日本医師会などはこのほど、「性・年齢別疾病の発症予防・重症化予防と日本型食生活の役割」をテーマに、「食育健康サミット 2014」を都内にて開催した。基調講演では、日本栄養士会の会長なども務める、神奈川県立保健福祉大学の中村丁次学長が、生活習慣病予防と食事の関連性について講演。健康的な栄養バランスなどについて解説した。

神奈川県立保健福祉大学の中村丁次学長

健康寿命と平均寿命の差は男性で9年、女性で12年

中村学長によると、日本は戦前・戦後の貧しさゆえの「低栄養(やせ)の時代」から、高度経済成長による食の欧米化や運動不足などによる「過剰栄養(肥満)の時代」をへて、現在は低栄養と過剰栄養が混在する時代に入っているという。

「若い女性に『やせ傾向』がある一方で、40~50代に『過剰栄養傾向』、高齢者になると『低栄養傾向』が顕著になるという、性や年齢別の栄養問題を(私たちは)抱えているのです。これは、同じ時代に共に暮らす家族のなかで起こっていますが、ひとりの人物が年齢を重ねていく中で対面する問題でもあります」。

特に中村学長は、高齢者の低栄養傾向を危惧している。中村学長は、ここ数年の日本人の健康寿命と平均寿命の差は、男性で9年、女性で12年と話す。女性の平均寿命が86歳だとしたら、健康なのは74歳ぐらいまでということだ。そのため、「これからの健康政策は、この健康寿命をいかに伸ばしていくかにあります」と力を込める。

「日本の要介護者が要介護になった原因を調査したデータを見ますと、約3割は、脳卒中、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患などの、いわゆる『生活習慣病』なんです。これに骨折や認知症などの『衰弱』による理由を足すと、約5割になります。ということは、生活習慣病と衰弱に配慮した食生活にすることで、介護の世話になるリスクは相当下がるということです」。

介護が必要になる原因は、「生活習慣病」と「衰弱」でおよそ半分を占める

偏った食事では、健康は維持できない

生活習慣病と衰弱を避けるためには、栄養バランスに配慮した食事が不可欠となる。ただ、厚生労働省の調査によると、栄養バランスの基準となるBMIが決して良好ではない人たちが近年、増えてきている。

例えば、BMI25以上の「肥満者」の割合は、男性で3割、女性で2割にのぼる。一方で、BMIが18・5未満の「低体重(やせ)」の割合は、女性で1割強になり、特に20代(21.8%)と30代(17.1%)に顕著に見られる。これらの問題を解決するには、それぞれの栄養状態にあわせた個別対応の食事指導が求められることになる。

ところが、たんぱく質と炭水化物、脂質のいわゆる「3大栄養素」で、具体的な摂取推奨量がわかっているのはたんぱく質だけだという。残りの脂質と炭水化物については、どちらをより多く摂取したほうがよいのかは、いまだに解明できていないと中村学長は話す。

「一日の推奨カロリーを摂取するために、低炭水化物食にすると相対的に高脂肪食となり、それによって改善する数値もあれば、悪化する数値もあるわけです。なので、例えば若い女性の間で(ダイエットなどとして)普及している『炭水化物はほとんど食べない』などの偏った食事では、健康を維持するのは不可能です」。

ご飯をはじめとする糖質を制限する「糖質制限ダイエット」は偏食を招き、結果として健康を害する可能性があるとして、警鐘を鳴らした。

栄養バランスを損なわない栄養摂取量とは

それでは、健康を損なわないための栄養バランスとはどのようなものだろうか。中村学長は、「極端に栄養バランスを崩さない食事の目安」として、総摂取エネルギーにおける各栄養素の割合を以下のように掲げた。一日の栄養摂取の目安にしてみてほしい。

たんぱく質: 13~20%

脂質: 20~30%

飽和脂肪酸: 7%以下

炭水化物: 50~65%

和食の「一汁三菜」のススメ

現代の日本人の食生活において、望ましい摂取量より少ないのが、食物繊維とカリウム。逆に過剰摂取気味なのが飽和脂肪酸とナトリウム(塩分)だ。生活習慣病予防のためには、さらなる減塩と食物繊維の摂取が求められることになる。

ただWHO(世界保健機関)の調査によると、日本人の心疾患の発症率は世界各国の中で非常に低いという。中村学長は、これは米食によるものでないかと持論を展開。「ご飯は魚や納豆などの大豆製品との相性もよく、和食における『一汁三菜』の組み合わせは、魚や肉、野菜などさまざまな食材を使った献立となり、自然と栄養バランスがとりやすい食生活になるのです」と、ご飯を食べることを推奨した。

そして「これからも、ぜひこの『ご飯+一汁三菜』で、健康寿命を延ばしていただきたいと思います」と結んだ。