コンパクトカメラだからこそ、画質にこだわりたい

―― ISO感度の上限設定とは、文字どおり、ISOオート時に感度が上がりすぎないようにする設定ですよね。

(松永氏)「そうです。ISO感度をオートにしておくと、ちょっと暗い場所では一気に感度が上がってしまって、ノイズが増えてしまいます。ただ、カメラ側は手ぶれを抑えるために感度を上げるわけで、ノイズを嫌って感度を上げないと、今度は手ぶれや被写体ぶれの写真を量産してしまいかねません。

そこで、高感度による恩恵のバランスをユーザー自身の価値観で設定できるようにしました。大きく伸ばしたい人や三脚で撮る人はできるだけ感度の上昇を抑えたいでしょうし、L判プリントやブログに掲載する大きさなら、手ぶれ防止を優先して感度を上げても、ノイズがあまり目立ちませんから」

―― 写真や画質にこだわりを持つユーザーにも応える機能ですね。ZR300はマニュアル撮影機能も搭載するZRシリーズのフラッグシップですから、こういう機能はユーザーにも歓迎されるのでは。

(西坂氏)「ええ、ISO感度の上限設定は、画質を重視する一眼レフなどの高級機に付いている機能です。カシオが作っているのはコンパクトカメラですが、むしろセンサーやレンズのサイズに制限があるコンパクトカメラだからこそ、画質にこだわりたいという考えなんですよ」(西坂氏)

―― そんな中、HSナイトショットではISO12800が使われていますね。

(松永氏)「本当はもっと高い感度も含めて研究をしていたのですが、検証を重ねた結果、現実的に使えるのがISO12800と判断しました。なお、HSナイトショットはZR20で初搭載された撮影モードですが、ZR300ではさらに性能が向上しています。おもにホワイトバランスですね。HSナイトショットを使う状況では光量が圧倒的に少ないので、そもそも拾える情報量がごくわずかなんです。色の情報もノイズに紛れてしまう状況下で、より正しく取得できるように精度を上げています」

―― 真っ暗な中で写るだけでも、十分すごいと思いましたよ…。

(松永氏)「ISO12800という超高感度は、やはり画質面で非常に高いハードルです。これを越えるためには何が必要かを、開発スタッフみんなで徹底して突き詰めました。露出の制御、色調と階調の表現、暗所でのピント合わせの仕組みなどなど…。みんなで知恵を出し合い、基礎的な技術すべてを鍛え上げていったのです」

―― プレミアムオート PROのホワイトバランスも強化されたとのことですが。

(松永氏)「単一光源でのホワイトバランスは、各社とも熟成されてきていて、EXILIMもかなり満足のいく色が出せていると思います。しかし、色温度が異なる複数の光源が同一画面上にある場合、いわゆるミックス光源下では、まだ一考の余地がありました。そこで、ミックス光源下でも正しい色が出せるようホワイトバランスを強化しました。

ミックス光源の場合、ホワイトバランスをどの光に合わせるのかをまず考えます。2つの光源の中間値を取ると、結局どっちつかずになって、よりダメな結果になってしまう。つまり、単一画面のホワイトバランスを調整するだけではダメ、ということなんですね」

ミックス光の比較例。一番右下がZR300の「プレミアムオート PRO」モードで撮影した写真だ。水銀灯の緑被りをクリアすると同時に電球色の再現性も高く、もっとも正確な色になっている

(松永氏)「例えば、水銀灯と電球(タングステン光)が同一画面上にあるなど、複数光源の色温度が極端に異なる場合が一番難しい。これを見ていただきたいのですが(と、比較写真を取り出して)、水銀灯に緑が被っている写真を見ると、水銀灯の光は緑色じゃないのに、何でこんな色になるの ? とユーザーは感じてしまいますよね。

この場合、ZR300のプレミアムオート PROでは、ホワイトバランスを調整して水銀灯の緑を落とします。と同時に、電球の色をエリア判定して、色が自然に出るよう調整するのです。ZR300は何もしなくてもベストなカラーになります」

―― これは、写真を撮る人は、みんな思い当たるんじゃないでしょうか。電球色はオートホワイトバランスにとって鬼門といっていいほど、正確な色が出にくいんですよね。それなのに、ZR300はビックリするほどきれいですね !

(松永氏)「あと、ミックス光の代表例といえばフラッシュ。ZR300のプレミアムオート PROでは、被写体に当たったフラッシュの光と背景の光の色をエリアごとに制御して、全体的に自然な色合いを出しています」

こちらはフラッシュ光の比較作例。女性が写った4枚のうち、右下がZR300。被写体と背景の明るさのバランスが明らかに優れている

―― こちらもキレイですね ! でも、どうやって被写体と背景を切り分けているんですか ?

(松永氏)「自動的に高速連写になる(HSマークが付く)場合があります。このとき、高速連写中は非発光で背景の色、最後の1枚は発光でフラッシュが当たった被写体の色を解析するのです。このおかげで、被写体と背景のホワイトバランスを別々に調整できる。さらに、ZR300では、連写ではない場合も、画像を解析してフラッシュ光の当たっている被写体と背景を切り分け、それぞれに最適なホワイトバランス補正を行っています」

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