きらびやかなフィギュアスケートの衣装の秘密をご存じ? (画像の衣装は著者私物)

前回はフィギュア選手がこだわっているスケート靴についてお伝えしました。皆さんにとっても新たな発見があったかもしれませんが、今回は選手が試合をするときにこだわっているもう一つの道具「衣装」についてお話ししていきます。

衣装は選手の母親が手作りするケースもある

選手たちが着用する衣装は基本的にオーダーメードで、曲のイメージに合わせて作っていきます。例えば、バレエ音楽や映画のサウンドトラックであれば、演じる主人公が来ている服に似た衣装になることが多いです。そのため、使用する曲が同じ選手がいると、似たような衣装になることもあります。

男子はズボン着用を義務付けられたり、肌を露出しすぎたりしてはいけないなど、衣装にもルールがあるため、違反することのないように制作していきます。デザインは選手自身で考えたり、コーチや衣装担当のデザイナーと相談しながら作ったりとさまざまです。

トップ選手の多くはダンス衣装を作っている専門家にお願いをしていますが、原材料費以外の費用を抑えるため、自らのお母さんに衣装作成をお願いする選手も少なくはありません。衣装によっては、1着で数十万円ほどかかる場合もあるからです。

私も母が作った衣装がほとんどですし、ソルトレーク五輪4位の本田武史さんも、現役中はトリノ五輪の銅メダリスト、カナダのジェフリー・バトルさんのお母さんが作っていた衣装を着用していたと聞きました。子供がスケートを引退した後も好意で衣装を作ってくれる方もいらっしゃいますし、衣装作りを職業とはしていませんが、趣味も兼ねて衣装を作っている方もいらっしゃいます。

衣装によって減点されるリスクも

周囲の協力があって作られる衣装ですが、飾りが重すぎたり、スカートが極端に長かったりすると、ジャンプをしたときに遠心力で振り回され、軸がぶれることがあります。女性選手に髪の毛をポニーテールではなくまとめているのが多いのも、こういった理由からです。

衣装の飾りはスワロフスキーなどの石で彩ったり、モチーフを貼ったりして作成することが多いです。ただ、衣装や髪飾りの一部が氷上に落下すると1点の減点となるため、選手は衣装を作る際にも細心の注意を払います。

衣装は1シーズン、もしくは曲を変えるまで使用することがほとんどですが、そのタイミング以外で衣装を変える選手もいます。

安藤美姫さんは毎試合違う衣装で出場したことがありますし、町田樹選手は2シーズンにわたって「火の鳥」を演じましたが、シーズンごとに衣装を変えました。また鈴木明子さんは、昨シーズンの全日本選手権とソチ五輪とでは、ショートプログラムの衣装の色が異なっていました。どうやら、試合会場の色と合う色にしたようです。

衣装が変わると気分も変わります。衣装は選手のモチベーションを上げるアイテムのひとつといっても過言ではありません。

衣装は自身で保管したり、他人に譲ったりと人それぞれだ (画像の衣装は著者私物)

伊藤みどりさんから浅田真央選手へと引き継がれる衣装

小さい頃から競技をしていると、衣装はかなりの量になります。だいたいの選手は家で保管をしていますが、後輩選手に譲る場合もあります。

浅田真央選手は、伊藤みどりさんの衣装を着て試合に出場していたこともありました。私も引退するまで衣装や練習着を全て保管していましたが、家で眠っているよりは、誰かに着てもらった方がいいのではという思いがあり、コーチになってから生徒や大学の後輩にほとんど譲りました。

フィギュアスケート選手は、使用曲に始まり、スケート靴や衣装と決めなければいけないことがたくさんあります。7月1日からは新たなシーズンも始まりました。ソチ五輪が終わって間もない今シーズンは、どんなシーズンになるのか予想できないため、今から本当に楽しみです。皆さんもぜひ、試合会場に足を運んでくださいね。

筆者プロフィール : 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。