いつかは出るんじゃないか…と誰しも思っていたクラシックデザインのフルサイズミラーレス「Z f」が満を持して登場! 現行モデル「Z 6II」の外装や操作部を変えただけ…というひねりのない仕上げにはせず、上位モデル「Z 9」「Z 8」にもない機能や装備をいち早く搭載するなど、意欲的な内容にした点にニコンの本気を感じます。落合カメラマンは、その点に目ざとく注目しつつも、ちょっと気になるところがあったようです。

  • ニコンが10月に発売するZマウントのフルサイズミラーレス「Z f」。予想実売価格は、ボディ単体モデルが30万円前後、写真の特別デザインの単焦点レンズ「NIKKOR Z 40mm f/2 (SE)」が付属するキットモデルが331,000円前後

確かに大きく重いが、カメラを操る楽しさはZ fならではの魅力

あれ? 意外に大きくて重いな・・・。これが、ニコン「Z f」に初めて対面したときの率直な印象だ。

フィルム一眼レフっぽい横長なボディシルエットはちゃんと再現されているし、大きい、重いっていったって、フルサイズミラーレス機の範疇をはみ出すほどデカいワケでもない。絶対的なサイズ感ではなく、例えば富士フイルムのX-Pro3を初めて見たときに感じる「うおっ! Pro3って意外にデカいんだぁ」と同類の印象がそこにはあったということ。ん? ちょっとわかりにくい、かな?

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO100、1/8000秒、F2.0

先行して“ステキなネックレス”になってくれていた「Z fc」のサイズ感を知っているからこそ、まったく同じ系統の外観を持つことになったZ fに対する第一印象が「デカ・重」になってしまったともいえそうだ。Z fcとのサイズ差は、新たにフルサイズセンサーを搭載したことを考えれば「必然の違い」であり、現実には納得することにも造作はない。そして、Z fの質量は710g。これ、例えばZ 6IIとの比較では、わずかに5g重いだけ。大々的に文句をいわれる筋合いなどないハズだ。

でも、ネックレスにするには少々、大きい。そして、やっぱりもうチョイ軽い方がウレシイ。そんなこんなで、個人的には、Z fの登場によりZ fcの存在が見直される流れもあり得るのではないかと密かに思ったりしている。ナニを隠そう、ワタシ自身がその感情に流されそうになっているのだから困るのだ。

一方、Z fを手にしたときの手応えを「前カバーとトップカバーにマグネシウム合金をおごり、またダイヤルは真鍮製とした」こだわりの作りならではのものとして好意的に受け止めることも難しくはない。スカッと軽いエントリー機みたいな持ち心地より、手にしっかり存在感を伝えるボディの方が「カメラを操る快感」みたいなものを得やすいと考える向きも存在することだろう。結果、それが写真を撮る楽しみにつながるのであれば、それこそが正解だ。他人が文句を差し込む余地はない。

F3風デザインにしてZ fcとの差異化を図る手はなかったか

さて、こちらの写真は、ワタシがフィルム時代に愛用し温存してきているニューFM2とのツーショットである。Z fがここで魅せる、見ている方が恥ずかしくなっちゃうぐらいの徹底した作り込みは、なるほど、こりゃニコンにしかできない離れワザだよなぁ~と納得させられると同時に、Z fのこのサイズ感なら、FM2ではなく「F3」をモチーフにしたモデルもアリなんじゃないかと思ったりもした。いや、それではニコンがいうところのヘリテージデザインにはなり得ないのかな? うーん、難しいところではあるけれど、個人的には「Z fcが肥大化しただけのZ f」という失礼な見方をされかねない“隙”がZ fには残されているように思えてならない。これほどまでにZ fcと相似形に仕立てなければならなかった理由、それは一体なんだったのだろう?

  • Z f(左)と、落合カメラマンが長年使い込んできたFM2(右)。デザインの再現性は相変わらずお見事というクオリティだ

とはいえ、Z fは既存の同コンセプトモデルZ fcとは、そもそも大きく異なる意義を有するカメラであるとの見方も可能だ。Z fcがすでに存在していた「Z50」の外装を整えたモデル(ごく一部に機能向上もアリ)であるのに対し、Z fは「こんな外観をしているくせに中身にはニコンZの中で“最新”の部分も併せ持つ」存在だからだ。つまりZ fって、機能やスペックにおいて、Z 6IIやZ 7II、Z 8、Z 9を超える要素を備える“最新鋭機”でもある。この点には着目しておいて損はない。

