観光には良い面も悪い面もあるが、「持続可能であること(sustainable)」が求められると松浦氏は言う。観光の「良い機会」となる面として「ほかの国・地域の歴史、文化、社会を知ることができる」、「経済的利益を得ることができる」等が挙げられる。これは訪ねる側にも、迎える側にも言えることだ。

世界遺産が保護され、次世代へ受け継がれるには7点の脅威を意識しなければならないと力説する松浦氏

2007年、国際観光客は約9億人に達した。これに関する収入は約9億ドルで、サービス貿易の35パーセントを占めるという統計結果が出ている。今後も毎年4~5パーセントの増加が見込まれ、2020年には国際観光客は16億人になる予想だ。ちなみに、2007年の国際観光客のうちフランスを訪ねたのは約8,000万人。日本を訪ねたのは700~800万人に留まっているのが現状だ。

観光の脅威として、松浦氏は次の7点「自然劣化」「自然災害」「戦争・内戦」「人為的破壊」「経済開発の優先」「都市開発の優先」「観光事業」を提示した。

世界遺産に登録されると、観光客はおよそ20~30パーセント増加する。以前さほど人気がなかった石見銀山などは、世界遺産登録後、観光客数が10倍にも膨れ上がった。こうした例は各地で見られ、カンボジアのアンコールワットは、1992年の登録時には12万人ほどだったのが、2006年には100万人以上が訪れるまでになっているという。

観光客の増加は、経済的な利益をもたらす良いことである反面、遺跡や自然環境などへ影響を与える脅威ともなる。観光客の教育やマナーの向上など、その対応が必要となってくる。「世界遺産を守り次世代につなぐ責任」は、地域社会、国、そして世界にあることを松浦氏は強調した。観光の「脅威」にどのように対していくか。「持続可能であること」のカギはすべてそこにかかっている。