現在公開されている、映画『唐人街探偵 東京MISSION(原題:唐人街探案3)』。中国の大ヒット映画の第3弾で、東京を舞台にしたド派手な展開が話題を呼んでいる。国際的に事件を解決してきたチャイナタウンの探偵コンビ、タン・レン(ワン・バオチャン)とチン・フォン(リウ・ハオラン)が、日本の探偵・野田昊(妻夫木聡)から難事件解決への協力を依頼されて東京に飛び、東南アジアのマフィアの会長の密室殺人事件で、犯人として起訴されたヤクザの組長・渡辺勝(三浦友和)の冤罪証明に挑む。トニー・ジャー、長澤まさみ、染谷将太、鈴木保奈美、奥田瑛二、浅野忠信、シャン・ユーシエンと、中国・日本・タイの豪華俳優が集結した。

今回は、日本の探偵・野田を演じた妻夫木聡にインタビュー。中国旧正月初日の2月12日に公開され、初日に約10.1億元(約164億円)の興行収入を記録し、歴代1位の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)を抜いて全世界オープニング週末興行収入No.1の新記録を樹立するなど、とにかくスケールの大きな同作に参加した印象や、日本のトップスターが見た中国の映画界の様子などについて、話を聞いた。

  • 映画『唐人街探偵 東京MISSION(原題:唐人街探案3)』に出演する妻夫木聡

    妻夫木聡 撮影:宮田浩史

■監督は日本の漫画や映画もすごく好き

——妻夫木さんはシリーズの2作品目から参加されて、今回第3作がついに日本公開しますが、今の気持ちをぜひ教えて下さい。

「『3』を東京編で作る予定なので、『2』にも出て欲しい」ということで、同時にオファーをいただいたのが、4年ぐらい前だったかな。ようやく日本でも公開するというのがすごく嬉しいし、タイミングもコロナ禍前だったから、東京に人が溢れている中で撮影が出来てたので、今考えるととても貴重なことだったと思っていますし、今だからこそ、活気あふれた街の姿を見てほしいです。

——かなりド派手なシーンもたくさんある作品ですが、タイトルの通り探偵ものでもありますよね。主人公の1人であるチン・フォン(リウ・ハオラン)がミステリマニアで、ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』を引用したり。謎解きの面白さも感じましたか?

やっぱり、謎解きって面白いですよね。監督が日本の漫画や映画もすごく好きらしくて、「どうしても出て欲しい」と頼んで『金田一少年の事件簿』の原作の方(樹林伸)もカメオ出演されてるんです。秋葉原でコスプレの服を選んでいるときに「ジッチャンの名にかけて」というセリフがある、わかりやすい出方をしてるんですけど(笑)。監督が本当に好きなんだろうなと思います。『唐人街探偵』シリーズは探偵としての活躍を主軸に、アクションやいろんなことも詰め込んで、遊園地みたいな映画ですよね。

——全世界オープニング週末興行が『アベンジャーズ』超え」というところも話題で、中国でそれだけウケたというのはどういう部分だと思いましたか?

中国に住んでいるわけではないので、わからないところもありますが、とにかく映画ブームで圧倒的に館数も増えているらしいんです。シリーズでも『1』の興収が日本円で90億円くらいでヒットしていたのに、『2』はさらに600億円。『2』の時にプロデューサーが「前回はタイだったけど、今回はニューヨークだからすごくお金がかかってる」と言っていたんで、「大丈夫?」と聞いたら「あの頃とは館数が違うから」と言っていて、本当にヒットしていました。

「今回はどうなんだろう」なんて言っていたら、中国で軽く打ち上げをしている時に、プロデューサーさん達がすごく意気揚々と「今回は1,000億を目指す」とか言ってる。もう「嘘でしょ!?」と思って(笑)。なんか異次元すぎて、全然実感がなくて。今回の興収も初日だけで164億円で、日本だったらすぐトップテンに入っちゃうじゃないですか。規模が違いすぎて漫画の世界のようにしか聞こえてきませんでした。それぐらい、圧倒的に人口が多いんだろうし、コロナがなかったらもっと映画ブームになってたんだろうなと思います。だって、映画の単価だって中国の方が全然安いのにこんなにヒットしているんですから。

——共演した方々や監督、プロデューサーなどから勢いは感じましたか?

やっぱり、熱量がすごかった。シリーズ自体、監督が自分の会社で製作もしているでしょうし、監督の好きなようにできるということが1番大きいんじゃないかと思いました。自分の好きなものを自分の好きなように、しかもお金も日数もかけて撮る。やりたいことをやれているということから来る熱量がすごいんじゃないかな。

日本だけじゃなく、世界でも当然「これをやるためにはこうしなきゃいけない」というビジネスは絡んでくると思うんです。やりたいこともやれなくなる現状があったりすると思うけど、監督の熱量と勢いで叶えてしまうことが、すごい。「渋谷が撮影できないんだったら、渋谷を作る」と言って、平気で足利に渋谷のセットを作っちゃうから。しかも1日2日で撮影を終えて、あとは「どうぞ」と言って、そのまま置いて帰ってしまっている(笑)

僕が望遠鏡を覗くシーンも、1日だけのために借りためちゃくちゃデカいドローンの撮影機材を、日本にわざわざ持ってきてやってるんです。アクションシーンでも、プログラミングでカメラがピタッと止まるようになっていて、一切ブレないし、大きなアームが付いた見たことのないカメラを持ってきていたし、とにかくいろんなものにお金をかけてましたね。新しいことづくめで、日本にもこれだけお金があったらそういうことができるんだろうけど、国土の広さと人口の違いというのは、大きいんだろうなと思いました。

——関わったことによって、自分が俳優として目指したい像や考えが変わったりといったことはありましたか?