例えば、最新のイメージセンサー(ただしZ fはZ 6系のセンサーを踏襲と想像)とEXPEED7の組み合わせは、遠からず登場する・・・のかもしれないZ 6III(?)やZ 7III(?)の基本構成を先取りしたものであるように見える。また、カスタムワイドエリアのパターン数の拡大や被写体検出において9種の同時検出が可能であるところも、6や7の“次”の装備をそこはかとなくアピールしているように感じるワケで、つまり、懐古趣味的なカッコとは裏腹に、Z fは「ニコンZ中堅機の未来予想図」にもなっていそうなのだ。

加えていうなら、手ブレ補正はZ 9を凌駕する約8段の補正効果を謳いつつ、従来は画像の中心部を基準に制御していたブレ補正を「ピントを合わせている部分」に連動させられる「フォーカスポイントVR」を世界で初めて採用。Z f、ジツはナニゲにけっこうキレキレなのである。

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO100、1/2500秒、F2.0

そして、高速性にも抜かりはない。約14コマ/秒の連写のみならず、ハイスピードフレームキャプチャーは汎用性の高い「C30」設定のみに割り切りつつもしっかり搭載(Z 8とZ 9に搭載のあるC60、C120の設定はなし)。つまり、これは、過去に遡っての画像記録ができる超現代的な機能「プリキャプチャー」もできるということを示しているのだけれど、レトロな外観のカメラでナニゲにそんなコトができちゃうというデジタル時代ならではのギャップというかネジれみたいなものには、けっこうシビれるものがある。やっぱり、見た目を良い意味で裏切るギャップって大事よね。

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO100、1/6400秒、F2.0

ワンタッチでモノクロ撮影に切り替えられる醍醐味

Z fには、ボディ上面のシャッター速度ダイヤルと同軸で静止画/動画の切り替えレバーが設けられている。そして、そこには「B&W」のポジションが。静止画/動画の切り換えと同列で「モノクロ」撮影への切り換えができるようになっているのだ。

  • NIKKOR Z 14-30mm f/4 S使用、ISO7200、1/8000秒、F8.0

  • シャッター速度ダイヤルの同軸には、写真と動画の切り替えに加え、新たにモノクロ撮影ができる「B&W」のポジションを用意した

サービス精神、大爆発である。いや、でも、正直、ユーザーにそこまで媚びを売らなきゃならんのか? とも思った。モノクロにワンタッチで切り替える必要ありますかね? モノクロ好きなら、モノクロに設定したら1日中そのままなのでは・・・??

このスタイル(外観)でここまでモノクロ推しを強く訴えるのであれば、「モノクロ撮影時にもファインダー表示はカラー」というカタチ(光学ファインダー撮影のイメージ)でもフィルム一眼レフテイストを再現するという、デジカメとしてはヘソの曲がった設定ができても良かったような気がしないでもないね。デジカメになって何が嬉しかったって、モノクロ撮影時にファインダー(モニター)が仕上がりイメージそのままのモノクロ表示になるところがチョ~新鮮で有用だったワケなのだけど、その利便性をあえて手放すことで、新たな自己満足を得ようという算段だ。まぁ、すぐにイヤになりそうだけど(笑)。

そして、Z fcとは異なり、ダイヤル横に出っ張る指標とボディに刻まれた文字の間に「-」が描かれたことで、妙に間抜けな見た目になってしまった撮影モード切り替えダイヤルこそ、Z fではピクチャーコントロールその他の設定をプリセットできるダイヤルにする(B/Wのみ固定設定として、他のポジションには任意の設定を割り当てられる。撮影モード切り替えはシャッターダイヤルと同軸部分に移設)というアレンジがあってもよかったように思う。Z fcとの操作共通性を鑑みると、そうそう簡単にアレンジできる部分ではないとは思うのだけど、異端児同士、そこまで互いを意識する必要はないようにも思うのだが・・・。

  • 左肩にあるISO感度ダイヤルの同軸には、撮影モード切替ダイヤルを配置

Z fcでどうしても心許なかった「片手持ち」の安定感が、Z fでは劇的に改善されているところも注目ポイントだ。ものすごく控えめなグリップ(のような、わずかな出っ張り)が存在するだけで、これほど片手ホールディング性が改善するとは、まさに目からウロコがポロリの現実でありました。見た目に違和感を与えずに最大効果をもたらす位置と形状とサイズ(出っ張りの程度)に相当の作り込みを感じさせる、実に見事な仕上がりである。

そしてワタクシ、日常モノクロに逃げることはほぼ皆無な写真生活を送っているのだけど、たまーにモノクロ漬けになってみるのも悪くないと今回、再認識。これ、ナチュラルに飛ぶハイライトと完全には潰さず、しかし抜け目なくグッと締め上げることも忘れないシャドーのバランスが誠に絶妙であるという、ナニゲに骨太なZ fの画作りにウムム・・・となった結果である。いやー、ハマったらキケンなパターンですな、こりゃ。色つきの写真を撮るのがヘタになる予兆がビンビンである。

