冬の旅行と言えば温泉にウィンタースポーツなどが鉄板だが、絶景スポットを巡る"絶景旅"もオススメだ。澄みわたった冬空の下に、雄大な富士山の姿が見える場所も多い。今回は、旅行ガイドブック『ミシュラン』の表紙を飾った絶景スポットと、世界遺産「忍野八海」の心洗われる風景などを楽しむために、冬の甲州路へと出掛けてみよう。

富士山の裾野の町、富士吉田市からは富士山が大きく見える

タイでは日本を象徴する風景に

まず、最初に目指すのは、富士山の裾野の町、山梨県富士吉田市にある「新倉山浅間(あらくらやませんげん)公園」だ。この場所は、世界的な旅行ガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」改訂第4版では表紙を飾り、また、タイでは日本を象徴する風景として教科書にも掲載されているという有名スポットなのだそうだ。

一方で、日本国内ではメディアで紹介されることも多くなってきたものの、まだまだ知らない人も多く、知名度はさほどでもない。果たして、どのような景色が楽しめるのか、早速、行ってみよう。

路肩には積雪しているが、通行に支障はない

新倉山浅間公園へは、東京方面からは、車なら中央道の河口湖ICから10分ほど。国道を走っていると、路肩には雪が積もっているものの、車道は除雪されており通行に支障なかった。しかし、天候によっては冬用の装備が必要になるかもしれない。

駐車場は、新倉山の麓にまつられている新倉山浅間神社に広い駐車場がある。電車の場合は、富士急行の「下吉田」駅が最寄り駅だ。通常は駅から神社まで徒歩5分ほどなのだが、2017年1月現在、道路工事が行われており、しばらくの間は歩行者含め全面通行止めになっているので、迂回しなければならない。

下吉田駅周辺では、道路工事のため、当面の間、通行止めになっている道がある。地図の左上方向に新倉山がある

「これぞ、日本! 」な風景は日本人の心にも

まずは神社に参拝し、境内から新倉山の頂上を目指して397段あるという石段を上っていこう。石段の途中で後ろを振り返ってみると、正面に大きく富士山が見え、その懐に抱かれるように、屋根に真っ白な雪が積もった家々が、目に入ってくる。

雪が残る新倉山浅間公園の階段

先へ進み、石段を上りきると、そこには通称「忠霊塔」と呼ばれる朱色の五重塔が建っている。この塔の正式名称は、「富士吉田市戦没者慰霊塔」という。日清戦争から太平洋戦争まで、明治以降の戦争で戦没した市内出身者を合祀するために、昭和34(1959)年から3年がかりで建てられたもので、決して、歴史があるものではない。

展望台からの眺望。富士山と五重塔がセットのような感じで見える

しかし、この塔の裏手に設けられた展望台に上がってみると、富士山と五重塔がセットのような感じで、ちょうどいい具合に見える。また、春には眼下に桜も咲くという。確かに外国人から見れば、「これぞ、日本! 」と思う景色なのだろう。実際、この日訪れている観光客のほとんどが外国人だった。

しかしながら改めて思うに、日本人でもこれほどダイナミックな富士山を見る機会はそれほど多くないのではないか。一度は来てみる価値のある場所だと思うので読者にもオススメしたいし、筆者自身も桜の季節には、また再訪してみたいと思う。

世界遺産「忍野八海」でマストな池は?

次の目的地は、富士吉田市の東に隣接する忍野村だ。新倉山から忍野までは、車なら30分もかからない。公共交通機関の場合は、「下吉田」駅から2つ先の「富士山」駅に移動し、バスに乗り換えて向かう。

「忍野八海」は、富士山の伏流水に水源を発する8つの湧水池と、水車小屋や茅葺き屋根の古民家、そして、雄大な富士山の眺望があいまって、美しい景観がつくり出されている場所だ。

なんとなく、忍野八海というと、牧歌的な雰囲気の山里のイメージだが、実際に訪れてみると、飲食店や土産物屋が立ち並ぶなど、かなり観光地化されている。そして、こんな場所にまでと思うほど、ここもまた、外国人観光客が多い。2013年6月に、世界遺産「富士山」の構成資産の一部として認定されたことも、外国人観光客が増えたきっかけになっているのだろうか。

世界遺産「忍野八海」の湧池

さて、忍野八海には富士登拝を行う富士講信者の巡礼地としての歴史もあるので、8つの池を順に巡ることにも意義があるが、実際に見所となるのは、八海のうちの「湧池(わくいけ)」と「鏡池」、そして、「榛の木林(はんのきばやし)資料館」あたりだ。

まず、湧池は忍野八海を代表する池で、8つの池の中で一番の湧水量を誇るとともに、通りを挟んで向かいには水車小屋もあり、素晴らしい景観が見所になっている。鏡池は、「逆さ富士」が鏡のように水面に映ることからその名が付いており、ここも絶好の撮影スポットだ

そして、榛の木林資料館(有料)は、敷地内に、18世紀後半に建てられた忍野村に現存する最古の茅葺き屋根の民家「渡邉(わたなべ)家」を保存する資料館だ。この資料館の敷地内にある展望台からは、下記の写真のような景色を楽しむことができる。

資料館展望台からの眺望。日本の原風景を見るようだ(2016年1月28日撮影)

水車小屋や上述の渡邉家の茅葺き屋根、そして、その向こうに富士山が大きく見え、まさに、日本の"原風景"という感じがする。ちなみに、八海のひとつ「底抜池」は資料館の敷地内にあるので、資料館に入らなければ見ることができない。

なお、八海を巡礼する場合、「出口池」を除く7つの池はそれほど距離が離れていないので、のんびり歩いて見てまわれるが、出口池だけはやや離れた場所にあるので注意してほしい。

●information
榛の木林資料館
住所: 山梨県南都留郡忍野村忍草265
開館時間: 9:00~17:00
休館日: 不定休
入館料: 300円

「ほうとう」で暖まったら山中湖へ

山梨を訪れて食べたいものと言えば、やはり「ほうとう」だろう。ほうとうは、平たい麺をカボチャなどの野菜や鶏肉、油揚げなどとともに味噌仕立ての汁で煮込んだ、山梨の郷土料理だ。鉄鍋でグツグツ煮込んだものが運ばれてくるので、器に少しずつ取っていただく。食べ応えがあるし、何よりも冷えた身体を温めてくれるのがうれしい。忍野八海には、ほうとうを食べさせる店がいくつかあるが、資料館に隣接する「はんのき食堂」では、並が1,300円、大盛が1,800円(税込)だった。

「はんのき食堂」にて、山梨の郷土料理「ほうとう」(税込1,300円)を

食欲が満たされ、身体も温まったところで、もう少しドライブを楽しんでみるのもいいだろう。忍野からは、富士五湖のひとつ「山中湖」も、目と鼻の先だ。冠雪した湖畔に立ち、湖越しに眺める富士山は、まさに冬の絶景と呼ぶにふさわしい。四季の変化と彩りのある日本という国の素晴らしさを、改めて実感したように思う。

山中湖畔から望む富士山

さて、冬の甲州路の絶景旅、いかがだっただろうか。山梨というと、遠いように感じるが、都心からでも車なら1時間半もあれば、訪れることができる。最近は、都内や南関東では、積雪することすら少なくなった。雪に触れながら、ひときわ大きな富士山を眺めるだけでも、来てみる価値がある。この冬の日帰り旅行の旅先に、いかがだろうか。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト、オールアバウト公式国内旅行ガイド。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に取材・撮影を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。