出版不況だと言われている中、ビジネス書の刊行点数は非常に多い。本屋のビジネス書コーナーを定期的に覗けば、並べられている新刊がめまぐるしいスピードで入れ替わっていることに気がつくだろう。刊行点数ベースで考えると、毎日約15冊のビジネス書が発売されている計算になるそうだ。このような状況を鑑みると、ビジネス書は書籍の中でも活気のあるジャンルのうちの1つだと言えなくもない。

ただ、実際に何冊か読んでみるとわかるのだが、多くのビジネス書は内容に差がほとんどない。どんな本にも同じようなことが書かれているので、読めば読むほど発見は少なくなる。本ごとにいろいろと細かな工夫をしていることにはしているが、それは枝葉の違いにすぎない。特に、「人間関係」や「自己成長」をテーマに扱った書籍の内容は、これでもかというほどそっくりである。このような状況にうんざりして、ビジネス書コーナーで新刊を眺めるたびに「もういいよ」と思うのは僕だけではないはずだ。

冷静になって考えてみると、これはあたりまえのことでもある。「人間関係」や「自己成長の方法」に、そんなに多様な解があるわけがない。結局は「昔から言われていることの焼き直し」になってしまう。そういう意味では、とにかく「キャッチーさありき」になりがちなビジネス書の新刊をむやみにあさるよりも、過去に発売され、時の試練に耐えた「古典名著」を読んだほうが、実際には得るものが多いと言えそうだ。

自己啓発の源流としての『7つの習慣』

フランクリン・コヴィー・ジャパン 監修/小山鹿梨子 まんが『まんがでわかる 7つの習慣』(宝島社/2013年10月/1,000円+税)

スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』も、そんな時の試練に耐えたビジネス書の古典名著のひとつである。原著の初版は1989年で、約25年前の本だ。25年で「古典」なのかと疑問を抱く人がいるかもしれないが、ビジネス書の大半が発売して1年たたずして本屋から消えることを考えると、25年は十分古典だと言えるだろう。『7つの習慣』はこれまでに世界で3,000万部販売されており、日本でも130万部を超えている。

『7つの習慣』で語られているのは、人を成長させ成功に導くために必要な習慣だ。キーとなるのが「人格主義の回復」であり、それを実現するためのプロセスが体系的に、時には新たな概念を導入しながら、格調高く語られる。「自己成長したい」と前のめりになっている人たちを見ると思わず「意識高い系だ!」と警戒してしまいがちな僕でも、『7つの習慣』には思わず脱帽したくなる程度に説得力を感じてしまう。世界中でベストセラーになるのもうなずける。

原著『7つの習慣』の弱点

このように「名著」と言うのにふさわしいだけの内容をもった『7つの習慣』であるが、弱点もある。一言で言ってしまうと、読みづらいのである。

格調高い文章はサラッと読むには厳しいし、分量も多い。抽象的な説明はわかりづらい。最近のビジネス書の標準的なものに比べると明らかに文章のレベルが高めなので、本を読む習慣があまりないという人には厳しいだろう。新年度の始めあたりにやる気を出して買ったはいいが、その後やる気がしぼんで読み終わる前に本棚の肥やしになっているというパターンもきっと少なくないはずだ。

まんがを使って超効率的にインプット

今回紹介したい『まんがでわかる 7つの習慣』はその弱点を解決する上ではうってつけの本だと言える。この手の「まんがでわかる」系の本の出来栄えは実際のところピンキリなのだが、本書について言えばほとんど満点に近いと言ってよい。原著のエッセンスを過不足なく抽出し、主張をゆがめることなく適切に伝達されている。原著の概念的でわかりづらい部分についてはマンガで具体例を補強し、マンガでは伝わりきらない部分は章末のまとめできちんと補強されている。それでいて、読む際に脳にかかる負担は原著よりはるかに小さくて済む。原著とマンガと、どちらを先に読むべきかと聞かれたら、僕は迷わずマンガを推す。

主人公は女性の見習いバーテンダーで、会社員ではないというのも面白い。自己啓発書を好んで読むのはおそらく会社員だと思うのだが、『7つの習慣』によって語られる対象はもっと広いのであるからこれは良い設定だと思う。彼女以外にもさまざまな立場の登場人物が出てくる。もしかしたら、自分や知人と似た状況の登場人物を見つけて一緒に考えることができるという人もいるかもしれない。

原著『7つの習慣』に進むための踏み台として本書を使うのもいいだろうし、『7つの習慣』に何が書いてあるのかを効率的に知るためのツールとして読むというのもいいだろう。『7つの習慣』という書名は知っているが何が書いてあるのかは知らないという人は、この機会に読んでみてはいかがだろうか。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。