三方よしの音声広告手法

TBSラジオとDACがネットラジオで協力するかどうかは不明だが、仮にTBSラジオクラウドがFlexOne APEと連携すると、どのような広告配信ができるのか考えてみたい。例えば「ひげ剃り」の音声広告を行う場合は、配信先となる端末の持ち主が女性だと効果は薄い。FlexOne APEと連携していれば、端末の持ち主が男性と考えられる場合にのみひげ剃りのCMを流し、女性が持ち主と思われる端末には化粧品のCMを流すといったようなことが可能となる。

最適な音声広告を配信できる体制を整えることで、企業から広告を獲得したいメディア(この仮説でいうとTBSラジオ)にとって営業はやりやすくなる。1つの番組でも、リスナーの属性に合わせて異なるCMを流せるので、1番組あたりの広告収入に上限はなくなる。極端に言えば1番組で獲得可能な広告の数は無限に広がるのだ。

効率的に音声広告を流せる仕組みは、CMの無駄打ちを避けたい広告主にとってもメリットがあるだろう。リスナーにしてみれば、自身に関係の薄いCMが減るため不快感の軽減につながる効果も見込める。リスナー、メディア、広告主の全てに利点があるとするFlexOne APEの特徴をDACの砂田氏は「三方よし」と表現する。

ネットとの融合でラジオの価値を再発見

オールドメディアと呼ばれることもあるラジオだが、ネットラジオへの挑戦は、ラジオの広告媒体としての価値を改めて世間に示すチャンスとなるかもしれない。

地上波ラジオの聴取率調査では、「この番組はF1層(20歳から34歳までの女性)が何人くらい聴いている」といったような情報は集められるものの、同じF1層であっても置かれた状況や生活スタイルなどについては様々なケースが考えられる。FlexOne APEのようなアドサーバーと連携したネットラジオであれば、コンテンツの受け手について詳細な属性を把握することが可能。ネットラジオに取り組むラジオ局は、本放送のリスナー像を考える際にも、ネットラジオで得た情報を活用できる。

思い込みや先入観で「自社製品とラジオリスナーでは客層が違う」と判断していた企業であっても、詳しいリスナー情報を知れば、ラジオへの広告出稿を考えるようになるかもしれない。「ラジオには、可視化できていないユーザー層が存在していたと思う」と語る砂田氏は、リスナーの可視化が進むことで、ラジオ自体の媒体価値が向上するとの見方を示した。

日本のネット上に音声広告市場は誕生するか

革新的な音声広告手法を用意したDACだが、その仕組みを使うには、音声コンテンツが集まる大きなメディアが不可欠となる。例えばラジオ局が集結し、ネットラジオという大きなメディアを形成するような事態になれば、DACのFlexOne APEもその効果を発揮できるようになるわけだ。

どうしたら日本に大規模なネットラジオが誕生するか。ラジコが米国などと同じ意味でのネットラジオとして機能するようになるのが近道だと考えられるが、この道には高いハードルが待ち受けている。ラジコが独自広告による収益化を始めるには、コンテンツを供給している様々な権利者との間で交渉を進め、収入を分配するシステムを構築する必要があるからだ。

三方よしのFlexOne APEを展開するDAC。普及には音声広告を乗せられる場所、つまりは音声コンテンツが集まる大きなメディアが不可欠だ

ラジコが音声広告に対応するのがいつになるかは不明だが、豊富な音声コンテンツを持つラジオ局がネットラジオに取り組むことで、日本では現状でほぼないといわれるネット上の音声広告市場が生まれる可能性がある。現状のままではラジオ広告費の反転が難しいと考えるラジオ局が、率先してネットラジオに挑戦する意味は十分にあるはずだ。