SIMカードの自社発行で何が変わるか

ひとつは海外におけるサービス展開である。たとえば、MVNOユーザーが海外に行ったとしても、そのユーザーのスマホに入っているのは、NTTドコモのSIMなどと認識され、その場合、海外の通信事業者はドコモの国際ローミングサービスで提供せざるを得なくなる。IIJが発行したSIMカードの場合、予めIIJが海外の通信事業者とローミングに関する取り決めを行っておけば、その取り決めに従ったサービスの利用が可能になる。

多様な通信サービスの提供が可能になる

もうひとつは、アプリとSIMカードの連携だ。こちらのほうがより身近なメリットとなるだろう。SIMカードは半導体チップを搭載したものであり、そのチップ上に、NFC(近距離無線)を組み込んだり、マイナンバーのデータを取り込み情報処理、認証をかけたりすることもできるという。MVNOによるおサイフケータイサービスの提供も将来、実現するかもしれない。

SIMカードにNFC機能を搭載することも可能に

こうした取り組みを進めれば、他社との差別化が可能になる。IIJではMVNE事業として、他社のMVNO事業のサポートも行っているが、IIJが自社でSIMを発行することによって、IIJから回線を借りるMVNOも恩恵を受けられるとのことだ。その意味で、他のMVNEとそれに関わる一群のMVNOとは差別化が可能になりそうだ。

この動きに追随して、他のMVNOもフルMVNO化を図れば、格安SIM新時代が一気に進みそうだ。しかし、そう簡単に事は運びそうにもない。問題は投資額である。IIJの今回の投資額は数十億円に上るという。投資額から見ても簡単に他社ができそうにない額だ。さらに、「多額の投資が必要なHLR/HSSの開放は、低廉な料金を嗜好する『格安スマホ』『格安SIM』とは親和性が必ずしも高くない」と、同社は過去に行った報道向け説明会において説明している。個人向けの格安通信を想定してフルMVNO化を図るのは、リスクが大きいようだ。

それでも、IIJがフルMVNO化に向かうのはなぜか。実は、IIJの本当の狙いが個人向けMVNOサービスとは別のところにあるからだ。