特に変わったことはなくて、期待していた通りのスケールだ、と思いました。韓国との合作映画に出演した時にも、やっぱり映画は国境を越えて人間を知ることができるとわかったし、映画で1つになれると感じていたので。今回も、みんな映画を絶対に舐めていないし面白いものを作るんだという気概を感じながら、お互い刺激し合うことができました。

■リウ・ハオランから逆に日本を学ぶ

——共演された方々とは、どのようにコミュニケーションを取っていたんですか?

みんな色々な言葉で、しかも単語単語でやりとりをしていたので、話すというよりも、小学校低学年が友達と仲良くなるみたいな感じでした。バカなことやって「バカだ! わはは!」みたいな(笑)。ワン・バオチャンと、トニー・ジャーとは1回ゴルフに行ったんです。ワン・バオチャンはゴルフが大好きなんだけど、トニー・ジャーはあんまりやったことなくて。練習ではすごくナイスな素振りなのに、本番だとゴルフボールがどこに行くかわからないから、「あれ、トニー? トニー!?」と探すのが僕とワン・バオチャンの中で流行って、撮影現場でもずっとやっていました。めちゃくちゃ盛り上がりました。

ハオランは漫画やアニメが大好きで、僕も知らないような日本のアニメもたくさん見ていたんです。僕が「これ、日本のアニメなの?」と聞いたら、「面白いよ、知らないの?」と言われて、逆にハオランから日本を学ばせてもらいました(笑)

——監督も好きというお話でしたし、やっぱりアニメや漫画の海を越えた影響力はすごいんですね。

かなり、大きいと思います。やっぱり、そこは誇っていいところなんだろうと思います。

——中国でのプロモーションにも登場されて、盛り上がりは感じましたか?

日本では、舞台挨拶はよくあるけど、映画のプロモーションで映画祭に行くということが、あんまりないんですよね。韓国も中国も、映画祭にすごくお金をかけるし、招待作品ではない映画の役者も呼ばれて、一般のお客さんの数もすごいし、お祭りになっているんです。映画のお祭りだから、みんな来て映画界を盛り上げようぜ! というノリがあって、国を挙げて芸術を盛り上げようという空気を感じたので、日本にもそういうお祭りがあったらいいのにな、と思いました。僕たち仕事がなければなかなか交流が持てないけど、役者同士も仲良くなれるし、監督やプロデューサーとも色々話せる機会を得られるんじゃないかな、と。

——何か面白かったことや発見などはありましたか?

僕は中国語だと「チーフームーツォン」なんですが、「シャオチー」と呼ばれていたのに驚きました。「妻」の読みが「チー」なんですが、中国語の「七」も「チー」で、「シャオ」が「ちゃん」といった意味だから、訳すと「ナナちゃん」と呼ばれてるみたいなんですよ!

——すごい、かわいいですね。

撮影現場ではずっと「チーフー!」と呼ばれていて、なんでだろうと思ってたら、終盤くらいで名字が「妻夫」、名前が「木聡」だと思われていたことが発覚しました(笑)。名字が3文字ということがあまりないみたいで。ずっと「妻夫」と呼ばれてたのかと思うと、「ナナちゃん」の方が良いかなあと思いました。衝撃でした。

——それでは最後にまた映画のアピールもいただければ。日本の観客も、東京が舞台なんだという期待感でいっぱいだと思いますが、いかがですか?

海外から見た日本のイメージを誇張している部分はあるので、「こうだったら面白いよな」という感じで、ファンタジー要素のある日本も楽しんでほしいです。とにかくこれだけ日本の中で暴れられる映画というのは、邦画においても今までなかったと思うんです。それはやっぱり今回の予算感と監督の熱量による勢いのおかげなので、自分も日本で暴れているような感覚で楽しんでもらえるんじゃないかなと思ってます。

——日本でも、やればできるということなんでしょうか?

お金があれば! たぶん、足利のセットだけで『ウォーターボーイズ』作れちゃいます(笑)

■妻夫木聡
1980年12月13日生まれ。福岡県出身。ドラマ『すばらしい日々』(98年)で俳優デビュー。『ウォーターボーイズ』(01年)で映画初主演、同作にて日本アカデミー賞新人俳優賞受賞、『ジョゼと虎と魚たち』(03年)で第77回キネマ旬報ベスト・テン最優秀主演男優賞を受賞する。『悪人』(10年)では、第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞や第53回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞した。その他にも『ブラックジャックによろしく』(03年)でテレビドラマ初主演、『オレンジデイズ』(04年)、『スローダンス』(05年)、「天地人」(09年)、映画では『黒衣の刺客』(15年)、『怒り』(16年)、『来る』『唐人街探案2』(18年)、『パラダイス・ネクスト』『決算! 忠臣蔵』(19年)、『Red』『浅田家!』(20年)などの話題作に多数出演。