時代が変わると新しい解釈が生まれる

――『攻殻機動隊』という作品に最初に触れたのは、原作コミックですか?

そうですね、『アップルシード』の次くらいだったかな。『ドミニオン』も読んでいました。僕がデビューする頃にちょうど劇場版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が公開されました。SF氷河期と言われていた時代に大きな風穴を開けてくれた作品だったので、非常に勇気をもらいましたね。そういう思いでバイブルだと思って心に抱いている人は本当にたくさんいます。

――冲方さんにとってはどういう存在でしょう?

教科書ですね。短いページ数であれだけ複雑なドラマを作り込んで、途方もない情報量を押し込んでおきながら、カオスとは違う印象を作っている。あれはもう、全て検証ですね。もしかしたらこうなるかもしれないという可能性を一つひとつ指摘している感じです。だから、時代が変わると見方が変わるんです。

若い人たちにとって、電脳空間というのは頭の中にiPadがある感じなのかと、そういう解釈が生まれた瞬間に、作品の見方が変わる。奥が深くなるようにできているんですよね、腹が立つことに(笑)。

――時代が変わって古くなるのではなく、新しい見方が生まれるんですね。

そうなんです。常に新しく新しく作り直され、新しく映像化もされるというのは、ただ教科書になるだけでない何かを持っているということですよね。作品自体が意思を持って、原作者の意思を超えて人に影響を与えている作品だと思います。

――黄瀬総監督は「新しい攻殻を作ろう」とよくおっしゃっていたそうですね。

最初の飲み会の時からそうでしたね。全部変えよう、そうでないと作品が死んでしまうと。常に新しい命を吹き込んで行かないと、現在に価値を認められる"商品"ではなくなってしまう。そうなるよりは冒険しよう、ということですね。

――脚本会議などもそんな感じだったのですか?

会議中は人数が多くて、いろいろな意見が出ます。黄瀬さんはイエス・ノーはハッキリするんですけど、会議中はだいたい黙っていて、時々僕と二人で喫煙所へいってああしようこうしようと決め、会議室に戻って報告するということが多かったですね」

素子の「敵」と「青春」!? 新作エピソードと劇場版

――『ARISE』シリーズがテレビで放送されることになりました。テレビ版の見どころはどういったところでしょうか?

より広い視聴者の方に見ていただけるよう、パッケージングの工夫もあります。テレビではborder:4を第1話・第2話に持ってきて、その後border:1、2、3と続き、最後に新作エピソードが追加されます。border:1から4は内容的に静・動・静・動という流れだったのですが、border:4を1・2話にすることで"動"から入っていただき、最後の新規エピソードはまたアクションが多めになります。

新作エピソードのテーマは「敵を描け」です。素子の対となるような、あるいはこの社会の危機を代表するような敵です。自我の確立、自分が自分でいられる保証ということにこだわる素子に対して、ネットの拡大に自分を同化していく存在。それはファイア・スターターというウィルスの由来にもなっていきます。シリーズをまだご覧になっていない方も、通して見ることで非常に見応えのある内容になると思います。

『攻殻機動隊 新劇場版』より

――部隊という形になった素子たちがどんな活躍をするのか、劇場版も楽しみです。

劇場版の野村和也監督から提示されたテーマは「青春」でした。本当にどうしようかと思いましたけど(笑)、結果的に若さを描くという意味では相応しいテーマでした。こういうやり方があったかと、毎回勉強になります。

この物語は常に旧世代と新世代の戦いなんですね。新世代の突発的な考え方に、ついていけなくなる旧世代の危機感や焦り、憎悪のようなもの。劇場版ではそこをとことん描いています。


攻殻機動隊の絶景を見たい

過去を壊さなくては新しいものは作れないが、壊すだけではこれまでに描かれた未来につながらない。危うい綱渡りのような関係性から、冲方氏が逆算で描き出した若きメンバーたちは、挫折や葛藤や失敗を踏みしめて『ARISE』シリーズを駆け抜けた。冲方氏の思い切りよい筆致は我々を驚かせてきたが、今や彼らの足取りに前後を窺う危うさはない。

『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』メインビジュアル

『攻殻機動隊』という作品自体がある高みに登り詰めてしまった名山であるとすれば、『ARISE』はそこに新たな登山道を切り拓いてくれたと言えるだろう。テクノロジーと人、生命。攻殻機動隊の本質的なテーマを登る新たなルートは、次なる展開でどんな風景を見せてくれるのだろうか。

TVシリーズ『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』は、4月よりTOKYO MX他にて好評放送中。4月19日22:30よりTOKYO MXにて放送される#03 Ghost Pain(前編)はシリーズ中で時系列が最も過去の話となっており、ここからが『ARISE』シリーズの本当のはじまりと言える作品となっている。

そして、映画『攻殻機動隊 新劇場版』は、2015年6月20日全国ロードショー。

(C)士郎正宗・Production I.G / 講談社・「攻殻機動隊ARISE」
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会