4月期のドラマは、事件解決ものが多い。とはいえ、事件解決ものとひとくくりにするには、警察のいろいろな部署から探偵ものまで幅広く、とりわけジャニーズは異色なドラマに主演している。嵐・相葉雅紀による『貴族探偵』(フジテレビ系 毎週月曜21時~)と、KAT-TUN・中丸雄一の『マッサージ探偵ジョー』(テレビ東京系 毎週土曜深24時20分~)の2作。前者は、探偵とはいえ、当人は何もせず、代わりにメイドや執事が推理するというもので、後者は、天才マッサージ師が、カラダのツボのみならず、事件のツボをズバリつくという、どちらも異色な設定だ。

ユニークさにおいて両名甲乙つけがたいが、今回はマッサージ探偵を演じる中丸雄一に注目してみたい。

中丸の"真面目さ"がおかしさに

中丸が演じるジョーこと矢吹原丈は、人間嫌いだが、マッサージの腕は天才的。ひとたび、相手のカラダに向き合えば、それまでぼんやりしていた彼が別人のようにキリッとなって、たちどころにツボをみつけ、もみほぐす。彼の手にかかった者は皆、彼の虜になってしまう。で、今日も今日とて、出張先で、殺人事件に巻き込まれてしまうジョーは、お客様のカラダの悩みだけでなく、殺人事件まで鮮やかに解決してみせる。

そんなジョーについて、ドラマの冒頭で、こんなふうに茶化した解説がある。

「この世にはこれまで様々な探偵が生まれてきた。頭脳は大人の小学生探偵(不要とは思うが、念のため筆者補足:『名探偵コナン』)、じっちゃんが有名な高校生探偵(『金田一少年の事件簿』)、実に面白い天才物理学者(『ガリレオ』)、ほかにも家政婦(『家政婦は見た!』及び『家政夫のミタゾノ』)、古本屋(『ビブリア古書店の事件手帖』)、記憶障害(『掟上今日子の備忘録』)、鍵マニア(『鍵のかかった部屋』)に0.1%足りない弁護士(『99.9-刑事専門弁護士-』)。なんでも探偵にすればいいってもんじゃない! だが、しかし性懲りもなくまた新たな探偵が生まれようとしていた!」(ナレーション:銀河万丈)

中丸自身が、かつて『変身インタビュアーの憂鬱』(13年)というやっぱり事件解決もので、天才作家探偵をやっていたじゃないか、というのはさておき。このとき、中丸雄一がそれぞれの探偵の特徴を形態模写するのだが、ここでもそれぞれの探偵のツボを押さえていて笑かしてくれるのだ。モノマネがうまい俳優は少なくはないが、中丸のいいところは、ドヤ顔でやらないところ。常に淡々と真面目に取り組んでいる感じがする。だからこそ、深夜ドラマらしく、艶笑譚ふうなシーンが何かと出てきて(つまり、ジョーが色っぽい女性のマッサージをして、女性があやしげな雰囲気を漂わせる)も、あんまりいやらしい感じがしない。

それは、中丸雄一がひたすら真面目だからだ。

この役の場合、ただただバカ真面目でもダメで、ものごとの本質を見極める知性が必要だ。そして、中丸雄一はそれも持ち合わせている。人間科学部人間環境科学科eスクール(通信教育課程)を卒業したことからもわかるし、さらに彼の知性を確信したのは、2017年5月1日放送の『徹子の部屋』にゲスト出演したときだった。

黒柳徹子に焼き肉に誘われる中丸

難攻不落の徹子相手に、話題は多岐に亘っていたが、中丸が司会をする『世界ルーツ探検隊』の話題になって、徹子が大好きなパンダのルーツを知りたいという話になったとき、「パンダに尻尾がないのは、座る生活によって、おしりの尻尾が邪魔になり退化したのではないか」と徹子が持論を語ると、中丸は「人間と同じですね」というような返しをしたのだ。人間が座る生活で尻尾がなくなったのか正しいところはわからないが、たしかに、人間にも尻尾の名残がある。もしかしてそれも座る生活によって退化したのかもしれない。こういう想像力を発揮することは、極めて正しいリアクションであるといえるだろう。この場における最良のツボを確実に押さえている。

中丸はゲストではあるが、決して出しゃばらず、媚びることもなく、ふざけることなく、スルーすることもなく、徹子と対等に、生物の進化がいかに興味深いかという話を真面目に交わしたのだ。すばらしい。だからこそ、最初、KAT-TUNの3人の写真を見て、どれが中丸かわからなかった徹子が、最後に、中丸を焼き肉に誘うまでに心を寄せたのだと思う。 女性におけるナチュラル風メイクが好感度の代表格であるように、中丸は、知性をナチュラルに身に付けることで好感度をあげる貴重な俳優だ。

『マッサージ探偵ジョー』のエンディングの踊り(振付:パパイヤ鈴木)も、動きが的確ですばらしいうえ、まったく媚びた表情がなく、体操の規定演技をしているような真面目さであることもツボだ。

そんな彼が演じるマッサージ探偵ジョー、第7話と8話で「もうすぐジョーは覚醒する」という意味深なことをマッサージ店の店主・エコ婆(倍賞美津子)が言っている。ジョーはただの天才マッサージ師ではなく、もっと秘密があるのだろうか? ジョーの運命が気になる。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。