Cerevoは21日、ライブ配信機能付きビデオスイッチャー「LiveWedge」の販売を正式に開始し、同社が入居する秋葉原の製品開発支援施設「DMM.make AKIBA」で報道関係者向けの発表会を開催した。価格は95,237円(税別)で、27日より出荷(事前予約購入者から順次)を開始する。

ライブ配信機能搭載のビデオスイッチャー「LiveWedge」。本体サイズは約270×155×41mm、重量は約1.1kg

1080/60pのフルHDに対応した4系統のHDMI入力を搭載しており、映像と音声のスイッチング・ミキシングが可能。従来より映像編集機器として販売されているビデオスイッチャーの多くは、本体に搭載されているレバーや多数のボタン類を操作して映像の切り替えや合成を行うが、LiveWedgeは本体側の操作機能を最低限に絞り、無線LANで接続したタブレット上のアプリを利用してコントロールするのが特徴。また、同社の従来製品「LiveShell PRO」相当のライブ配信機能を内蔵しており、スイッチャー単体でインターネットへの映像配信が可能となっている。

スイッチャーとしては本体単体で機能するが、タブレットのアプリを利用して細かいコントロールが可能

フルHD対応のHDMI 4系統、アナログオーディオ2chの入力端子を備える。出力はマスターとプレビューの2系統。無線LANは5GHz帯にも対応し、ライブ配信用の有線LANコネクタも装備

映像のトランジションにはカット、ミックス、ディップ、ワイプが用意されており、ピクチャーインピクチャー(PinP)、クロマキーによる合成も可能。従来であれば子画面の大きさや挿入位置をツマミで調節する必要があったPinP合成も、多くのユーザーがタブレットで慣れ親しんでいるタッチ・ピンチの操作で行えるため、映像機器の初心者でも比較的容易に習熟が可能となっている。

子画面にしたいソースをタップ&ドラッグで親画面に重ね、ピンチでサイズを調整するいった直感的な操作でPinPが可能

HDMI入力は全系統にスケーラーを備えているので、異なる解像度の映像の合成にも対応する。また、映像ソースのうち1系統には内蔵SDカードスロットを割り当てることができ、SDカード内に用意したロゴデータなどの画像を読み込み可能。オーディオミキサー機能も搭載しており、4系統のHDMI入力に乗ったPCM音声にアナログ2chのRCA端子を加えた計ステレオ5系統の音声をミキシングできる。

HDMIで入ってくる音声に加え、BGM用の音楽プレイヤーなどを接続できるアナログ入力の音声をミックスできる。映像と音声のズレを調整するディレイ機能も搭載

出力はプログラムアウトおよびプレビューアウトのHDMI端子2系統(最大1080/60p、プログレッシブのみ)を備えており、プログラムアウトはミックスした映像と音声のマスター出力として、プレビューアウトは操作インタフェースのモニター出力として機能する。

ライブ配信のフォーマットは最大720/30p・10MbpsのH.264映像+最大256kbpsのAAC音声で、Ustream、ニコニコ生放送、YouTube Liveなどに対応。また、Flash Media Server、Wowza、Red5など主要なRTMPサーバーソフトを利用した独自環境でも動作が報告されているという。

LiveWedge本体とタブレットの接続形態は3種類で、アクセスポイントとして動作させた本体にタブレットを接続する1対1の形態のほか、同一の無線LANアクセスポイントに本体とタブレットの両方をクライアントとして接続する形態、本体をアクセスポイントとして動作させつつ、ライブ配信用のインターネット回線として有線LANにも接続するという形態が用意されている。

接続方法は3種類。無線が混雑している会場でも、有線LANを組み合わせることによってライブ配信を確実に継続することができる

いずれのパターンでも本体は単体でスイッチャー、ライブ配信機器として機能し、タブレット側はあくまでコントローラーに過ぎないため、仮に本体とタブレットの間の通信が切断されてしまった場合も、映像出力や配信が途絶えることはない。本体にもボタンとホイールが用意されているので、タブレットとの通信が復帰しない場合も本体操作で最低限の映像の切り替えを行うことができる。

なお、無線LANはIEEE802.11a/b/g/nに準拠しダイバーシティアンテナを搭載しており、同社がこれまで検証した限りでは、NAB Show、InterBEE、CESといった大規模展示会の会場を含め、5GHz帯の通信を利用すれば電波の干渉が原因で操作が不能になることはなかったという。

タブレット側のアプリはiPad版が既にApp Storeに公開されており無料でダウンロードできるほか、現在Androidタブレット版も開発中。iPad版アプリは、iOS 6.1以降を搭載したiPad 2以降の機種に対応する。

