●未来から妹がやってくるというアイデアはどこから?

細田 子育てをするのは大変なんですけど、それ以上に喜びがあるなと感じました。育てているいまは大変だけど、そのうちきっと大きくなって、あっという間に巣立っていくんだから、「いまは大変だけど、じっくり子育ての苦労と喜びを味わおう」と奥さんと話したんです。そこから、「いま赤ちゃんの自分の娘が中学生くらいの大きさになったらどうなるだろう」と考えたのがきっかけですね。

●今作では、どういった「新しい表現へのチャレンジ」を考えている?

細田 今回チャレンジしたことは、4歳の男の子・くんちゃんを主人公にするということです。なんで4歳かというと、この作品について考えたとき、僕の上の子が4歳だったからです(笑)。4歳の子どもが主人公の映画って、まったくないわけではないですけど、世界映画史のなかでは、あまり例はないと思います。

『クレヨンしんちゃん』でも5歳、『となりのトトロ』のメイは4歳とか、そのくらい。4歳と5歳ってだいぶ違うんですよ。うちの子はもう5歳になったんですけど、5歳になると「うんこ」とか「ちんちん」とか言い出す。だから『クレヨンしんちゃん』は5歳なんだと思いましたね(笑)。くんちゃんは4歳なので、ギリギリのところで、品の良い、家族で観やすい映画になったんじゃないかと思います。

●『未来のミライ』の主人公はくんちゃんだが、タイトルにはミライしか入っていない理由は?

細田 まず、くんちゃんという名前の理由ですけど、「くん」なのか「ちゃん」なのかわからないという、揺れ動いている象徴として描いています。その揺れ動いているアイデンティティはどういった未来にたどり着くのか、と考えています。

いまの世の中は大きく価値観が変わっていて、一昔前なら、結婚するのが当たり前でしたけど、いまは結婚をするしないや、結婚しても子どもをつくらないということも、つくる子どもの数も選ぶことができる。

僕は一人っ子なんですけど、当時は一人っ子が珍しかったので、僕も親もふつうじゃない扱いをされた記憶があります。でも、いまは多様な価値観を持つ社会になっている。その分、基準というものがないので、個人は揺れ動いているような時代なのかなと思います。

そういった「くん」なのか、「ちゃん」なのかをわからない人たちに当てはめて、そういった人たちがどういう風に、揺れ動いている価値観の中で生きていくべきか、未来はどこにあるのかを描いていこうということになりました。

『未来のミライ』というタイトルはいろんな意味にとれます。「妹が未来から来たから」、「妹の未来」、「未来という概念」、「ミライちゃん自身」、いろんな意味がある。僕みたいなおじさんが小さいときに考えていた未来といま思い描く未来は違うと思います。未来さえも揺れ動くなかで、いまの子どもたちは何を見て、育って、世の中を知って、大人になっていくのか。興味深い課題だと思い、こういったタイトルを付けました。

●くんちゃんとミライちゃんはどういった冒険を繰り広げるのか?

細田 約100分という映画なので、世界の危機といった映画的なサスペンスというよりは、家族の歴史をめぐる冒険になると思います。「自分自身を探す」とか「お母さんは昔からお母さんじゃなかったんだよ」とか、家一件と庭ひとつの中を冒険することで、世の中を開いていく。そういった内容になっています。

●ポスタービジュアルについて

細田 『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』はオリジナル作品なので誰も内容を知らないじゃないですか。なので「内容を知らない作品を観てもらうからには堂々としよう」ということで、これまではキャラクターが仁王立ちをするというビジュアルにしてきました。

『未来のミライ』は、まずダイナミックなポスターにしたいと思ったんです。大人が思っている以上に、子どもはダイナミズムなので、何かを飛び越えるというイメージで、くんちゃんとミライちゃんの絆の結びつきを形にしたいと思ったんです。

経済成長とか科学技術の発展とか、そういったものよりも、イキイキとした子どもの姿とか、人間のバイタリティそのもののほうが未来に直結するなと思いました。「子ども自身が未来そのもの」と感じてもらえるようなポスターにしたかったので、そういった意味では『時をかける少女』の、青空を背景にジャンプをするというポスタービジュアルとも共通項がありますね。

『サマーウォーズ』

『おおかみこどもの雨と雪』

『バケモノの子』

『時をかける少女』

●これまでの作品とくらべてポスタービジュアルが丸っこい理由は?

細田 やっぱり子どもをかわいらしく描きたかったんです。スタッフもみんな言っているんですけど、男の子のかわいらしさは、作画をしていて楽しいんです。

たとえば、子どもの冬のほっぺたって、柔らかくて冷たくて気持ちが良いじゃないですか。そういうところをアニメーションで表現したいと思いました。そういったこともひっくるめて、4歳の男の子のやわらかさや、挙動の面白さ、暴れたときのめんどくささ、一緒にいるときの喜びといった魅力を描きたいですね。これまでも描いてきましたけど、今回はその気持ちがより強いです。