小さく抑えるかにエアバスは頭を痛めているところだろう。ANAによるスカイマーク再生案では、エアバスへのメリットが十分でないと判断している節がある。

複雑な利害が絡むスカイマーク支援に、あえてANAが踏み込むメリットは何か?

それでは、これだけ複雑な利害が絡むスカイマーク支援に、あえてANAが踏み込むメリットは何か? スカイマークの価値は、羽田発着の国内便1日36枠を保有していることにある。羽田発着便は、日本の航空業界にとって貴重な収益源である。東京に近い利便性から需要増加が続いているが、発着枠が認可性となっていて、外資系やLCC(低価格航空会社)など新規参入組は羽田発着を増やせない。

日本も世界も、LCCの参入で航空運賃は価格破壊が進んでいる。ところが、羽田発着便は、現状、ANAとJAL、およびANAの出資を受けている航空会社を中心に運営されているので、大幅な値崩れが起きていない。これまで独立系だったスカイマークがANAの出資先となれば、これまで通り、ANAとJALによる羽田発着便の実質的な支配を続けられることになる。

ANAは、スカイマークの持つ羽田発着枠が、米デルタ航空など海外の航空会社に握られることを望んでいないはずである。米イントレピッドの要求をかわし、ANA主導の支援を実現するのにはどうすべきか、頭を悩ませているところだろう。

スカイマークはなぜ無謀な拡大投資に走った?

それにしても不可解なのは、スカイマークがなぜ無謀な拡大投資に走ったかだ。スカイマークはもともと低価格を売りにしていた。低価格が競争力の源泉だった。ところが、近年、スカイマークよりもさらに低価格のLCCの参入が増加して、競争力が低下しつつあった。

スカイマークは、そこで高級路線に転じて、巻き返しを図ろうとした。身の丈に合わない大型高級機をエアバスに大量発注したが、受け入れることができず、キャンセル料も払えなくなったことが破綻の引き金となった。業界の風雲児として話題を振りまいてきたが、堅実経営に徹することができずに破綻に至った。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。