目に見えない感情を動かす商売

――作品を拝見して、心情を丁寧に表すドラマだと思いましたが、先ほどもおっしゃっていたように、最近では少し珍しいのかもしれないですね。

昔はこういった作品が多かったと思います。でもいつの間にか、時代が数字に左右されるようになって、作ることに恐怖を覚えるというか。数字というものは後から付いて来るものだったけど、先に数字を計算する世の中になって、ホームドラマを作る勇気を持てなくなるのはしょうがないのかな、と思います。それはドラマに限らず、企業や社会がそうなっている。

良いものを作って、良いものを販売して、結果として数字が出ていたものが、いつの間にか数字を先に考えて、そこに到達しないものは失敗と言われるようになって。その中で消えてしまう、犠牲になってしまうものもあると思うんですよ。やっぱり僕たちは目に見えない感情を動かしていくという商売で、数字だけに動かされるとどこかに間違いが出てきてしまう気がするので、こういうドラマを作ってくれる勇気はすごく大きなことだと思います。

――テレビ東京さんの番組を取材すると、役者の方がみなさん「勇気がある」とおっしゃるんですが、中井さんもそう思われるんですね。

昔、すごく大きい事件があって、全局同じニュースやっているときに、テレビ東京を見たら、経済ニュースをやっていたんです。そのときに「テレビ東京は、経済ニュースをやるんだ」と驚きました。そこからドラマも増えていったけど、しがらみがない感じがしますよね、テレビ東京のドラマって。これからカラーを作っていくところであって、いろんな品種の苗木を植えていく印象があります。こんな種類も植えてみよう、みたいな。

――今また、ホームドラマの苗木が。

これもまた、「感じ良かったら育ててみる?」みたいな(笑)。ナガノパープルのような新しい品種のぶどうを作るように、テレビ東京ホームドラマを作ろうとしているんじゃないかな。

――そこに関わるのはどのような感覚ですか?

閉塞感を打破するのは、面白い。局は関係なく、どういう種類が増えていくかということのほうが大事で、いけると思ったら、必ず広がっていきますよ。

この年だからこそ、できることがある

――中井さんは群像劇の『ふぞろいの林檎たち』や、『最後から二番目の恋』などの年を経ての恋愛ドラマなど、いつも新しいことをされているイメージがあります。

群像劇なんてありませんでしたからね、『ふぞろいの林檎たち』までは。それが、『ふぞろい』が出てから、男3・女3の群像劇も当たり前になった。また20代の時はおじさんたちの恋とか想像もつかなかったのが、おじさんになったら恋する気満々だったりもする(笑)。そういう、今の自分でできることを臆せずやってみたい気持ちは、あるかもしれないです。

新しいものを作り出すというよりも、この年になってきたからこそ、できることがあるという感覚です。おじさんたちは「若い人たちは今しかできないことがあるから、やっときなさい」なんて言っていたけど、今、おじさんになったからこそできることが、たくさんある。この年だから持てる夢もあるし、やれることもあるから、そういうものをドラマの中でやっていきたいですね。

このドラマはそれこそ、同年代の方には親の目線で見ていただけると思います。お父さんと娘がお互いに思っていることから始まって、親は「娘と全然会話がない」と思っているし、娘は「親とLINEをやっているんだから、こんないい子供はいない」と思っている。その少しのすれ違いを、両方の視点から見ることができるドラマで、肩肘張らないで楽しんでいただけると思います。

――それでは、最後に『娘の結婚』の好きなシーンや、見どころを教えてください。

今回は大きな事件が起こるわけではないけど、生きていく上ではとっても切実なことを題材にしています。もしかしたら、隣の家で殺人事件があることよりも、普通の人たちが頭を悩ませているかもしれないことなので、多くの方に「わかるなあ」と共感してもらいたいなと思います。新春ですし、手を止めてじっくり2時間楽しんでもらえたら嬉しいです。

■中井貴一
1961年9月18日生まれ、東京都出身。成蹊大学在学中に、映画『連合艦隊』(81年)で俳優デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。ドラマ『ふぞろいの林檎たち』(83年)シリーズがヒットし、多くのドラマ・映画で活躍、『四十七人の刺客』(94年)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『壬生義士伝』(03年)で最優秀主演男優賞を受賞するなど、受賞作も多数。2018年は映画『嘘八百』が1月5日に公開された。