今年に入り、お笑い番組が勢いづいている。日本テレビは、2月に新たなネタ特番『NETA FESTIVAL JAPAN』を放送し、4月から『有吉の壁』を19時台のゴールデンでレギュラー化。TBSは、3月に大型ネタ特番『ザ・ベストワン』を立ち上げ、4月に『史上空前!!笑いの祭典ザ・ドリームマッチ』が6年ぶりに復活、9月26日には『ザ・ベストワン』『音ネタFES』『キングオブコント2020』を包括した8時間にわたる『お笑いの日2020』の生放送が決まった。

そしてフジテレビは、10月から『千鳥のクセがスゴいネタGP』をゴールデンでレギュラー化し、きょう29日には大型コント特番『ただ今、コント中。』(21:00~23:10)を放送する。

こうした動きの背景にあるのは、各局におけるターゲット層の重視だ。最前線にいるテレビ制作者たちに、追い風の実感を聞いてみた。

  • サンドウィッチマンの伊達みきお(左)と富澤たけし=『ただ今、コント中。』より (C)フジテレビ

    サンドウィッチマンの伊達みきお(左)と富澤たけし=『ただ今、コント中。』より (C)フジテレビ

■「コアターゲット」「ファミリーコア」「キー特性」

ビデオリサーチは今年3月30日分から、視聴率調査を大幅にリニューアルした。関東地区は調査世帯を900世帯から2,700世帯へと3倍に拡充することで、細かいターゲットの分析でも十分なサンプル数が確保できるようになり、各局は視聴率の指標を「世帯」から「個人」へ移行。全員がお茶の間でテレビを見る時代から続いてきた測定方法を、現状に即したものに変えることで、テレビの広告価値を改めて訴求していく施策だ。

さらに、広告主のニーズが高い層に向けた番組作りを進めるため、各局ではターゲットを明確化。日テレは13~49歳を「コアターゲット」、TBSは13~59歳を「ファミリーコア」、フジは13~49歳を「キー特性」と名付け、今やこの層の数字を最重視している。

ネットニュースでは、世帯視聴率に着目して「20%の大台!」などと見出しに躍っているが、実はテレビ局の認識とは大きなギャップがあるのだ。

■お笑いの番組企画が通りやすくなった

このターゲット層に支持を受ける傾向にあるのが、お笑い番組。『ただ今、コント中。』のフジテレビ・大村昂平ディレクターは、以前はコント番組の企画書を出しても全く通らなかったそうだが、「キー特性の視聴率を重視していく中で、お笑いの企画がすごく通りやすくなったのが、肌感覚であります。フジテレビのディレクターは、みんなお笑いがやりたくて入っているので、最近では若手が腕をぶん回して企画書を出しまくっていますね」と社内の雰囲気の変化を語る。

さらに、今回の『ただ今、コント中。』を担当するのが決まった際は、「いろんな人から『うらやましい』とか、年の離れた先輩からも『おまえコント番組やるの!?』と言われました。フジテレビは、みんなお笑いという部分に熱を持っているので、会社として盛り上がっている流れがあります」と活気づいているそうだ。

そのフジで『爆笑レッドカーペット』『ENGEIグランドスラム』『THE MANZAI』といった演芸番組の制作チームを率い、現在は共同テレビに出向してTBSの『ザ・ベストワン』で総合演出を手がける藪木健太郎氏は「この10年、『情報、教養、役に立つという要素がないと…』と言われ続けてきたのですが、ネタ番組やお笑い番組を作っている僕らにとってはありがたい風潮になってきたと思います」と実感。

その上で、「これからのコンテンツは、ユーザーに刺さらないと生き残っていけないと思うので、すごくいい流れになっていると思います」と期待を語っている。

  • 『お笑いの日2020』 (C)TBS

■10月改編でさらに加速へ

4月改編で、『名医のTHE太鼓判!』(TBS)、『名医とつながる!たけしの家庭の医学』(テレビ朝日 ※ABCテレビ制作)と、高年齢層の視聴者が多い健康系の番組が2つ同時に終了したのは、ターゲット戦略を象徴する出来事だった。

10月改編では『千鳥のクセがスゴいネタGP』以外にも、テレ朝が『爆笑問題のシンパイ賞!!』『テレビ千鳥』といった深夜で実績のあったお笑い色の強い番組を週末の22時台に編成するなど、この動きはさらに加速化していきそうだ。

  • 『千鳥のクセがスゴいネタGP』 (C)フジテレビ