なお、本体のエンコーダーの仕様により、タブレット上でのプレビュー表示、ライブ配信、SDカードへの録画(アップデート対応)の3機能は排他使用となっている(HDMI端子へのプレビューアウトは常時動作)。

開発難航の1年だったが、未だライバル不在で有望な市場

Cerevo代表取締役CEOの岩佐琢磨氏

LiveWedgeは2014年1月の発売を予定して発表された製品だったが、その後数回にわたる発売を延期を経て、1年遅れでようやく市場に投入されることとなった。Cerevoの岩佐琢磨代表取締役CEOによれば、「小さな会社でリソースも限られる中、さまざまな技術的な壁に当たり開発が難航した。(HDMIなど)認証取得に関係する部分でなかなかテストを通らないこともあった」といい、まだまだ盛り込めていない機能があるという。

今後のファームウェアアップデートでは、SDカードへの録画のほか、SDカードに保存した動画・音声素材の読み込み、SDXCへの対応、タブレット側ヘッドフォン端子での音声モニター、4:3映像の取り扱い(現在は入力可能だが16:9への強制引き延ばし)などを予定している。

ただし、この1年の間に他社からの競合製品の登場はなく、フルHDに対応したスケーラー付き4系統入力とライブ配信機能を備えたスイッチャーで10万円以下の製品は現在もほかに見当たらない。

岩佐氏は「どうして他社からこの領域の製品が出てこなかったのかはわからないが、既存のスイッチャー製品のラインナップを持たない我々が、スイッチャーやライブ配信の市場を冷静に見たときに、この価格帯の商品は面白いのではないかと判断した」と話し、個人レベルでもライブ映像配信が当たり前になった今、従来の業務用映像機器の枠にとらわれず設計したことで実現できた製品であると説明した。

このタイミングでLiveWedgeを出す意義を、岩佐氏はカメラの歴史になぞらえる。大昔は非常に高価で、しかもプロの技師でないと操作することさえできなかった写真機だが、現在は誰もが気軽に高精細な画像を記録できるようになった。その中には、オートフォーカス機能や、低価格のフルサイズセンサー搭載デジタルカメラのように、プロの技術やクオリティを大衆レベルまで引き下げるようなブレイクスルーがいくつも存在した。

LiveWedgeは、このような「プロもうなる性能・機能」を普通の人に届けるブレイクスルーをライブ配信の市場で実現しようとするもので、SDI入力のような業務機向けの機能は省く代わり、映像の切り替え・合成という基本機能は1080/60pのフルスペックで搭載し、例えばハイアマチュアレベルのアーティストでも、複数カメラを使った高品質な配信やデモ映像の制作が可能になる。

「従来、車でないと運べないほどの機材が必要だった4カメラでのHD配信が、GoProのようなアクションカメラとLiveWedgeならアタッシュケースに収まる機材で、ワンマンオペレーションも可能」「既にビデオスイッチャーが置かれている"ハコ"(会場)は世界に大量にある。複数のビデオカメラが置かれている場所も多く、そこにLiveWedgeを入れるだけでライブ配信が可能になる」(岩佐氏)

現在は小型のアクションカメラでもフルHDの高精細な映像をHDMI出力できるので、複数カメラを利用した高画質ライブ配信環境をコンパクトに構築できる

従来機LiveShellシリーズの販売は累計で1万台を突破した。約2年前に発売したLiveShell PROは既に10回近い追加生産を行っており、約3年前に発売したLiveShellも現在まで継続販売する息の長い製品になっているという。

LiveWedgeも少なくとも3年程度の商品力はあるものになる見込みだが、岩佐氏は「作っている我々もいくら売れるかはまったく読めない」と話し、読めない中でもハードウェアのビジネスができるフレキシブルな部品供給・生産の体制がある現代だからこそ、同社のようなベンチャーがユニークな製品を世に出せると強調する。

Cerevo製品の販売は半数が海外。日本市場だけでは事業として成立しないニッチ製品だが、世界のニッチ市場を束ねることで、大手メーカーではできない「とがった」製品の展開を可能としている

長らく10名前後の小さな体制で製品開発を行ってきたCerevoだが、現在急速な体制拡大を行っており、21日時点で従業員数は42名まで増えた。そのうち8割は技術者だが、最近は国内の大手電機メーカーからの転職が非常に多く、「自動車向けだったらこの温度・精度でテストを行うとか、ピュアオーディオ向けだったらこういう部品選定をするとか」といった具合に、人の経験にひもづいたさまざまな知見が集まっているという。

岩佐氏は「日本のものづくりのノウハウを結集し、今年来年は大きく攻めていく」と話し、ネット接続型デバイスの市場で一層の挑戦を行う姿勢をあらわにした。