国交省でこの企画を担当した鉄道局企画室の北村茂昭さんに聞いてみると、「鉄男」「鉄子」というタイトルを付けたこと自体は、やはり「できるだけ注目してもらえるよう、昨今の鉄道ブームにある意味で乗っからせていただきました」ということだが、この企画そのものは、決して鉄道ブームに影響された単なる思いつきというわけではない。

国交省Webサイトに設けられた「鉄男・鉄子、みなさんの部屋」。7月1日から8月31日まで、鉄道に関するエピソードを募集し、10月の鉄道フェスティバルで大賞作品が表彰された

国土交通大臣の諮問である交通政策審議会の陸上交通分科会鉄道部会は、今年6月、「環境新時代を切り拓く、鉄道の未来像」と題された40ページにもわたる提言書を取りまとめた。これは、鉄道という交通機関のこの先10年を見据えたいわばグランドプランであり、現在の鉄道に関して解決しなければならない問題は何か、そして今後鉄道に何が求められるか、日本の鉄道のあるべき将来像が記された文書である。この提言に付帯する形で、

鉄道の未来を共に考え、鉄道文化を伝える良質の素材を共有すること等を通じて、鉄道に対する理解と共感を広げていくことを目指して、国土交通省において、「参加型 鉄道ホームページ」を開設することが適切である。
(同部会2008年6月19日)

との提案が行われた。国や鉄道事業者の視点だけでなく、利用者である国民の視点をもっと鉄道行政に採り入れなさい、という意味合いに読める。この提案を受けて実施されたのが先の「鉄男・鉄子」の企画だったというわけだ。

「役所の目では気付かない、利用者の方々の素直な意見を寄せていただきたいというのがねらいでした。日ごろ鉄道に関して考えていること、思いの丈を述べていただこうと。」と話す北村さんだが、当初は「そうは言っても、鉄道についての苦情窓口になってしまうのではないかという心配がありました」という。

しかし、フタを開けてみればそのような内容の投稿はまったくなく、鉄道の将来を真面目に考えた意見や、鉄道への愛情あふれるエピソードばかりだった(投稿内容はWebサイトで読むことができる)。

大賞には、鳥取県の若桜鉄道が有形文化財として登録されたことをテーマとした投稿が選ばれた。同線は1987年にJR若桜線を受け継いだ第三セクター鉄道で、利用者減により苦しい経営を強いられている。そのため、駅舎改築などの余裕がなく古い設備がそのままになっているが、この状況を逆手にとり、駅舎や橋梁、蒸気機関車時代の給水塔などを含めた若桜鉄道全体を登録有形文化財として申請。今年7月8日にこれが認められ、正式登録されたという。厳しい状況の中でも、伝統のある鉄道を何とかして残そうという地域の取り組みを伝えるエピソードとして、最優秀作に輝いた。

大賞作品に添えられていた若桜鉄道の写真。厳しい状況ながら赤字幅は少しずつ縮小しているといい、地方鉄道の今後の活路のひとつを示している