男性学の研究者が父親になってみたら……?

男性学の研究者として、男性の働き方や生きづらさについて社会に発信している田中俊之さん。今回は、今年のはじめに子どもが誕生し、新しい家族を迎えた田中さんが考える研究者としての思いと父親としての現実の葛藤についてお伝えします。

家事・育児の"フェア"って何?

これまでの連載でも繰り返し述べてきましたが、日本では男女の賃金格差があるため、ほとんどの家庭では男性が主な稼ぎ手になっています。もちろん、男女平等という観点からこの問題は解決されるべきだと僕は考えていますが、簡単に埋まる溝ではありません。だとすれば、現在の子育て世代は、こうした状況の中で、家計にせよ家事・育児にせよ、夫婦間のフェアな分担を考えるケースが多いのではないでしょうか。

男女の置かれている経済的な条件が同じではないのですから、何をもってフェアとするかは本当に難問です。我が家も例外ではないので、日々、僕自身が向き合っている悩みでもあります。

夫婦ともに総合職で働いているケースは、まだまだ少ないのが現状です。男性学の立場からは、「男性だからという理由だけで、一家の大黒柱にならなくてもいいんですよ」、あるいは、「女性だからという理由だけで、家事・育児を引き受けなくてもいいんですよ」と言いたいのですが、女性が働いて男性と同じような賃金をもらえる状況がないとアドバイスとして成立しません。性別で役割分担をせずに、フェアな夫婦関係を目指している方たちは、本当に難しい立場に置かれているなと思います。

いまの子育て世代が苦悩することで、将来的には新しい夫婦のスタイルが確立していくはずです。しかし、それでは現在、フェアな夫婦関係を目指す子育て中の世代は未来のために犠牲になるしかないのでしょうか。自分たちが犠牲になるなんて誰でも嫌ですよね。したがって、多くの家庭でより葛藤の少ない「男は仕事、女は家庭」という分業が選ばれることになります。国や企業、そして私たち一人ひとりが、共働き化にスムーズに移行するための方策を真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

このように、現在の夫婦関係の問題は深刻にも関わらず、解決の糸口が見えないという状況に置かれています。ですから、「生物学的」な解説を頼りにする人が多いのかもしれません。具体例としては、男女の脳の違いから、夫婦のすれ違いを説明するような議論があげられます。つまり、「男と女は脳の構造が違うのだから仕方がない」と結論づけて、複雑な問題に向き合わないで済むようにしているわけです。

脳科学の成果を否定したいのでありません。近年、この分野の発展は目覚ましいものがあります。しかし、僕が気をつけなければならないと考えているのは、脳科学を装い、「男と女は脳の構造が違うのだから仕方がない」などと安易な結論を押し付けてくる主張です。

社会学者のピーター・L・バーガーは、次のように述べています。「人形たちと違って、われわれには自分たちの動作をやめて自分たちを動かしてきたからくりを見上げ認識するという可能性が残されているのである。この行為にこそ自由への第一歩があるのだ」。フェアな関係を目指す現代の夫婦が置かれている状況はとても困難なものですが、簡単ではないにしても、僕たち人間は自分たちの意志で道を切り開いていくことができます。その点にもっと希望を持っていいはずです。

※写真と本文は関係ありません

著者プロフィール

田中俊之
武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。自身も0歳児の子どもを持つ育児中のパパ。単著に『男性学の新展』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか! 』、共著に「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」などがある。