――この作品の撮影を振り返って、多くの俳優たちが現場での即興劇が印象的だったと話していましたが。

株式ブローカー ジョーダン・ベルフォートの回顧録「ザ・ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」を基にしているし、テレンス・ウィンターが書いた脚本もある。その上で、レオと私は常に話し合いながら内容を変えていったんだ。どのように作っていったかというと、最終原稿をシーンごとに用意し、役者たちを集めて本読みを行い、そこで生まれた即興劇を加えていくんだ。例えば、ドニー・エイゾフ役のジョナ・ヒルが「僕は従兄弟と結婚したんだ」と話した後に、ジョーダン・ベルフォート役のL・ディカプリオが「それは子どもが生まれても大丈夫なの?」というシーンがあるんだけど、その後の返答に関しては、本読みの段階でジョナがアドリブで話したものなんだ。そういった具合に、「それはやり過ぎだ」、「それはいいね」とバランスをとりながらアドリブを織り交ぜて、作品を作っていったんだよ。

――あのシーンはアドリブだったんですね。

そうなんだ。そして「私にペンを売ってみて」というシーンがあるんだけど、あれもアドリブ。実はある日の夜、この作品の撮影をしているときにふたりの刑事が見学にきてね。その刑事がたまたまジョーダン・ベルフォート本人を知っていて、何年か前に彼と仕事の面接をしたというんだ。その時にジョーダン本人から「このペンを私に売ってみて下さい」と言われたという話を聞いてね。その話を聞いたレオは「それ、ちょっと使おうよ」と言い出し、映画のなかで使ったんだ。

――マーク・ハンナ役のマシュー・マコノヒーが劇中で歌い出す"賛歌"もアドリブだったんですよね。

あのシーンを撮影するため、照明などを準備していると、彼が歩きながら劇中のように歌っていたんだよ。彼は何をやっているんだ? 何を言っているんだ? と思っていたら、実はそれが彼の発声練習だったんだよ(笑)で、それを採用したんだ。

マーク・ハンナ役のマシュー・マコノヒー(右)の発声練習である"賛歌"に注目

――そのふたつの言動は、この作品のなかでかなり重要な要素であった印象を受けたのですが、アドリブだったとは驚きました。

アドリブだったり、ただジョーダン本人を知っている人が話したことを我々が発展させて、何度も書き直して本編に使っていったんだ。もちろん、色々なことをしてカットしてしまって実際の本編に入っていない部分もあるんだけどね。本当に素晴らしい即興演技の内容を編集でカットしてしまうのがとても難しい判断だったよ。

学歴も金もコネもないが、野心だけは売るほどあるジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、22歳でウォール街へ飛び込み、上司のハンナ(マシュー・マコノヒー)のブローカー哲学にド肝を抜かれる。やがて26歳で、ドニー・エイゾフ(ジョナ・ヒル)をビジネス・パートナーに証券会社ストラットン・オークモントを設立。一流企業の安全な株を売って信用させ、リスクの高い小型株を売りつけるというワル賢いやり口で富を成すが、36歳になった時、ついにFBIに証拠をつかまれ、センセーショナルな破滅が始まる

映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は現在、公開中。

インタビュー撮影:荒金大介(Sketch)