幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第121回は俳優の吉岡秀隆さんについて。1年中ドラマを楽しんでいるオタクの私から見て、吉岡さんが出演中の『コタツがない家』(日本テレビ系)見せた演技は、今年の一大トピックだと言える。この後に散々書くけれど、役柄でダメ旦那となった彼の姿は、地上波ドラマの革命だったかもしれない。

『コタツがない家』は令和版の『渡鬼』だ

  • 吉岡秀隆

まずはいよいよ最終回を迎える『コタツがない家』のあらすじを。

深堀家には日々、家族問題が勃発している。漫画家と言いながら10年以上作品を発表していない夫・悠作(吉岡)。進路が決定しない長男・順基(佐間龍斗)に、経営者として働き、深堀家の経済を支える妻・万里江(小池栄子)。ここに財産を騙し取られた、万里江の父・山上達男(小林薫)も同居することになる。最近ではニート夫の悠作が発信となった、離婚騒動も執着。やっと深堀家にも穏やかな日々が訪れるのか?

悠作役が革命だったと前述したけれど、このドラマそのものが革命だった。かつての日本が打ち出した理想の家庭通り、父親が社会を支えて、母親が家庭を守る……というパターンが一般化していた地上波ドラマ。でも待ってくれ。もう時代は猛スピードで変わっている。お父さんが働かなくても、家事をしても、お母さんの稼ぎが良くても何の問題も生じない。

私の友人にも結婚した瞬間にニート化した旦那を持ち、自分が働いている女性もいる。家事も育児も経済もすべて母任せ。それでも本人たちが幸せならいい、という時代にそぐう作品だった。

後半につれて盛り上がっていく、まるでリレー走のような金子茂樹さんの脚本もとても良かった。『コタツがない家』は令和版の『渡鬼』だった。

そんな作品で女性視聴者の神経を逆撫でしまくっていたのが、吉岡さん演じる悠作だ。漫画家として働かないだけではなく、家事もできない。出版社の編集担当が漫画を描くように促しても、超然と御託を並べて、まず動くことはない。車の運転はいつも妻任せが基本で、金をくれそうな義母の前ではゴマを擦る。一丁前に漫画の作業をするための一人部屋もある。自宅の頭金は妻の実家に払ってもらって、ローンは妻払い。ああ、書いているだけで腹が立ってきた。

『北の国から』純以来のクズ男役だった

ではなぜ吉岡さんが悠作を演じたことが、私にとって……いや、視聴者にとって衝撃だったのか。それは彼がこれまで演じてきた役柄が、謙虚ささえ感じられる控えめで、心のまっすぐな役ばかりだったから……

読者の方も知らない人がいるかもしれないので、簡潔に説明をすると、吉岡さんは子役から活躍する俳優だ。もう生きた年月ぶんに近いほど、働いている。代表作には『北の国から』(フジテレビ系 1981年)の、黒板純役。父親役の田中邦衛による

「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」

の名セリフで有名な国民的認知ドラマだ。ここで顔と名前が一気に知られた。超・有名になった黒板家のことを、親戚のような感覚でドラマを見ていた人も多いはず。

その他、映画『男はつらいよ』シリーズ、『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系 2003年)など、日本の名作シリーズにはいつも彼の名前があった。現代には貴重な存在となった、役者一辺倒で邁進されてきた人だ。そんな日本の宝が突然、全女性を敵に回すような憎たらしい役を演じたのだから、さあ大変。これは手のかかる子どもだった、純以来のクズ役だ。

ただ最終回が近づいて思うのは、今年を代表するほどの、好キャスティングだったこと。あれは公私ともども穏やかなイメージの吉岡さんだったから、まだ視聴者側にも許容範囲が見える役だった。他の人が演じたら大炎上だったかもしれない、そう思うと、悠作の小憎たらしいあの顰めっ面も、なんだか許せる気がして……きた? 最終回が楽しみだ。