  • NIKKOR Z 14-30mm f/4 S使用、ISO100、1/3200秒、F5.6

“次期Zシリーズ”の姿がおぼろげに見えてくる

キットレンズの40mm f2は、プラマウントで決して高級なモノではないのだけど、そのスカッと軽いところがZ fとのコンビでは救いになるとの見方も可能。しかし、ぶっちゃけチョイぼけ部分の描写などをシビアに見ちゃうと、描写力の評価はあくまでもそれなりになってしまうので、Z fが発揮しうる緻密な画作りをしっかり引き出すためには、他のレンズの積極使用が望まれる・・・のだが、ほかに見た目に似合うレンズがないのはご承知の通り。この構造的な問題をいかにしてクリアするか? いや、そこまで考えちゃイケナイんでしょうけど、この手の路線でフルサイズ化に踏み切ったということは、そこまで考える必要性を生じさせたってことでもある。ちゃんとオトシマエはつけて欲しい。せめて、同コンセプトに基づくデザインが施されたS-Lineのズームレンズ1本ぐらいはラインアップしないとね。

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO100、1/125秒、F2.0

そして、このナリでZ9、Z8に準ずる3D-トラッキングAFを搭載。あえて言うまでもなく、そのギャップもZ fならではの快感ポイントだ。

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO100、1/100秒、F2.0、-0.7露出補正

というワケで、このカットは3D-トラッキングAF(AF-C)に設定の上、まずは熊手にフォカースポイントを合わせてAFを動作させ、追尾すべき被写体(ピントを合わせ続ける対象)が熊手であることをカメラに認識させた後に、このフレーミングにカメラを振って撮影したもの。「被写体の動き」ではなく、カメラの動き(フレーミングの変化)をあたかも被写体が動いたかのごとくカメラに信じ込ませての撮影・・・みたいな感じなのだけど、AF-Cの挙動が安定していれば、そして、いわゆる追尾AFの精度が高ければ、このようにAF-C設定のままAF-Sのフォーカスロック的な動作が簡単に得られるというワケ。

AF-Sのフォーカスロック的な使い方をトラッキングAFで行う場合のZ fの扱いやすさは、既存のZ 6、Z 7シリーズの比ではなく、Z 9、Z 8レベルの仕上がりだといっていい。こうなると、新しいイメージセンサーを搭載してくるのであろう次期Z 6&Z 7のAFに対する期待も、これまでよりさらに数段階、盛り上がるというもの。そっちも楽しみだ。

今回の試用で気になったのは、ただ写真を撮っているだけなのに、いとも簡単に温度警告表示が出たところ。それも、1回や2回ではなく、しょっちゅうお目にかかるような状態だった。猛暑日の連続記録を更新し続けているような環境下での撮影だったとはいえ、これは想定外の挙動。警告表示が出たからといって動作が止まることはなかったのだが、動画撮影時にどうなるのかは未確認。表示に係るしきい値の設定に何らかの不備があったのか、実は排熱に難を抱えていたりするのか、はたまた単なる個体の問題か? 他で同様の話が出てこないのであれば、使用した個体の問題だったのだろうけれど・・・。

と、気になるところはありつつも、Z fが紡ぐ写真の仕上がりに文句は皆無。いついかなるときにも、レンズの性能をキッチリ引き出す解像描写を見せてくれる。そして、最強の手ブレ補正やZ 6II比で1/3段程度の向上が見込まれる超高感度画質など、ミラーレス機としての“実力”についても、切り口によっては現行Z勢のトップに位置するとの判断も十分に可能だ。ただ、繰り返しになるけれど、そこはそのまま「Zの未来予想図」にもなっているワケで、次期Z 6、Z 7に期待を向けておくのも、ここで登場したZ fというカメラに対する1つの理解にはなり得るのではないかと思う。

  • NIKKOR Z 40mm f/2(SE)使用、ISO500、1/1000秒、F8.0、-0.7露出補正

ワタシはかつて、Z fcのことを「どん底の化学反応が生んだ奇跡のコスプレイヤー」と称したことがある。しかし、Z fに対しては、そこまでストレートな感情は引き出されなかった。Z fが想像以上に「そのまんま」だったことに対するコレじゃない感が感情をバグらせているようにも思うのだが、Z fの受け止め方は千差万別、十人十色でよいと思う。評価が一方向に偏るカメラは、たとえ性能が飛び抜けていようとも、往々にして撮っていて楽しくなかったりするものであり、なんだかんだいってもZ fがその対極に位置するカメラであることだけは間違いないのだから。

  • SNSでは早くも賛否両論が巻き起こっているZ fだが、落合カメラマンは撮影することが楽しめるカメラであることは確信した様子。改めて、落合カメラマン得意の超望遠ズームレンズを使ってのインプレッションをお願いしたいところ