電動化、自動化、デジタル化などでクルマが大変革期を迎えている今、自動車販売の世界、特に点検や修理などを含めた「アフターセールス」の現場は、どのような状況になっているのだろうか。ボルボのアフターセールス競技大会「VISTA 2020」を取材し、日本法人の社長に話を聞いてきた。

  • ボルボのアフターセールス競技大会

    ボルボのアフターセールス競技大会「VISTA 2020」を観戦!

VISTAとは

「VISTA」は「Volvo International Service Training Award」の頭文字。正規ディーラーでサービス業務に従事する全世界のスタッフを対象にしたアフターセールスの技能競技大会だ。1976年に始まった同大会には現在、約70カ国から1.6万人以上が参加しているという。取材したのは日本の決勝大会。競技の内容は故障診断・修理と来店ロールプレイの2つだった。

  • ボルボのアフターセールス競技大会
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  • 故障診断・修理の様子

ボルボ・カー・ジャパン ビジネス&ディーラー開発部の青山健さんによると、クルマの故障診断・修理は今、「基本的に、トンカチで叩いてやるといったような状況ではありません」とのこと。さまざまな制御が入るクルマは「ほぼパソコンに近い部分がある」そうで、物理的に何かが壊れるというケースはもちろんあるものの、回路や回線が不調をきたすなどシステム的な故障が多くなっているという。

クルマが故障する原因は多岐にわたるが、それを追求するのは「診断システム」だ。PCとクルマをつなげて通信し、情報を吸い上げて不具合を発見、原因究明に向けて深堀りしていく。こうした作業を正しいプロセスで実施できるのが腕のいい「テクニシャン」(メカニック)なのだ。

  • ボルボのアフターセールス競技大会
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  • 来店ロールプレイの様子。時節柄、オンラインでの競技となった

来店ロールプレイは文字通り、クルマの不調が気になって販売店を訪れたユーザーへの対応を競い合う。客のニーズを的確に把握できるか、わかりやすく整備内容を説明できるか、客への対応はプレミアムブランドであるボルボにふさわしいか、そのあたりが評価基準となる。

競技の結果、今大会ではボルボ・カー岐阜が優勝し、世界大会への挑戦権を得た。

多様化が進むクルマの世界、どう対応?

ボルボが力を入れるアフターサービスの世界にも、変化の兆しがある。例えば、急速に進むクルマの電動化への対応だ。ボルボは2030年までに新車販売の全てを電気自動車(EV)に置き換えると表明しているから、クルマの点検、修理にも今までとは違った知識と技術が必要になるはず。どのような手を打っているのか。

大前提として、2030年になっても世の中のボルボ車の大部分は内燃機関を積んでいるわけだが、青山さんによると、ボルボ・カー・ジャパンでは今年、「電動化」を強化エリアのひとつに設定して取り組んでいるそうだ。同社が指定する電動化に関する資格を、より多くのテクニシャンに取得してもらうべく注力しているという。すでにボルボでは、プラグインハイブリッド車(PHEV)のラインアップが増えつつある。走行用の高電圧バッテリーを積むPHEVを修理するためにも、すでに電動化に関する資格・技術の取得は必須になりつつあるらしい。

  • ボルボ「C40」

    ボルボが先ごろ発表した新型車「C40」。このクルマは純粋な電気自動車(ピュアEV、エンジン搭載モデルなし)で、販売はオンラインのみとなる。日本では最初の100台をサブスクリプションで販売(というよりリースに近い?)するそうだ

「ボルボ車の保有台数は劇的に(dramatically)増えているので、アフターセールスの重要性もますます高まっています」。こう語るのは、ボルボ・カー・ジャパン社長のマーティン・パーソンさんだ。しかし、課題もあるという。それは人材難、特に若い技術者の確保だ。この傾向は欧州で顕著だが、日本も例外ではない。若者に「ボルボのテクニシャン」という職業の魅力をいかにして伝えるか。それが問題なのだ。

  • ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長

    ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長

さらにいえば、クルマの点検・修理という仕事のハードルは今後、高まっていきそうでもある。エンジンを積むクルマもあればEVもあり、デジタル化の進展具合もモデルによってさまざま。クルマの多様化が進めば当然、点検や修理を担うテクニシャンに求められる知識・技術の幅も広くなるからだ。「難しそうな仕事だから」と敬遠されれば、さらに人材確保は難しくなりそうだが、パーソンさんの考えは。

「ボルボではPST(パーソナル・サービス・テクニシャン)という人材を増やしていこうとしています。ワークショップでの作業だけでなく、顧客とのコミュニケーションも担当する技術者です。こういった働き方は、若い皆さんにモチベーションを与えられるのではないでしょうか。グローバルではすでに増えてきているPSTですが、日本でも導入が進みつつあります。病院に行ったら、医者に話を聞きたいですよね? テクニシャンが顧客と話をするというのは、それと一緒なんです。これにより顧客の販売店に対する信頼感はより厚くなるでしょうし、顧客満足度の向上にもつながるはずです」

業務の複雑化に対応しつつ、人材確保も進めなければならないというのがアフターセールスの現状だが、ボルボは着実に手を打っている様子だ。