日産自動車に乗り込み、2兆円を超える有利子負債を抱えた同社の復活を成し遂げたカルロス・ゴーン氏。聖域なきリストラなど、ゴーン氏が遂行した「日産リバイバルプラン」は日産のV字回復として結実した。次に取り掛かるのは三菱自動車工業だが、そもそもゴーン氏はなぜ、同社の再建という難題にチャレンジするのだろうか。同氏を突き動かす“野望”とは。

世界覇権への野望、再び

燃費不正問題で三菱自の経営が2000年代前半に次いで再び揺らぎ、その救済を電光石火で決めたのが日産のゴーン社長だった。今年の5月12日に日産による三菱自への資本参加(34%出資)を発表した。

日産による三菱自への出資(三菱自株の急落底値時の2,340億円)は10月20日に完了。それとともに、ゴーン社長自ら三菱自会長として乗り込むことになった。12月14日の三菱自臨時株主総会で決定する。これで名実ともに日産が三菱自を傘下に置き、三菱商事など三菱グループとも連携するルノー・日産グループが始動するわけである。

なぜ日産は、「リコール隠し」に続く「燃費不正」で信用が失墜した三菱自の救済に動いたのか。一言で言えば、「ゴーン、世界覇権への野望再び」ということだろう。

ゴーン氏は世界覇権へ向け再び動き出した

ゴーン氏は1999年、日産の事実上のトップとして仏ルノーから乗り込み、17年にわたり君臨し続けている。この間に日産をV字回復させた一方、親会社ルノーのトップも兼ねている同氏だが、いささか「ゴーン流経営」に停滞感が出ていたことも、同氏を三菱自の救済に突き動かした動機になっているかもしれない。

日産コミットメント経営に陰り?

日産はこの2016年度を最終年度とする中期経営計画「パワー88」を進めている。それは、グローバル販売での市場シェア8%と、売上高営業利益率8%の達成を目標とするものだ。

だが、中間決算(2016年4~9月)発表でもグローバル販売シェアは5.8%(前年同期6.1%)、営業利益率は6.4%(同6.7%)とポイントダウンしている。営業利益率については急激な円高での為替差損が大きく、「円高なかりせば」との見方もあるが、それにしてもゴーン流のコミットメント(目標必達)経営に陰りが出ていることは否めない。

電気自動車(EV)の盟主を目指し、日産はパワー88期間中にルノーとの合計で150万台の販売目標を打ち出していたが、主力のリーフは20万台強にとどまる。最近ではEVの主役の座をベンチャーの米テスラモーターズに奪われた感がある。

その意味では、ルノー・日産連合には停滞感があり、「現状に満足していない」(ゴーン社長)状況にある。だからこそ、三菱自を傘下に収めることは、グループとしてのグローバル販売の1,000万台規模入り、三菱自が強いアセアンなど新興国の強化、プラグインハイブリッド車(PHEV)で先行する三菱自の活用など、次の飛躍の足がかりになると判断したわけである。