――素子はなぜ孤立していたのでしょうか?

彼女の中にあるものは、すべて直感的なんですよ。ゴーストの囁きというフレーズも直感ですし、組織の中で仕事はしても、思想的な面では全然追従しない。ある日、軍から戦争が終わったので戦争中にあなたに払った金を返してと言われても、そういう理屈には一切従わないという態度です。

その、直感ゆえに突出している彼女の先にあるものが「未来」なんです。次世代というのはそうやって生まれていくもので、旧世代の常識というものからポンと抜け出てしまう。そういう意味で、次世代の申し子のような素子に501機関もついていけない。逆にバトーたちにしてみれば、自分たちが逃れられない軛(くびき)みたいなものからなぜここまで突出できるのか、もしかしたら突破してしまうのではないか、という期待を抱かせる。そういう関係性を描ければ成功だと思いました。

――メンバーをスカウトするところでは、全員過去に囚われている中で、素子だけが未来を見ているという関係性でしたね。

兵隊崩れが傭兵になったり、戦争は終わったと言いながら殺し合いを続けたりして、輪から逃れられない。そこに突破口を開いていくのが(ARISEシリーズの)ストーリーの軸になると、原作を逆算していって考え至りました。

――そういったキャラクターの背負うものが、今回のシリーズですごく具体的に見えたように思います。

お客さんの成長と、アニメーションの成長でもありますね。先人たちの仕事のおかげで、アニメーションで政治家が出てきたり戦争や経済について語るのも、だいぶ"やっていいこと"になりました。だからこそ、設定に埋没しない人間像を積極的に描いていかないと、実社会で起きた出来事に常に巻き込まれていくことになります。

現実をフィクションに取り入れると、フィクションが現実に引っ張られてしまいます。このキャラクターだったらこのテーマに正面切って挑めるという、現実に対抗できるような自信がなくては、昨今のテロ事件のような、大きな出来事があるたびにエンタメが右往左往してしまうことになります。これから長くこのコンテンツを生かしていくのであれば、制作者がしっかりしていなくてはなりません。

"逆算"で描き出した若いキャラクターたち

――バトーやトグサはこれまでの作品で見たイメージそのままでした。

彼らはこれまでも比較的カメラが振られているんですよ。どんなふうに腐って、どう行き詰っていたか、わかりやすく描かれていました。ではカメラが今まで向いていなかった人物はどう描こうかと。若さといっても、図々しいとか傲慢とか、ふてくされているとか、周りが見えていないとか、いろいろあります。

その中で、どんな若さを持っていたらこうなるだろうかと、一人ひとり逆算していきました。例えば、青臭いことを言わなくなった人はそれまでたっぷり青臭いことをやったから振っ切れるわけで、ならばどんな青臭いことをやっていたのかということですね。特に焦点を当てたのはパズとサイトーです。組織に忠実で真面目にやっているにもかかわらず踏んだり蹴ったりだった二人のキャラクター性を描くことで、結果的に素子のキャラクターも浮かび上がってきました。

逆算でこれまでの作品に適合できないキャラクターが出来上がったらどうしようかとも思いましたが、だいたいこういう経緯があればこうなるというのが僕の中で見えたので、非常に書きやすかったですね。あれはそもそもキャラクターがそうなっているとしか言いようがないですし、士郎さんから出てきたアイデアもそこにはまっていきました。

――『ARISE』シリーズで新たに登場したキャラクターたちはいかがでしたか?

ツムギ、クルツ、エマ、サイード、ホヅミ大佐などは全て士郎さんからデザインと一緒にアイデアがありました。素子やクルツたちが所属した501機関という設定もそうです。ストーリー的には素子が組織を突破していくことは決まっていたので、ならばそこで誰がどんな感情を持っていて、なぜそういう感情を持つに至ったかを、短い尺の中で断片的に描いていくという、ひたすらテクニカルな問題でした。