2011年5月7日より全国ロードショーとなった新海誠監督の最新作『星を追う子ども』だが、6月23日(木)には、東京・池袋のシネマサンシャイン池袋において、「星を追う子どもスペシャルナイト Vol.4 『星を追う子ども』を論じる」が開催された。

4週に渡って開催された「星を追う子どもスペシャルナイト」も今回でひとまず最終回を迎えた

ここまでさまざまなゲストを招いて行われた「星を追う子どもスペシャルナイト」だが、今回の「Vol.4」でひとまず最終回。ゲストには首都大学東京教授で社会学者の宮台真司氏が登場し、新海誠監督と『星を追う子ども』をテーマに色濃いトークが繰り広げられた。

まずは作品を観た感想を問われ、「シュンが落下するまでのテンポは、従来の新海さんの作品とほぼ同じリズム」という宮台教授。しかし、そこからのテンポ、刻みがすごく速いのではないかと指摘し、「プロデューサーに尺を詰めろと言われて(笑う、本当は2時間30分の作品を、2時間弱にしたのではないか」との疑問を呈しつつ、その理由を新海監督に問う。

「プロデューサーからというのではなく」と苦笑いを浮かべつつ、映画そのものを「1分でも短くしたいという気持ちがあった」と語る新海監督。「観客の方のお時間をいただくわけでもあるので、短いほうがいいだろう」という思いに加えて、「アニメーションとはもともとテンポの速い物語だと思う」という持論を述べる。「限られた尺の中で、声と効果音と音楽と絵の情報を詰め込んで、(30分のTVシリーズなら)CMを抜かして20分ぐらいの作品でも、内容的には40分ぐらいあったと思わせる」という作り方の中、今回の『星を追う子ども』でも、「2時間弱の作品ですけど、3時間ぐらいの作品を見たような、ずっしりとした重みのあるものにしたかった」という胸のうちを明かした。

かつて宮台教授の講演を聴きに行ったことがあるという新海監督、「内容は覚えていないが、宮台さんの喋っていらっしゃる姿と、どこまでも理論的なお答えの仕方、その空気だけははっきりと今でも覚えている」と当時の印象を語る

それに対して、かつてアメリカのSFをモチーフにしたテレビドラマにおいて、同じような印象を受けたという宮台教授は、「今の20歳ぐらいの人たちにはテンポの速い時代の記憶がなく、社会のリズムはむしろ速くなっているが、作品の中の物語のリズムは、ドンドンと遅くなっているのではないか」と分析する。その意見に同意し、「特に邦画のリズムは年々遅くなっている」という新海監督。「今回ギリギリのテンポ感を狙ってみたが、ギリギりを狙いすぎたかなという気持ちが、公開1月半を経て、なくもないです」と語り、観客の中にも、取りこぼしてしまう部分がでてきたのではないかと反省しつつ、「でも、あのテンポの良さは、アニメーションの気持ち良さだったりもする」という見地から、今後それらを両立させるバランスを追求することへの意欲をみせていた。

さらに宮台教授は、新海作品における、背景や美術の描き込みのすごさを絶賛。「光と影のダイナミックな動きと、感情の動きがシンクロする。その抒情が、恋愛模様の抒情ではなく、光と影の織り成す抒情となっているところに才能を感じる」と語りつつ、「ここではないどこかを夢見る」という主人公の感受性の働かせ方について言及する。

風景描写については、子どものころに過ごした土地での経験がいきているという新海監督。その当時の風景と、恋愛の苦々しさ、学生時代の生きる辛さの苦々しさが切り離せないと語り、「最初に思い出すのは、たとえば非常階段のような、何でもない場所の眺めだったりする」と思い返す。

そこで宮台教授は作品の中での描写に注目し、「アスナはお父さんがいないということで喪失を経験してはいるが、やさしいお母さんがいて、勉強もできて、周りの女の子、友だちからもそれなりにリスペクトされている。その女の子がどうして、『ここではないどこか』に憧れるのか?」という疑問を投げかける。

「その気持ちに関する説明は劇中ではなされていないのですが」と前置きしつつ、「それなりに恵まれた環境にいても、それでも何か足りないと思い続ける気持ちというものがあると思う」という新海監督。「アスナはアガルタに行って、何に気づいたかと言うと、地上世界にいたときの自分の気持ち、『ただ寂しかった』という気持ちに気づく。地上世界にはいろいろなものがそろっているんだけれど、『ただ寂しかった』という気持ちだけには気づけなかった。僕も、寂しかったのかどうかはわかりませんが、知りたかったんですかね。その先にあるものを。自分の人生の先にあるものと山の向こうにあるものを重ね合わせてみていたのだと思います」。

また、「一人の女性を思い続けてしまう男性が、その女性を失ってしまったときにどうする」という共通のモチーフをどうしても自分の作品の中で使ってしまうという新海監督に対して、自身が新海監督の作品を好きな理由は、「無垢とかイノセンスという部分に関する何かを提示しているところ」という宮台教授。「ほかにも女がいるじゃないか、ほかにも男はいるじゃないか、そんなことは百も承知だ。しかし、百も承知だけど、やっぱりあの女しかいないという風に思うことでしか表れてこない世界ある。そういう意味では、新海さんの世界が光と影のゆらめきに満ちあふれていることと、主人公が一人の女のことを思うということが完全に、そして自然に結びついている。新海さんの人間関係的じゃない、まさに世界からやってくる抒情に対して開かれた感受性を擁護するためには、ああいった一途な男を擁護しないわけにはたぶんいかないんじゃないか」と分析した。

新海監督の作品の今後について宮台教授は、「僕が想像するに、新海さんの作品の中では、純粋さが、見かけ上は純粋に見えないけど純粋、みたいなところにいったりするのではないかという気がする」と予想する

映画が好きで、これまでたくさんの映画を観てきた理由として、「あまりにも現実がつまらない。『ここではないどこか』があるのではないか? そしてそれを告げ知らせてくれる映画があるのではないかといったアプローチをしてきた」という宮台教授は、「新海さんの作品が好きな男の子の中には、中学生時代の僕と同じようなアプローチの方がたくさんいるのではないかと思います。なので、『なんでこんなにつまらないんだろう』『ここではないどこかがあるはずだ』という感受性の結びつきを今後もビビッドに追求していただきたい」と要望。「そういうった学生的な感覚は年をとればとるど、僕にとっては貴重な思いになる」と締めくくった。


これまで4回に渡って行われた「『星を追う子ども』スペシャルナイト」だが、シネマサンシャイン池袋での公開終了もあって、今回でいったん最終回となった。シネマサンシャイン池袋をはじめ、ひとまず公開を終了した劇場もあるが、『星を追う子ども』は現在も各地で公開中となっているので、まだ観ていない人はもちろん、すでに観た人もふたたび劇場に足を運んで、作品にこめられた新海監督のメッセージをあらためて噛み締めてほしい。公開劇場の詳細については、『星を追う子ども』の公式サイトにて。