幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第119回はタレントのホラン千秋さんについて。現在放送中の『コタツがない家』(日本テレビ系)に、女優として出演している姿を見かけて「おっ」とうなりました。ホランさんといえばウィークデイは『Nスタ』(TBS系)のキャスターとして出演している。その多忙な最中にスケジュールを工面して、ドラマ出演とはなにがあったのかしら。おばさんのアンテナが動き始めました。以前から気になる存在だったので、記憶を回想しながら書き進めたいと思います。

  • ホラン千秋

働かないダメ彼氏を支える彼女

まずは出演中の『コタツがない家』のあらすじを。

ウェディングプランナー兼経営者として働く、深掘万里江(小池栄子)。彼女の家族はダメ男で固められている。まずは10年間、働いていない漫画家の夫・悠作(吉岡秀隆)。大学受験を放棄した息子・順基(作間龍斗)。熟年離婚によって妻に捨てられ、投資で失敗をして身ぐるみを剥がされた実父・山神達男(小林薫)。深掘家の生活費を稼いでいるのは、万里江のみ。職場でも家庭でも気が休まることのない彼女に明るい未来は来るのか。

このドラマは令和の「渡鬼」である。少し前のファミリードラマといえば、嫁姑バトルや、執拗ないじめが取り上げられていた。が、時代が変わった。ニート旦那なんぞザラに存在する昨今。悠作のような男は珍しくない。漫画家という免罪符を振りかざして、自宅にい座る夫をどこまでもかばう妻。そんな状態で起こる、舅婿バトル。舅が義息子の生態をことごとくチェックして、娘に報告するシーンが表すように、男同士の争いのほうが陰湿だ。

「女は家事ができないとな」「胃袋を掴まないと」「男だから料理はできないんだよ」と、宣っていた男性軍へ。これは現代の男性像を映す鏡としてぜひ見てほしい。そんなことを思いつつ、ニヤニヤしながら放送を楽しみにしている。

そしてホランさんが演じているのは、万里江が経営する会社で働く、八塚志織役。これがとても様になっている。ナイスキャスティング。

狙うは女優業なのか?

志織は33歳という結婚に焦る年齢……にもかかわらず、同棲しているのは建築士を目指す、フリーター……そう、万里江予備軍のような女性だ。ちなみに家族を養う深掘家にはコタツはないけれど、恋人を養う八塚家にはコタツがある。いったいこの差はなんだろう。

当初は結婚に興味がないと言っていたものの、本心は抑えられることなく、最近、恋人に逆プロポーズ。いや、結婚しないなら年内に家を出て行けという、脅しか、三行半に近い思い切った発言をした。これには多くの女性が共感しただろう。そしてホランさんが志織役にとても似合っている。帯番組と並行という強行スケジュールでも、彼女に出てもらう意味があった。

私はホランさんのことを勝手に"努力の人"だと思っていた。番組名はさっぱり忘れたが、10年近く前のバラエティ番組で「アナウンサーになりたかった。でもキー局はすべて落ちた」と話していたことが始まりだ。

大手芸能事務所に所属して、さまざまな番組の雛壇で彼女をご意見版として見かけていた。ふつうならこのポジションで、フリーキャスターと言われる人は満足するだろう。報道番組に収まるのは東大よりも狭き門だ。

その門を彼女はくぐった。『Nスタ』の顔として出演を決めたのだ。キー局全落ちから10年以上を経て、あきらめずに勝ち取ったポジションである。きっと多くの視聴者は「え、この人ニュースキャスターだったの?」と驚いたはず。ライバルは増える一方で、フリーアナウンサーが群雄割拠する業界において、これを努力以外のなんと呼ぼうか。あの独特なショートカットもひょっとしたら、安藤優子さんを意識していたのかと、邪推してしまう。

そして、女優としても好ポジションにて復活。その姿を見て「この人が次に狙うのはどこなんだろう?」と興味がわく。故・野際陽子さんが築いたアナウンサーから、女優への転身。現在では田中みな実がその先頭を走っているけれど、ホランさんもやはり狙っているのだろうか。いずれにしても努力の人だ。なんでもやってのけそうで怖い。そんなことを考えていると、締めくくりに「ほ~ら、見てホラン」とつまらないダジャレを思いついてしまった。すみません。