日本で最も人気のスマートフォンといえばアップルの「iPhone」シリーズであることに疑いの余地はない。だが世界中でそのような国は他に存在しないというのもまた事実である。なぜ日本では、これほどまでにiPhoneのシェアが高くなったのだろうか。

世界市場とは全く異なるiPhoneのシェア

今や多くの人にとって欠かせない存在となったスマートフォン。その中でも、日本で最も人気が高いスマートフォンといえば、アップルの「iPhone」シリーズだということに間違いないだろう。実際いくつかの調査を見ると、日本におけるiPhoneのシェアは5~7割に達しているとされており、日本ではiPhone、ひいてはiOSが多数派となっているのだ。

  • アップルのiPhoneシリーズは、日本で圧倒的なシェアを獲得するに至っている。写真は現在の主力機種である「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」

確かにiPhoneは、ハード的に見ても強いこだわりと洗練されたデザインで常に注目されているし、iOSと一体で開発がなされていることから、ハードとソフトとで統一感のある快適な使い心地が体感できる。他社のスマートフォンと比べても優れている点が多く存在するのは事実だろう。

そうしたことから現在も、iPhoneがスマートフォンの進化をけん引する存在となっているようだ。例えば昨年発売された「iPhone X」に導入された、画面上部に切り欠きのあるデザインや、顔認証による素早いロック解除、さらにホームボタンを排した独自のインターフェースなどは、他社のAndroidスマートフォンが積極的にフォローしており、iPhoneの動向を強く意識している様子がうかがえる。

  • エイスーステック・コンピューター(ASUS)が2月に発表した新機種「ZenFone 5」は、ディスプレイ上部に切り欠きがあるなどiPhone Xそっくりのデザインで話題となった

だが一方で、iPhoneは価格が非常に高いことでも知られている。実際、iPhone Xは10万円を超える価格が大きな話題となり、価格の高さや新規性の強さが裏目に出て販売の不振が伝えられているほどだ。

世界的に見ればAndroidがスマートフォン向けOSで8割以上のシェアを獲得しているとされているし、アップルのお膝元である米国でさえ、スマートフォン市場におけるアップルのシェアは30%程度。高額なiPhoneが飛ぶように売れ、5割を超えるシェアを獲得しているのは日本以外に存在しないのである。

ではいったいなぜ、日本ではiPhoneがここまで高いシェアを獲得するに至ったのだろうか。そのきっかけとなったのは、やはり「価格」にあるといえるだろう。

高額なはずのiPhoneが日本ではとても安い

初代iPhoneは2007年に発売されたが、日本のネットワークに対応していなかったことから、日本で最初に発売されたiPhoneは2008年の「iPhone 3G」からとなる。当時、iPhoneは非常に画期的な携帯電話として大きな注目を集めていたことから、日本でもアップルストアや、当時iPhoneの独占販売権を獲得していたソフトバンクモバイル(現在のソフトバンク)のショップには、数百人から1000人を超す大行列ができ、大きな注目を集めることとなった。

だが実は、その後iPhoneの販売は急速に落ち込んでしまったのだ。理由の1つは、当時iPhoneに強い興味や関心を示していたのが、ITやテクノロジーに興味がある30代以上の男性層であったため、市場が大きく広がらなかったこと。彼らがiPhoneを一通り入手したところで、iPhoneの販売がぱたりと止まってしまったわけだ。

そしてもう1つは価格だ。当時のiPhoneは世界的に人気が高く、あまり値引き販売がなされていなかった。それゆえ多くの消費者の目には、実質価格が安いフィーチャーフォンと比べ、iPhoneは高額に映ってしまったことから、興味があっても手を出すことができなかったわけだ。

そうした状況を大きく変えたのが、2009年にソフトバンクが打ち出した「iPhone for Everybody」キャンペーンである。このキャンペーンを適用すると、最も安価なモデルであればiPhoneを実質価格0円で購入できたことから、iPhoneに興味はあるけれど、価格面で手を出せなかった人達がiPhoneを購入するきっかけとなり、それがiPhoneの急速な販売拡大へとつながっていったのである。

その後、iPhone効果でソフトバンクに加入者が大量に流出した他のキャリアが危機感を覚え、iPhoneの販売をするようになった。2011年にはauが「iPhone 4S」の販売を開始したことで、一社独占体制が崩れた。これを機としてソフトバンクモバイルとauによる激しいiPhoneの値引き販売合戦が起き、その影響をもろに受けたNTTドコモが、毎月番号ポータビリティで10万を超える顧客が流出するなど不振を極めることとなったのである。

その結果、2013年にはNTTドコモが「iPhone 5s」「iPhone 5c」でiPhoneを取り扱うようになり、一層iPhoneを巡る競争が加速。高額であるはずのiPhoneが、キャリアの優遇措置によって一時はスマートフォンの中で最も安く買えるようになったことが、国内での圧倒的なiPhone人気へとつながっていったのである。

  • 2013年の「iPhone 5s」「iPhone 5c」でNTTドコモがiPhoneの扱いを始めたことにより、大手3キャリアが競い合ってiPhoneの値引き合戦を繰り広げるようになった

現在では総務省の指導などもあって、iPhoneの過剰な値引きはできなくなっている。だがそれでも3キャリアが、他のスマートフォンよりiPhoneを優遇して販売する傾向は現在も続いているため、iPhoneの優位性は崩れていない。iPhoneを扱っていないMVNOが高いシェアを獲得するなど、この状況を大きく覆す何らかの出来事が起きない限り、iPhoneが圧倒的優位であるという現在の状況が劇的に変わることはないだろう。